84 / 84
epilogue
epilogue
しおりを挟む休日の昼下がり。柔らかな陽の光が降り注ぐ。
「今度、美久が遊びに来てくれるって」
「それは嬉しいな。僕も会いたい」
まだまだたどたどしい歩き方の光樹の手を、私と和樹さんとで両脇から手を繋いで、よちよちと公園へ向かっていた。
「そろそろ若林さんを安心させないとな」
「うん」
美久に連絡できずにいた時期があった。生活が落ち着いた頃にこちらから連絡した時には、こっぴどく怒られて。そして泣きながら喜んでくれた。いつも私を支え励ましてくれる存在だ。
「いつも助けてもらっていたから。今度は私も美久の助けになれるといいな」
「寄り添う気持ちがあれば支えになれるさ。柚季ならできる」
ふわりと包容力に満ちた笑をくれた。
「光樹もそう思うよな? ママはとっても優しいもんな」
「ぱーぱ!」
光樹に視線を合わせるように身を屈めると、光樹が突然叫んだ。
「今、パパって言わなかった?」
「そうですか?」
「絶対、そうだよ!」
和樹さんが興奮する。
「パパって、言った? そうだよ、『パパ』だよ」
大きく口を開いて発音してみせていた。
「ぱーぱ」
「そうだ。えらいぞ。光樹はえらい」
「ぱ、ぱ、ぱ、ぱ」
どれだけ嬉しいのか、和樹さんが光樹を抱き上げて頬ずりしている。
休みの日には三人で公園に出掛けて、こうして笑い合う。そんな日常が、どれだけ特別で幸せなことか。これから先も忘れないでいたい。
「――柚季」
光樹を抱っこした和樹さんが私を呼ぶ。
「凄く幸せだよ。柚季のおかげだ」
「私も、和樹さんに出会えてよかった」
ダメな自分も弱い自分も嫌と言うほどに知った。誰かを傷つけ、傷ついて。苦しいことも、辛いことも、たくさん経験した。
それでも私は、和樹さんに出会えて良かったと心から思える。
大学生の時、初めて恋に落ちた瞬間を今でも鮮明に思い出せる。私は和樹さんに恋をした。ずっと変わらず好きだった。
「私、すごく幸せです!」
思いっきり笑う私を見て、和樹さんがたまらなく嬉しそうに目を細めた。
【完】
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
44
この作品の感想を投稿する
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる