家から追い出されました!?

ハル

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ジークの笑顔・・・それは本物?

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 やけどは薬を塗った翌日には赤みも引いて1週間経っても水ぶくれはできなかった。あの薬のおかげで酷くなっていないし、靴擦れにも効果があるらしく静江に返そうとしたら、あげる、と言われてプレゼントされてしまった。
 ただの居候みたいな私にこれだけよくしてくれる彼女と紘一には頭が上がらなかった。

「あの、今から出かけてきてもいいですか?」

 リオウに尋ねたところ、彼は最初こそ驚いていたもののすぐに笑顔になって二つ返事で頷いた。ただ、この家から大きな駅まで出るには車でないと不便だということで、車を出してもらうことになった。

 。。。のだが、なんと、運転席にジークが座っていた。
 昼食の時は何も言っていなかったし、私が許可を取った時はその場にジークはおらず、彼は仕事で外出中だったはずだ。日曜日もよく働くなと感心していたからよく覚えていた。
 今まで気づかなかったが、彼の秘書のような役割をしているのはリオウだけではなく、他に2人いるらしい。その2人はどういうわけか紹介もしてくれないから、全く面識がないがたまに業務連絡がくるので何となく名前は知っていた。驚いたことに、2人とも日本名だった。
 そのうちの1人を連れて、商談に行っていたはずで、そのまま昼食会だと聞いていたのに、彼は昼食前に帰って来た。それを見たリオウは青筋を立てており、こっちが引くぐらいには怒りを顕わにしていたのに、それすらも何のそのと気にしないジークは自室で着替えてすぐに席に着いた。
 彼の顔の面の厚さには脱帽だった。
 
 その昼食の時にも私は外出のことは言わなかったし、話題にも出てこなかった。ただ、ジークは外出先の会社のことと、その他の業務連絡をリオウに伝えた。それを聞いた彼は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。

『分かりました。徹底的にやります。』

 ねえ、その”やります”って怖い方ではないよね?

 私は聞こうにも聞けないワードについて考えながら、ご飯を食べた。
 そういう業務連絡を英語とかで話してくれればいいのに、彼らはなぜか日本語で話すのだ。
 ここにいて、彼らが外国の言葉を使った時は初対面の時と電話、おそらく外国人相手、対応の時のみで、普通の会話など極力日本語を使っていた。

 そんなこんなで、昼食を終えて今、車の前なのだが、そこで私は固まっていた。
 今、私が着ているのは制服、ではなく、静江の好意で彼女の孫が着ていたというお古のワンピースで、夏から秋への変わり目で少し肌寒くなるとストールを首に巻いた。

「あの、なぜ、そこにジークさんが?」
「え?僕が運転席に座っているのはおかしい?」
「いえ、そうは言っていませんが。」

 彼は質問の意図を本当につかめていないのか鈍感な振りをしているのか分からないが、全く違う答えが返って来た。後部座席には、初対面の時に見かけた3人のうち2人のボディーガードが座っていた。

 位置が逆では?

 なんて思ったのだけど、彼らは微動だにしなかった。

「早く乗らないと遅くなるよ。安心して、ちゃんとドライバーライセンスは持っているし、事故に遭ったことなんて一度もないから。安全運転だよ。」

 どうしてだろう、彼がそんな風に自信ありげに言うほど私の中で不安が募っていく。
 その上、後ろの2人の顔がどんどん青くなっていく。正直不安でしかないんですけ。
 しかし、ここで立ち止まっていても買い物はできないので、

「本当に大丈夫ですね?」

 と、念を押した。すると、彼は大きく頷いた。

「ああ、もちろん。」
「事故に遭って怪我したら、一生恨みますから。」
「へえ、それもいいね。」

 本当にぶれない彼にため息を吐きたくなった。

「大丈夫だよ、君に傷をつけるようなことはしないから。それに、今の君は一緒にいないと不安になるからね。」

 彼は私の方に顔を近づけて囁いた。その姿は傍から見れば、さながら王子のようだっただろう。見た目もメルヘンちっくだし。
 しかし、いざ、言われる側になると、顔を顰めてしまう。

