《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

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21   皇帝陛下謁見

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 初めて、メイドにお風呂に入れてもらった。

 気恥ずかしい。けれど、こんなに気持ちがいいなんて、知らなかった。

「頭の怪我がありますので」という言葉に、甘えたのだ。

 確かに、自分では頭の怪我は見えない。

 説得されて、「それならお願いします」となった。

 暑い季節なので、少しひんやりする水浴びのようなお風呂だった。

 シャワーで、シャボンは流れて、気持ちがいいのだ。

 お風呂に入ったとき、お腹を見れば、お腹に痣ができていた。

「お腹を蹴るなど、悪質です」とメイドは怒っていた。

 わたしの代わりに怒ってくれて、嬉しかった。

 水浴びのようなお風呂に入ると、今度は体を拭いた後、バスローブに着替えて、肌の手入れと髪を梳かし、髪を乾かしてくれた。

 ドゥオーモ王国のシャンプーとは違うのか、洗い上がりがサラサラしている。

 シャンプーの後に、髪がしっとりするようにトリートメントされて、見違えるように綺麗になった。

 お化粧は、口の端に傷があるので、しない方がいいと言われたので、肌を整えただけだ。

 けれど、見違えるように綺麗になった。

 よく寝たお陰で、目の下にあった隈はなくなり、顔色がよくなった。

 お化粧で隠さなくても、素肌のままで美しいなんて、今までなかったことだ。

 よくよく考えれば、わたしはまだ16歳だ。

 どうして化粧を始めたのかを思い出した。

 ペリオドス様に、目の下の隈がみっともないと指摘されたからだ。

 隈がなくなった今、化粧などせずとも美しかった。

 紅を少しさしてもらい、メイドは満足した顔をした。

 ドレスは、持ってきたうちで一番綺麗なドレスを着た。

 地味かもしれないが、わたしが持っている中で、一番、綺麗な物だ。

 それを身につけて、靴を履くと、出掛ける準備はできた。

 まるで、着替えるのを待っていたように、クラクシオン様が部屋に迎えに来た。


「綺麗になったね」

「お待たせしました」


 よく見ると、クラクシオン様の髪色とわたしの髪色は同じでした。

 今までくすんで見えていたのですが、帝国のシャンプーで洗ってもらったら、髪色が明るくなりました。

 瞳の色もよく似ているので、なんだかお兄さんのように感じます。


「では、参ろうか」

「はい」


 今日はガーゼを外しています。

 殴られた頬は、痣になり、唇の端に傷もありますが、ガーゼを張るより目立ちません。


「父は、マリアナに会うのを楽しみにしている」

「記憶がなくても、許していただけますか?」

「戻ってきたことが嬉しいのだ。そう心配するな。過去の記憶がないのは、マリアナの責任ではない。自分を責めてはいけないよ」

「はい」


 クラクシオン様は、わたしの手を繋いでくださる。

 胸がドキドキします。


「頬が赤くなったね」

「手を繋がれたのは、二度目ですが、とても緊張してしまいます」

「誰とも手も繋がなかったのか?」

「はい、わたしに触れる方はいませんでした。クラクシオン様が視察に来られたときに、初めて、わたしに触れてくださいました」

「そうか、寂しかったね」

「はい、とても。でも、今はクラクシオン様がいらっしゃいます」

「もう、寂しい想いはさせない」

「ありがとうございます」

「そこは、ありがとうでいいんだよ」

「はい」


 宮殿の中を進んで行きます。

 宮殿はとても広く、わたしが宿泊しているエリアと別棟のような気がします。外には出ていませんが、長い廊下が続き、階段も上がったり下りたりします。


「敵の侵入を防げる建物になっているのだ。皇帝が住んでいるエリアは、宮殿の奥にあたる」

「毎日、生活をするのは、大変そうですわ」

「客人が来たときは、今、宿泊しているエリアに住んでもらう。そのうち、部屋の引っ越しをしてもらう。客人が帰ったらね」

「お客様をもてなすお部屋でしたのね」

「ペリオドス王太子とジュリアン殿が、どんな動きをするのか、分からないから。部屋は離してあるが、乗り込んでくる可能性がある状態では、下手したら皇帝陛下相手に馬鹿な真似をする可能性がある。そうなったら、ドゥオーモ王国の存続すら危険になる」

「配慮いただきまして、ありがとうございます」

「マリアナの部屋は24時間体制で、護られている。メイドも腕の立つ者が付いている。どうか安心して欲しい」

「腕の立つメイドですか?凄いわ。実は、わたしも腕が立ちますのよ。うっかりペリオドス王太子をやっつけたこともありますの。自尊心の塊のようなお方なので、それ以来は、手加減しておりますの」

「それは、今度、手合わせをしてもらいたいな」

「本気でぶつかっても、宜しければ、是非、お願いします」

「もちろんだよ。俺もかなり強い。本気でぶつかってきても、倒されたりしない。怪我が治ったら、是非、相手になって欲しい」



 わたしは微笑んだ。

 なんて頼もしいのでしょう。

 ペリオドス様相手では、手加減しなくてはならなかったのに、本気でぶつかってもいいと仰っていただいて、安心していられます。

 手合わせが楽しみになってきました。


「さあ、ここからは皇帝が仕事をするエリアだ。生活エリアは、もう少し先になる」

「本当に広いわ。ドゥオーモ王国の宮殿の5倍くらいはありそうです」

「帝国には他国からの客人も多い。警備も他国とは比べものにならない」

「はい」

「マリアナのように誘拐されてしまう場合もある」

「……はい」


 クラクシオン様は一つの扉の前で足を止めた。

 そこには、鎧を着た騎士が二人立っている。


「ここだ」

 クラクシオン様は扉をノックして、「クラクシオンです」と名乗った。

「入れ」


 深く低い声がした。


「失礼します」


 クラクシオン様は扉を開けて、その中に、わたしを伴って入っていく。

 扉の中には、大勢の人がいた。

 クラクシオン様と同じくらいの年齢の殿方が四人と女性が二人、年配の男性と女性が。

 年配の男性が皇帝陛下だろうか。


「マリアナを連れてきました」

「ご苦労」

「マリアナ、よく無事で戻ってきた。私が皇帝陛下のタイルテンスだ。隣にいるのが妻のフライ。こちらに来なさい」

「はい」


 わたしは、クラクシオン様を見上げた。

 頷かれたので、皇帝陛下の前に進んで、最上級のお辞儀をする。


「顔を上げなさい」

「はい」

「記憶がないと聞いた。迎えに行くのが遅くなってすまないことをした。マリアナの父上は、長く探し求めていたが、病に倒れて、亡くなってしまった。会わせてやれなくて、申し訳なかった」

「皇帝陛下、心遣い感謝致します。5歳の頃からドゥオーモ王国の王宮におりました。王宮の部屋から外には出てはいけないと、ずっと言われておりました。記憶がなかったので、母国が分からなかったのです」

「よく生き延びた。辛いことが有ったのだな、体が癒えるまで、まずは休むように」

「ありがとうございます」

「ここにいるのは、クラクシオンの弟妹達だ。クラクシオンは第一皇子で皇太子だ。髪が長いのが、第二皇子、モレークラ。第三皇子はメルーリオ。瞳の色が緑だ。第一皇女のシリピリー。第二皇女のアメリアだ」


 皇帝陛下が紹介すると、一人ずつ、礼をする。

 その度に、わたしも礼をする。

 最後に一人だけ残っている。

 誰だろう?


「最後に残っておる者は、マリアナの兄である。今、18歳だ。名はアルギュロス。父亡き今は、プロートニク公爵家の嫡男として公爵家を継いでいる。

「兄様?」

「マリアナ、よく生きていた。父上が人生を賭けて探していたが、連れ戻せなかった。父上は最後まで、マリアナを救い出そうとしていた。ドゥオーモ王国の王家に捕らわれていることまでは調べたのだが、倒れられた」


 わたしは何も思い出せずに、片手で額を押さえる。


「すみません。何も思い出せないんです」

「アルギュロス、マリアナを責めては駄目だよ。マリアナは記憶を失っている。11年、思い出せなかったのだ。思い出すのは難しいかもしれぬ。新たな関係を作っていく事を考えた方がいい」

「ですが、父上が不憫です。マリアナのために、人生を――――」

「止めなさい」


 皇帝陛下が声を上げた。

 わたしの為に人生を投げ出してしまったのだろう。

 それでも、わたしは何も思い出せない。


「ごめんなさい。すみません。申し訳ございません、どうかお許しください」


 考えつく謝罪を並べたが、許されるはずもない。

 わたしは床に跪き、兄と呼ばれたアルギュロス様に頭を下げた。

 涙がポロポロ流れた。

 皆は、わたしを知っているのに、わたしはクラクシオン様しか分からない。

 クラクシオン様の事も、まだ最近の事しか分からない。

 全て忘れてしまったのだ。

 謝っても、許されることではない。

 亡き父様は、わたしを探さなければ、今も生きていたかもしれない。


「マリアナ、自分を責めては駄目だ。泣かなくてもいい。謝らなくてもいい」


 皇帝陛下が席を立ち、わたしの元に来て、背中を撫でてくれる。


「ここの暮らしに、少しずつ慣れていこうな」

「父上、ここは、私が代わります。マリアナ、一度にすまなかった。一生、記憶が戻らなくても、誰も文句は言わない。挨拶も終わった。さあ、部屋に戻ろう」


 わたしは頷いた。

 クラクシオン様が腕を引いてくれる。

 ゆっくり立ち上がり、皆さんに深く頭を下げ、兄と呼ばれたアルギュロス様にも改めて頭を下げた。

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