雨の庭で来ぬ君を待つ【本編・その後 完結】

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《その後》二人で見た海であなたを待つ

君を守るということ、君を愛するということ 13

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「何、言って――」
「今日、昼間に記者が来ていたって聞いて。それでずっと心配していました。帰りに春日井さんを見かけて、それで追いかけて来たの。春日井さんのこんな姿、もう見ていられないです。どうして春日井さんみたいな人が、こんな風に痛めつけられなくちゃいけないの? 一番辛い時に、あなたが一番苦しい時に、あの人はそばにてくれる人じゃない!」
「離してくれ……っ」
「嫌です!」

背中に抱き付く彼女を振り払おうとしたら、より力を込めて来た。

「春日井さんが、あの人の事を本当に大事に想っていることは知っています。あの人に迷惑かけたくないんですよね? だから、離れるんでしょう? だったら、私を連れて行ってよ。一人よりましだよ。あの人の身代わりでいいです。私のことなんて好きじゃなくていい。寂しさを埋め合わせるのに使っていいから。春日井さんを一人にするよりよっぽどマシです!」

捲し立てる清水さんの声が、僕の感情をすり減らし昂ぶらせていく。

「私には捨てて困るものなんて何もない。守らなくちゃいけない家族もいないし、仕事だってどうせバイトです。あの人と違って私になら、何の罪悪感も感じなくていいんだよ。だから――」

その腕が、絶対に離さまいと僕にしがみつく。これまでの人生、惨めなことばかりだったけれど、今ほど惨めな気持ちになったことはない。

「それ以上馬鹿なことを言うのはやめてくれ。頼むから、一人にしてくれ!」
「絶対に嫌です! 一人にしたら、このままどこかに行ってしまいそうだもん。そんなの嫌なんです。だって私、春日井さんのことが――」

僕に触れるその体温が、身体中を虚しさでいっぱいにする。その体温が、それではないと僕に知らしめる。締め上げられるみたいに、苦しくなる。

「――寂しさを紛らわせたいなんて、僕は思わない。傷を舐め合う相手もいらない。彼女を苦しめておいて、そんなもの欲しいとも思わない。だから、僕に、そんなこと言わないでくれ」

彼女以外の人の体温を、この身体は拒絶する。それが僕を苦しいほどに切なくさせて。昂ぶった感情のままに清水さんの肩を掴み、僕から引き離した。そしてぶつかったその視線は、大きく見開かれ、歪んでいた。

「僕が、心から笑えるのも、心が揺さぶられてどうしようもないのも、触れたいと思うのも、叶わないと知っていてもこんなにも苦しくなるのも、彼女しかいないから。僕の中に、誰かが入り込む少しの余地も残ってないんだ。ずっとずっと、この先も!」

――僕の人生で、これまでもこれからも、愛する人は君だけだ。

僕は、そう未雨に告げた。先のことなんて、誰も分からないのに。どうして、僕はそう彼女に言い切れたのだろう。ほんの二か月足らずしか在校していなかった高校で、たまたま出会って、その時、僕が初めて恋をした女の子だった。綺麗な目をしている子だと思った。図書室で二人で過ごす時間が愛おしかった。この時間が永遠に続けばいいと思った。でも、それだけで、恋と呼ぶには心許ないものだったのに。それなのにどうして、僕の中にずっと未雨がいたのか。
 悔しくて、苦しい。どうして僕には、未雨を守る力がないのか。どんなことからも守れる強い力を持っていれば、彼女を連れ去れるのに。僕は、こんな風に愚かな涙を零すことしか出来ない。

「……春日井さん、分かってるよ。でも、私をそばに置いてよ。それだけでいいから」

あろうことか、振り払ったはずの清水さんが僕の真正面に座り込み、僕の頬に指を伸ばす。その指が僕の目元に触れようとして、反射的にその手を避けようと顔を背けた。それと同時に、彼女の腕が僕の首に巻きついた。

「弱ってる時は、誰かに頼っていいんです。無理しなくていい。強がらなくていいんです。寂しいと思ったっていい。何も考えずに流されていいんです。触れ合えば、忘れられることもある。男の人は、そうやって癒される。何も悪いことじゃない。だから――」

そうやって、これまでも、自分の寂しさを埋めるために男に身体を差し出して来たのだろうか。心じゃない、身体で触れ合うことで感じるものだけで満たして来たのだろうか。浮かぶ感情は虚しさだった。

「いい加減にしてくれ――っ」

その身体に手をかけた時だった。

「太郎さん……!」

その時聞こえた声は、幻聴だと思った。もしくは聞き間違いか。でも、僕は、未雨の声を聞き間違えたりはしない。

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