《完結》愛されたいわたしは幸せになりたい

綾月百花   

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59   シリピリー様、婚礼の延期

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 前日から降り出した雪は、降り続けている。

 シリピリー様がお嫁に行く予定の朝は、一面、銀世界になり、まだ雪が降っている。

 馬車はとても動かせる状態ではない。

 朝食の時、皇帝陛下はシリピリー様に婚礼の延期を話した。


「行き先は北国だ。我が帝国でも馬車が出せないほど雪が積もっているのに、旅などできるはずもない。暖かい季節になるまで延期だ」

「嫌よ、嫌よ。私は今日、お嫁に行く予定だったのよ。馬車が出せないのなら、歩いて行くわ」

「馬鹿な事を言っていないで、自覚をしなさい。シリピリーの婚礼には、大勢の人が付き添う事になっている。自分だけの都合で、物事を考えないで、周りのこともよく考えて物を言いなさい」


 皇帝陛下は、かなり怖いお顔をされて、口調も普段より厳しい言い方をされたが、皇帝陛下の言っていることは正しい。


「お父様は私の気持ちを考えてくださらないの?クラクシオンお兄様とマリアナも結婚したのよ?」

「その結婚とシリピリーの結婚は、全く別の話だ。一緒にするな」

「どうして、違うの?」

「クラクシオンとマリアナは、帝国で式を挙げて、帝国に住んでいる。シリピリーは異国に出て行こうとしている。シリピリーの結婚の為に、大勢の人を集めて、異国で安全に暮らせるように、準備をしているが、その者達はどのように異国まで移動すると思っておるのだ?足場の悪い寒い道を歩いて移動するのだ。馬車に乗っているだけのシリピリーとは違う。主人となるならば、家臣となる者の安全もきちんと考えなさい」

「私は何もいらない。一人でもいいの。ゴルドが居れば、他はいらない」

 皇帝陛下は泣き出したシリピリー様を見て、盛大な溜息を漏らしている。

「食事が終わったら、自分の立場を理解できるまで、反省していなさい」

 ガタンと音を立てて立ち上がると、シリピリー様は素早くダイニングルームの中を駆けていく。そのままダイニングから出て行った。

 シリピリー様の後ろから、護衛騎士と専属メイドが駆けていく。

「お姉様、お行儀が悪いわ。日頃の行いが悪いから、一面の銀世界になったんだわ」

 アメリア様は「うふふ」と笑った。

「お父様、お姉様の縁談はなかった事にした方がいいわ。旦那様となる方と、もう一年以上会えていませんのよ。どうしても結婚したければ、普通はゴルド様が迎えに来ますわ。私の婚約者は毎回、迎えに来てくださいますわ」

「アメリア、シリピリーを刺激するな」

「あら、お父様。お互い様ですわよ」

 アメリア様は、美しい笑みを浮かべて楽しげだった。

 確かにアメリア様がクラース様の事で悩んでいたときに、シリピリー様はずいぶん毒舌でいらした。

「アメリア、大人の女性は噂話で、人を貶めてはいけません」

 今まで黙っていた皇妃様がアメリア様を窘めました。

「お母様、すみません。今後気をつけます」

 アメリア様は、以前より落ち着かれています。

 シェック殿との婚約披露宴が近づいているからでしょう。

 結婚を意識すると、乙女は成長するのでしょうか?

 それにしても、シリピリー様は一年以上会えずにいても、ゴルド様を信じているのでしょう。

 学生時代に、それほど濃密な時間を共有したのでしょうか?