「は?何言ってるんですか?せっかく外に出るついでに眼科行きますか?」
「いいや、異常はないから必要ないよ。」

 ハハッ、彼は笑った、それを抑えてから車を発進させた。

 なぜ、この人に運転を任せてしまったんだろうか。
 この時の自分の判断を私はすごく後悔した。

 以前、私が住んでいた家の最寄り駅に着いて車から出ると、私の足はフラフラと小鹿のようになっていた。

「大丈夫?ほら、どうぞ。」

 彼は助手席の開かれたドアの方に立ち、心配げな顔をして手を伸ばした。
 その余裕そうな顔は私を苛つかせ、彼の斜め後ろに控える2人の男性は同情の顔を見せた。

「いやいや、これの原因はあなたですよ!!」
「うーん、まあ、そうだろうね。」

 ニコッ
 彼は頬をかきながら笑顔で胡麻化した。
 
 一言で言うと、彼の運転はめちゃくちゃだった。普通に大通りを通ればいいのに、ナビの指示は全て無視で小さい道をひたすら通って行くのだ。窓すれすれに壁があり、何度怖い思いをしたのか数知れない。まさに、恐怖体験だった。心霊現象よりも何十倍も怖かった。それによって腰が抜けて私は立てないでいるのだ。
 
 ナビの意味ないじゃん!!
 せっかく、何度も進路変更をする運転手のために何度も最適な通路を教えてくれていたのに、それを全て無視された彼女、機会だから性別があるわけではないが、が哀れに思えてきた。

「帰りは普通に帰ってください。お願いですから。」
「まあ、遅くなったらそうするよ。」

 彼の曖昧な返事に思わず私は睨んでしまった。

「分かった分かった。帰りは大きい道を通るよ。」

 彼は何秒間か分からないが、その睨めっこに勝利したようで、彼は降参しそう言ってくれた。

「ほら、買い物に行くんでしょ。何買うの?」
「紘一さんと静江さんへのお返しです。」
「へえ。」

 私の返答に彼は感心したようだった。
 やけどの薬のおかげで助かったし、生活のほとんどを彼らがカバーしてくれているおかげで私は色んな勉強に打ち込めているのだ。今はなんとなく高校卒業検定は取ろうかと高校の勉強をしていた。

「じゃあ、僕も一緒に選ぼう。彼らには僕もお世話になっているからね。」

 彼は嬉しそうに笑って私の手を握り引いたのだった。

 私たちがやって来たのは駅のデパートだった。別にこだわりがあったわけでもなく、ここに入るのはまだ2回目なのでどんな店があるのか知らないが、大きな駅に隣接しているデパートは色んなお店が入っているし、ほしい物はだいたい揃うのでここに来ただけだった。

「候補とかあるの?」

 雑貨や本屋、楽器屋などが集まっている階を歩いていると、ジークが尋ねる。

 それにしても、手はいつ放してくれるのだろうか。
 日曜日の午後という人が最もでかける時間帯だから、結構な人がいるし、彼の容姿のせいですっごく見られて居心地が悪いんだけど。

 私が黙っていたからか彼は振り返って立ち止まった。

「聞いてる?郁美。」
「え?ああ、はい、まだ、具体的には決めてません。」
「そっか。じゃあ、無難に雑貨から探そうか。」
「それより、手を離してほしいのですが。」

 彼が歩き出そうとしたところを止めて言ったのだが、彼は離す気配がなかった。

「嫌だよ。せっかく、流れとはいえ、手を繋げているんだから。ほら、行くよ。夕方には帰らないといけないんだから。」
「それはそうですけどっ。」

 最後は強引に引っ張られて舌噛みそうになった。
 こんなに強引、いや、彼の場合はそんなレベルではない気がするが、こんな容姿の人が女子と手を繋げて嬉しいってあり得るのだろうか。
 彼の表情が本当かどうか分からなかった。

