雨の庭で来ぬ君を待つ【本編・その後 完結】

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《その後》二人で見た海であなたを待つ

君を守るということ、君を愛するということ 16

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 狭い布団の中で、未雨を腕に抱きながら、言葉を交わす。

「どうして、君は、僕を好きになんかなったんだろうな……」

つい、いつも不思議に思っていたことを呟いてしまった。

「そんなの、全部、太郎さんのせいでしょ?」
「僕の?」

腕の中で、まどろんでいたはずの未雨が顔を上げて訴えて来た。

「そうですよ! よくよく考えてみてください」

そう言って、未雨が口を開いた。

「出会ったばかりの頃は、どう人と関わっていいか分からなくて感情も乏しかった私に、いつも笑いかけてくれて話し掛けてくれて。笑わせてくれて。この人、ふざけてるのかって思ったら、不意に真面目な顔で励ましてくれたりして」

未雨が何故か少し怒ったように僕を見ている。

「大人になって再会した時は、雰囲気が全然違う人になっていた。その時は、太郎さんの身に起きたことを知らなかったから、どうしてそんなに影をまとうようになったのかなって気になった。それでもやっぱり昔みたいに優しく微笑んでくれる。私をいつも励まして。穏やかで静かな人だと思っていたら、いざという時には何のためらいもなく私を助けてくれた――。ミステリアスで優しくて、内に情熱を秘めていて。そんな人がそばにいて、好きにならない女はいるでしょうか!」
「え……あ、ああ、でも、それはあまりに過剰な評価じゃないかな。僕は、そんな大層な男では――」

未雨の言葉に、僕は驚きと疑いとで、ついそう言ってしまう。

「そういうところです。自分で意識していないところが、余計に心を奪われるんです。だから、あの人だって……」

語尾が弱くなったと思ったら、未雨がそのまま僕の身体に覆いかぶさって来た。

「太郎さんは、自分が思っている以上に何倍も魅力的な人なんですよ。あなたみたいな人に惹かれてしまう人もいる。でも、だめです。誰にも渡しません」
「未雨……」
「太郎さんが、もしも、他の人と――そう考えただけで、私、人格変わってしまいそう。それを今日知りました。本当はもう、居ても立っても居られなくて。それを隠すのが大変だった」

清水さんのことを言っているのだろうか。

「……未雨は、どんな風に変わるの?」

僕の胸の上に頬を寄せる未雨の黒い髪をゆっくりと撫でる。

「太郎さんを部屋に監禁します。他の女から隔離するの。それから、どうしよう……」

真剣に悩む未雨に、僕は思わず笑ってしまう。

「笑っている場合じゃないです」
「だって、君、そんなことしないだろう? さっきだって、自分だけさっさと行ってしまったじゃないか」
「あれは――」

焦る未雨を抱きしめた。

僕の可愛い人――君になら何をされてもいい。

「君は、僕を縛り付けたりしない。自分のことをわがままで自分勝手な女だって言っていたけれど、君は結局、僕の意思を優先したんだよ。自分の想いは伝えるけど、決して縛り付けたりしない。だけど――」

 未雨の剥き出しの肩を掴み、その顔を上げさせる。そして、未雨の目を見つめて言った。

「僕は、未雨になら、縛り付けられてもいいよ」
「太郎さん……。私がこんなにも太郎さんを好きになったのは、全部あなたのせいだから。私は、心が綺麗でも優しい人間でもない。狡いところもある。だから、わざわざ重いものを背負っているような人と一緒にいたいだなんて考えない。それでも、私があなたと一緒にいたいと思うのは、太郎さんだったからだよ。だから、その責任を取ってください。私を、こんなにもあなたを好きにさせた責任を取って――」

責任を取って――それは、未雨の、最大限の僕への抗議かな。いや、違う。

”苦しむ分だけ、罪悪感を感じる分だけ、私を愛して”
”責任を取ってください”

それは全部、僕に後ろめたさを感じさせないため。これから起こるであろう様々な困難に対して、結局僕に罪悪感を持たせないための言葉だ。苦労させてまで一緒にいるのは未雨のため――そう僕に逃げ道を作るためだ。僕は、未雨をそのまま抱き寄せる。

「じゃあ僕も君に責任を取ってもらうよ」
「え……?」

未雨が、きょとんとしたような目を向ける。

「君を手放せなくなった責任を取ってもらおう」
「……はい!」

すべてを察したように、未雨が腕を僕に回す。

 未来は決して、容易じゃない。幾度、涙を流せば、苦悩すれば済むのか分からない。でも、暗闇の未来にある、一筋の光を道しるべに、躓きながらも歩いて行こう。

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