 わたしは学校に通っていなかったので、学校がどんなところか想像もできません。





『親愛なる、ゴルド様へ

 帝国にも大雪が降り、ラーメ王国に迎えません。
 私達の結婚式は、また延期されます。
 お父様が延期とおっしゃったので、暖かくなる春まで行けないかもしれません。
 毎日、ゴルド様の事を考えています。
 愛しています。
 ゴルド様に、早く会いたい。

               シリピリー』



 ゴルド様にいただいた伝書鳩に短い手紙をくくりつけ、窓から飛ばす。

 賢い伝書鳩は、空を真っ直ぐに飛んでいく。

 見えなくなるまで見送って、窓を閉めた。

 部屋の中の空気が冷えて、寒い。

 メイドを追い出して、一人でソファーに座る。

 部屋の中は片付けられて、家具が残っているだけだ。

 荷ほどきはしたくない。

 私も鳩になり、空を飛んでいきたい。

 ブランケットを体に掛け、ソファーに倒れかかる。

 何もする気が起きない。





 ゴルド様に出会ったのは、帝国にある貴族学校の入学式での事でした。

 学校の学園長が、皇女である私に直接、紹介してくださいました。

 ラーメ王国は帝国に次ぐ、大国である事は知識としては知っていたので、無礼があってはならないと、私は笑顔を浮かべて、美しくお辞儀をしました。

 帝国の貴族学校は12歳で入学をします。

 貴族の子は、予め子供の頃から家庭教師が付き、基礎勉強をしております。

 貴族学校では、縦横の繋がりを作ります。

 正直、行っても行かなくても生活に支障はありません。

 お友達を作り、お茶会やパーティーをしたりします。

 殿方は、剣術の稽古をしたり、友人を作ったりします。

 幼いころに、許嫁をつけられた者もいますが、許嫁がいない者は、恋をしたり、婚約者を探したりするものもいます。

 私には許嫁はおりませんでした。

 紹介されたゴルド様は、ラーメ王国の未来のために留学を決められたそうです。

 友人を作ること。帝国の進んだ文化を学び自国へ持ち帰る意欲を持っておりました。

 ラーメ王国は帝国の北側にあり、帝国より寒い地区だとおっしゃいました。

 帝国の冬は暖かいとおっしゃっていました。

 それでも、私には十分に寒い季節です。

 私はゴルド様に勉強を教えたり、帝国の文化を教えたりしておりました。

 学年が一つ上がると、二人の間に恋の芽が芽生えてきました。

 学校での移動では、手を繋ぎ。温かな芝の上に座れば、ゴルド様が私の膝に頭を乗せて、お話をしておりました。

 口づけも互いにしておりました。

 ゴルド様は、私に求婚なさいました。

 私はすぐに答えました。勿論、お受け致しました。

 また学年が一つ上がると、ゴルド様は私を求めて来るようになりました。

 私は皇女です。

 結婚するまで、守らなければならない物があります。

 それでも、ゴルド様をお慕いしております。

 このまま結ばれてもいいと思う気持ちと、皇女として守らなければならない気持ちが鬩ぎ合いました。

 触れあうことまでは許しても、最後の一線だけは守り抜きました。

 15歳の時に、婚約パーティーが開かれました。

 母国から、ゴルド様の父上が来られたのです。

 その時、ゴルド様がゴルド様のお父様にお願いをしてくださいました。

 ゴルド様のお父様は、私のお父様に会って、婚約の話し合いをしてくださいました。

『まずは婚約からだ』とお父様が言われました。

 ゴルド様のお父様がいらっしゃるうちに、婚約パーティーが行われました。

 16歳で卒業となり、ゴルド様は母国に戻って行かれました。

 今までのように、毎日、キスを交わし、触れあうこともできなくなりました。

 ゴルド様は母国に戻るときに、伝書鳩をくださいました。

『必ず、迎えに行く』と言い残されました。

 伝書鳩が短い手紙を運んでくれます。

『愛している』と書かれた手紙には、『早く結婚しよう』と書かれています。

 鳩は、私とゴルド様のもとを行ったり来たりします。そのやり取りがもう一年以上続いています。

 私はいつゴルド様に会えるの?

 いつ結婚ができるの?

 窓の外は一面銀世界に代わって、雪が吹雪いています。

 こんな大雪は初めて見たかもしれません。

 寒い。

 体も冷えるけれど、心も冷える。

 早くお目にかかりたい。

 そして、抱きしめられたいのです。

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