 あっという間に雑貨屋に着いた。

「ポットとかカップだと無難すぎますね。あの家に一杯ありますし。」
「そうだね。それよりも園芸用品の方がいいかもしれないね。あの2人は園芸が趣味らしいから。」
「そういえば、あの入り口のところの植物もきれいに手入れされていましたね。」
「うん、あれもあの2人がしてくれているんだよ。まあ、草がなるべく生えないように少しだけ薬を使っているらしいけど。もちろん、人に害がない程度でね。」
「そうなんですね。」

 彼と話しながら見ていたのだが、これといってパッとするものがなく悩んでしまった。
 結局、雑貨屋からは出てしまった。

「次の候補は?」
「うーん、どうしましょう。」

 何も思い浮かばず周囲を何となく見渡していると見覚えのある人達を見つけてしまい、サッと彼らが歩いている方向とは逆の方に体を向けた。それを不自然に思ったのだろう。ジークは私の後方にいるのだが、彼は両肩に手を置いた。

「どうしたの?」

 気を遣って声は落としていた。

「向こうから歩いてくるの、たぶん、私の元両親と彼らの実子です。」
「へえ、あれが、ね。」

 彼の声が一段と低くなった。
 私は彼らが早く通り過ぎるのをじっと待った。幸いにも、ジークの背中側から彼らは歩いているので私としては助かっていた。

 あんな仕打ちを受けたというのに、私は彼らに対面するのが怖かった。
 きっと無関心で無視をされることに耐えられないからだ。自分の無価値を思い知らされるような。
 そこにいるのに、誰にも見えていないような。

「大丈夫だよ。もう行ったから。」

 目を瞑っていた私にジークはそう優しく囁いた。

「ありがとうございます。」

 冷えていた体が一気に温かくなった気がした。

「帰る?結局決められなかったけど、またくればいいよ。」
「そうですね。無駄足にしてすみません。」
「いいよ。」
 
 そう言って笑った彼の笑顔は本当だと思った。気落ちしていたからか、何かに縋りたかったのか分からないけど、それが本物だと思った。
 そして、私は彼に手を繋がれていることが自然に思えた。

 帰ろうとその階から駐車場のある最上階に上がろうとしたとき、デパートの構内放送が流れた。

『本日はアルパにご来店くださりありがとうございます。1階の公共広場にて14時から手芸コーナーを設けますので、この機会にお立ち寄りください。』

 それを聞いた瞬間、私はジークの手を引いて登りエスカレーターから下りエスカレーターに向かっていた。
 細かい作業はそんなに得意ではないが、以前、マフラーを自分のために作ったことがあり、クラスの子から褒められた記憶があった。彼らのために何かを編んだら喜んでくれるかもしれない。

 1階のそのコーナーが開かれている場所には多くの毛糸や布、あとは、編み棒などがあった。どれもセール品なのか通常の〇割引と表示があり、品物によって値引き率が異なるようだった。

「手芸できるの?」
「はい、少し。」
「へえ、すごいね。僕の母も祖母もチャレンジはしたけど、途中で諦めたんだよ。フフッ。」

 何かを思い出すようにジークは笑った。

「いえ、そんな凝ったものは作れません。でも、これから寒くなりますし、ちょうどいいかと思いまして。」
「それはいいアイデアだね。僕にも編んでよ。」
「時間と材料に余裕があれば。」
「そっか。嬉しいな。」
「いや、だから、余裕があればと言っているじゃないですか。まだ、編むとは言っていません。」
「そう。」

 分かっているのかいないのか、彼はただ相槌をうっていた。
 この時すでに、さきほどの元両親のことなど頭にはなく、毛糸と編み棒を買い満足してデパートを出たのだった。
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