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第13章 むっつり好青年は必死

No,143 隼人と別れたその夜①

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【これは大学4年のお話】

 僕はフッとひらめいた。
──うつ伏せのまま、自分の腰のタオルをサッと外した。

「ねぇ、隼人?僕のおしりを見てくれる?」
 そう言いながら隼人の方に顔を向けた。

「え?」
 と隼人は目を丸くする。

「彼女と僕と、どっちのおしりが白いと思う?」
 ニィ~ッと笑って問いかけた。


(どうする?隼人?)


 実はそんな答えなんてどうでもいい。
 僕が聞きたいのは──

「そんなの分かんないよ~。彼女のおしりなんて見たことないし」
──って!

 やっぱり!!
 こいつ、童貞確定!!!

 途端に隼人が可愛くなった。
 三つも年上なんて関係ない。
 僕の気持ちは180度変化した。

 彼女とは純愛?
 隼人ひとりの思い込み?
 もしかして、彼女なんていやしない?

 見栄?
 虚勢?
 ゲイ隠し?全然「隠し」になっていないけど。

 何にしてもどうでもいいや。

 隼人、僕が何とかしてあげる。楽しい初体験にしてあげる。だって、初めてがこれじゃあんまりだよね。可哀そうすぎるよ。
 男の生理はよく分かってる。あんな風に漏らしちゃうだなんて、少しも気持ち良くないし不完全燃焼。

 いいよ?隼人……僕が最高に気持ち良くしてあげる。僕が知ってるあんな事も、僕の得意なこんな事も、何もかも全部してあげる──。

 人の気持ちって分からない。
 自分の気持ちも分からない。
──僕は隼人の頬を手の平で包み、そっと静かに唇を寄せた。


「…………理久?」

「黙って……」


 僕が優しくしてあげる。
 とことん、可愛がってあげるからね…………


 休憩時間を延長した──。


※──────────※


 僕はさっさと身支度を終えた。隼人はベッドで、まだボーッとしてる。

「隼人、入る時は誰とも会わなかったけれど、帰りはどうか分からない。僕は一足先に出るからタイムオーバーしないように気を付けて…」
「え?別々に出るの?」

「うん。廊下で男同士のカップルになんて遭遇したら、普通のカップルを驚かせちゃうよ」
「外で待っててくれるの?」

「そのまま帰るよ。今日の事はこれで終わり」
「え?次は?次はいつ会ってくれるの?」

「彼女のいる人とはもう会わない。彼女に悪いよね?」
「あ、うん……。でも、これっきりなんて……」


 僕はフッと微笑んで隼人を見た。


「本当の事を言うよ。実は僕にも彼氏がいるんだ」
「え!理久に彼氏が?」

「おいおい、自分の事を棚に上げてそんなに驚く?」
「そうか……だよね……理久になら、彼氏くらいいるよね」

「その彼氏がとんでもなく焼きもち焼きで泣き虫だから、隼人との事がバレたら大泣きされる」
「……そうなんだ」

「だから、ね?……お互いの恋人を大切にしよう」
「え、でも、初めてだったのに、もう会えないなんて嫌だよ」


(言ったなこいつ!!やっぱ初めてだったんだ!)


 しかし何と言うか、口が軽いのか、頭が軽いのか……
 やっぱ、嘘のつけない人なんですね。

「僕の名刺捨ててないよね?もし気が変わったらいつでも連絡して!」
「ごめん、隼人。僕から連絡は、もう絶対にしないから」
「やだよ!じゃ、せめて、何か僕にもチャンスをくれよ!このまま別れるなんて僕は嫌だ!」

(……案外ねばるな。彼女が彼女がって、また気取った態度を取るのかと思ったけど)

 フッとすきを見せてしまった。

「二丁目のフラッシュって店に時々行く。縁があったらまた会えるかもね」

 僕は隼人を置き去りにして部屋を出た。

 宝塚をはぐらかしたり、彼女を持ち出してノンケのふりをしたりと、その見え透いた言動にムカついたからこその意地悪な挑発だった。
 けれど誘惑したら乗って来られちゃって、途中から何だか情が湧いてきちゃった。


 隼人──三つも歳上って言うけれど、可愛い……


 ハッと我に返る!!!

 いけない、いけない!
 僕は今、浩一と付き合っている。数日後には会う約束だ。
 不埒な自分を叱らなくっちゃ!


 さよなら、隼人。
 彼女と幸せになってね。
 僕とはもう、二度と会う事もないだろうから。

 外は既に暗くなってた。駆け足で駅に向かう。

──なぜか、少しだけ目が潤んだ。


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