家から追い出されました!?

ハル

文字の大きさ
20 / 36

焼き芋をしよう

しおりを挟む
 秋の行事といえば、紅葉狩りや栗拾いを思いつく人が多いだろう。私はどちらも行ったことはないし、栗は小学校の時に給食で出た栗ご飯ぐらいしか食べたことがなかった。
 最近、秋が深まってきてもうすぐ冬に差し掛かろうとしていた。

「そうだ、サツマイモをもらったから焼き芋しよう。」

 仕事中になんだか難しい顔で考え事をしていたジークがテーブルを叩いて立ち上がり宣言したのだ。
 何の関係もなく、前置きなく発せられたそれに動揺せず、リオウは彼にプリントの束を渡して微笑んでいた。

「ええ、これが終われば好きにしていただいていいですよ。」

 その顔は般若のように見えた。笑っているのに、そんな迫力を感じた。
 この1か月半ほどジークとリオウと同じ空間にいて分かったことは、なんだかんだ言いながらも、リオウはジークの提案に対して決してノーとは言わないことだった。彼はジーク絶対主義的な部分があるから納得はできるが、普段は注意もするし警告もしていた。しかし、最後には彼のことを許してしまう、まるで、兄のようだった。訊けば年は6歳差らしい。

「あの、サツマイモをもらったって誰にですか?」
「そこ今は言わなくていいですよ、郁美さん。」
「はいっ!すみません。」

 気になったので尋ねてみれば、リオウがこちらに振り返って表面上は通常運転を装っていたが、顔だけで十分迫力があるのに、言葉は丁寧だけど、キレかけているのでは、と勘違いしそうなほど怒気が含まれており、私はすぐに謝りパソコンに集中した。そんな中でも目をキラキラさせてこちらを見るジークは強者つわものだと思う。
 しかし、今回はまずいと思ったのか、リオウに睨まれてからはジークも真面目に資料を確認して印鑑を押したりリオウに意見を言ったりしていた。今時電子印が流行りだったが、彼らは電子で見ると目が疲れるとかいう理由で資料は全てペーパー確認だった。
 ノーペーパーで環境に配慮した行動には適していないだろうが、仕方ないだろう。パソコンの画面から発せられるブルーライトは目に悪影響があるらしいから、健康面を考えるなら彼らのような働き方の方がいいのだろう。

 やっと、ひと段落して時計を見ればすでに夕方になっていた。夕飯まで小一時間程度だったのだが、ジークは焼き芋をする気満々だったようで、終わるなり私の腕を掴んで引っ張り部屋を出た。
 私はこけそうになりながらも何とか彼について行くとダイニングには、待ってました!、とばかりに、先日私が渡した、すでにお気に入りとなり毎日のように着ている、セーターを着た紘一と静江、が段ボール一杯に入ったアルミホイルに包まれたサツマイモを持ってスタンバイをしていた

「用意できた?」
「ええ、すでに準備をしてあります。火はまだですが、行きましょう。」

 紘一の言葉にジークは嬉しそうに笑った。
 焼き芋がそんなに好きなの?
 彼が焼き芋を頬張っているところを想像して、少し笑ってしまった。

「何?」
「ごめんなさい。何となく、ミスマッチだと思いまして。」
「何が?」
「ジークさんと焼き芋が。」
「そう?まあ、実は僕も初めてなんだけど。今回はこの国に長くいられるから彼らに秋の行事らしいことがないか訊いたら用意してくれたんだよ。」
「そうなんですか?」

 意外だった。確かに、1週間とかしか滞在しないとは聞いていたが、季節らしいことを好むとは思っていなかった。彼が規格外のお金持ちということは何となく察していたから、そういう人は季節関係なく自分のしたいときにしたいことをする人ばかりだと思っていた。しかし、その風流を大事にする人だと分かってホッとした。

 ?ホッとした?何で?

「ああ、そうだよ。さあ、行こう。郁美は焼き芋したことある?」
「いいえ、ありません。秋は読書に励んでいました。」
「それ、オールシーズンじゃないの?」
「まあ、そうですね。」

 ハハッ
 私はおかしくて笑ってしまった。
 さっき感じた違和感などどこかに行ってしまったほどに、どことなく馬鹿らしい彼との会話が面白かった。

「ほら、入れますよ。」

 ドラム缶の中に藁が敷かれていてそこにアルミに包まれたサツマイモを入れていたところにやって来た私たちに静江が言った。彼女の手伝いで私も入れさせてもらい、じっくりとイモが柔らかくなるのを待った。
 寒いのでダウンだけを取りに行ってきこんでから、再度戻ったが、まだイモは焼けていないらしい。

「結構かかるんですね。」
「そうよ。さて、私は夕飯の準備をしてくるわ。今日はそこで食べましょう。」

 彼女が示したのは、この裏庭を一望できる縁側だった。
 リオウはすでに座っており、紘一に出されたのか湯飲みを持っていた。すでにおじいちゃん化しているし、黒髪だからか、背後の雰囲気とぴったりだった。
 文句は言いたそうだったが、結局一番和んで楽しんでいるのは彼だったのかもしれない。
 私は苦笑して、

「私も手伝います。」
 
 とキッチンに向かう静江に言った。すると、彼女は一瞬ジークの方を見た気がしたけど、本当に一瞬だったので分からなかったが、すぐに笑みを浮かべて頷いた。

「じゃあ、まずは大根の皮むきからお願いね。」
 
 彼女に手を引かれながらキッチンに向かった。

 夕飯の献立は栗ご飯、玄米使用、あとは大根としめじのお味噌汁と鯖の塩焼き、あとは副菜でインゲンの白和えだった。
 これにサツマイモ、焼き芋を加えるので、豪華な秋の味覚大集合の食事となった。
 それらを縁側に運ぶとちょうど焼き芋が出来上がったようで、その焼き芋たちを回収した紘一とジークが戻って来た。

「郁美、焼き芋できたよ。」

 ジークはお皿に盛られた大量の焼き芋を見せながら嬉しそうに言った。
 おおー。
 私はそのドドンとした姿に感動した。嬉しいというよりも感心の方が強かった。
 そんな反応にクスクスと周りに笑われてしまったが、そんなそう思ったのだから仕方がない。

「今日は秋のものばかりですね。」

 リオウは並んだ食事を見て嬉しそうだった。
 今日だけは特別だと、紘一と静江も一緒に食卓を囲み、皆で美味しい、美味しいと言いながら食べた。
 その縁側からは紅葉した山も見えるので、私にとっては秋を全てこの日に満喫した気分だった。

 秋の肌寒さから息が白くなるほどの寒さに落ち込むまでそう時間はかからないだろう。
 ジークらはいずれこの国を出る。
 いや、こんなに長い期間の滞在は初めてだと言っていたから今が異常なのだろう。
 あと、どれくらい彼らとこんな穏やかで楽しい日常を過ごせるだろうか。

 最近はそればかりがふとした拍子に頭を過るのだが、散っていくしかない紅葉と消えていく藁から出ている煙を見ていてそんな思いが強くなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?

無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。 どっちが稼げるのだろう? いろんな方の想いがあるのかと・・・。 2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。 あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

処理中です...