家から追い出されました!?

ハル

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彼を信じてみる

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 都心部にある大きな公園で私とジークは並んでベンチに座り途中で買った弁当を食べた。平日ということもあり、人はほとんどいなかったが、逆に静かな空間が今の私には心地よかった。

「美味しそうですね。ジークさんのはどうですか?」
「ああ、とても美味しいよ。静江が作る料理と似ているな。」
「それは、静江さんが作る料理もおふくろの味だからですね。」

 そう言って、私たちは笑い合った。
 今回買ったお弁当はどこかの有名店というわけではなく、老夫婦が営んでいる小さなお惣菜店に並んでいたお弁当だった。本当はおにぎりとおかずを買おうとしたのだが、おばあさんの方が事情を聴くと『公園なら。。。』と言って勧めてくれたのだ。とても雰囲気の優しいおばあさんだった。
 ただ、このお店をチョイスした時に、後ろのボディーガード2人はギョッとしていたし、ジークもこちらを一瞬驚いたように見ていた。
 私も自分で選んで置いて言うのもなんだが、ちょっとミス?と思ったほどだ。それぐらいに想像した彼が弁当食べている姿は言い難いほどのミスマッチだった。しかし、案外、隣で彼が弁当を食べている姿を見ると、そうでもなかったようで、それよりも、素朴なものを食べているからか、変人の印象が薄れていく効果があったので驚いた。
 気付いたら、私は弁当のおかずを交換し、笑い合うまでに彼と普通に会話していた。
 天気もよく、あの心に引っかかっていた人達との縁を断ち切ったことで体が軽くなったから気分が高揚していたのもあるかもしれない。

「ジークさんはいつまでいらっしゃるんですか?」

 思わず、せき止めていたはずのものが零れてしまった。
 お弁当を食べ終わりお腹が満腹だったからだろうか。
 それとも、穏やかに時間が流れる自然を見ていて、何でも許されるだろう、とよく分からない理論に至ったのか、自分でもその言葉をその時発した理由はその後も分からなかった。

「いつまで?えーっとどこに?」
「決まっているじゃないですか。この国にですよ。」
「あー、そうだね。まあ、いずれは離れないといけないけどね。」

 やっぱり、そうなんだ。

 彼の苦笑ですとんと下りた。
 そして、その時期が迫っていることは言いにくそうにする彼の様子で何となく予想がついた。
 なんだかもの悲しさに襲われて前を見て自然を眺めようとしたのだが、「郁美。」と呼ぶ声にそれが阻止された。
 まるで、逃げることを許さないとばかりに、彼は徹底的に阻止してきた。
 立ち上がった彼は私の両側に両手を付き、少し前かがみになり私との距離を詰めてくる。
 いつもプライベートスペースがバグっている彼にならされてしまい、この距離を何でもなくなってしまった。

「どうして、突然そんなことを訊いて来たの?」

 彼はにっこりと笑みを浮かべた。
 
 こういう笑みを浮かべている時、彼が心の中で怒っていることはこの数か月でなんとなくわかった。
 黄色信号を飛び越えて赤信号に切り替えてしまったらしい。

「なんとなくです。日本には1週間滞在がほとんどだと聞いていましたから、おそらく、先日からかかってきている電話は催促だと思っただけで。」

 私は顔を背けて何とか彼から離れた。
 距離はほとんど変わらないのだが、真正面から彼と向かい合うと何かを口走ってしまいそうで怖かっただけだ。
 その正体がわからないからさらに恐怖は増した。
 自分の気持ちが自分で分からないのだ。
 
 怒り、悲しみ、もどかしさ
 
 あー、自分は欠陥だらけだ。

 こういう時、思い知るのだった。あの人達は今思うと、良い親だったとは口がさけても言えないけれど、それでも、彼らが陰で言っていたこと、思っていたことは事実だと。
 いくら、ジークたちが私を褒めても、その本質は変わらないのかもしれない。

 まだ、1言も発さないジークも怖くて私は目をぎゅっとつぶった。

「つまり、君は僕と離れることが嫌だ、ということだね?」

 数秒後、彼の声が鼓膜を振るわせた。
 その声は喜びの声音に聞こえるのだが、聞き間違いだろうか。
 それに確信が持てず目を開けられなかった。
 すると、彼に向けている耳の方にそっと近づく気配があり驚いて目を開けた。

「Ich werde dort seub(君の傍にいるよ)」

 その瞬間、彼が囁いた。
 言葉がやけに耳に残り、その意味を理解した瞬間、カッと顔が赤くなってしまった。

「そんな気の遣われ方要りません。もうあんな思いをしたくないんです。だから、これ以上私に期待させないでください。」

 私の心の蓋がその羞恥とともに外れた。
 すると、彼はこちらを笑みを浮かべて見てきて、そのまま両側に置いていた手を私の背に回した。
 彼の大きな体が肌寒い空気を防ぎ、心地よい温かさをもたらした。

「期待していいよ。僕は君を離さないって決めているんだ。それに初対面の時に僕は君に言っただろう?

『君、気に入った。うちにおいで。いや、連れて帰る!!これ決定!』

 ってさ。連れて帰るんだから手放すわけないよ。そんな不安は無駄だから今すぐ捨てるといい。」
「それは私がお気に入りの玩具のようだからでしょ。いつか飽きるんですよ。人形遊びは。」

 元両親にとってそうだったように彼もいつまでも気持ちが続くとは思えなかった。

「あんな人達と同じにされるのは心外だね。僕の執着が強いのはリオウに聞いていると思ったけど、違った?」
「そういえば、そんなようなことを言われた気もしますけど。」

 彼に言われて、最初にあの家に招かれた夜にリオウと話した内容に思い当たった。

「じゃあ、これから信じてもらえるように努力するよ。それと、日本離れる時は君も一緒だから。手続きなんかは心配しなくていいよ。その辺はこちらの方が得意だし。」

 彼はまだ私を抱きしめながら、そして、なぜか小さい子をあやすように背を軽く叩いていた。
 私はもうすぐ17歳で子供ではないんだけど。
 そんな不満を言いたい反面、それに安心させられる。

「さて、じゃあ、帰ろうか。」

 数分抱き着いて気がすんだのか、離れた彼はこちらに手を差し出した。その流れるような仕草はまさに外国人という感じだった。日本男児にこれをやれ、と言っても、ここまで様にはならないだろう。
 そして、それを取る自分がいた。
 今まで、ほとんどスルーだったけれど、彼の言葉を、そして、彼の一番近くにいた人の言葉を信じてみようという決意を表してみた。
 それに驚いた顔を一瞬見せたがすぐに笑みを浮かべた彼は私の手を握った。

 その手は強く大きく私のそれを包み込むようだった。

 そこできれいにエンディングを迎えられれば良かったんだけど、帰りに爆弾が落とされた。
「そう言えば、あの人達に婚約者と言っていましたけれど、そんな嘘をあんな人の目があるような場所で言っても良かったんですか?」
「ああ、良いんだよ。君のことをそうマスコミに流してもいいぐらいに僕の家族の方は準備万端だから。あとは、君の心次第だったんだけど。こんなに早いなんて夢のようだよ。」
「え?」

 マスコミ?家族?
 やはり、彼はこちらの言葉が通じない、そして、凡人には理解できないことをしでかす変人のようだ。
 彼から飛び出す新情報に頭が追い付かない。

 波乱の予感です。
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