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第1章 オカルト姫は幽霊屋敷へ家出中!

第12話 その名、Dr.Z

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「一体何がどうなっている!?貴様何者だ!」

 王は腰にしまった剣に手を添えて構える。しかし、偽物の王は何も答えようとはしない。ただ、不気味に笑うだけだった。

「何がおかしい!貴様は何者なのだ!」
「全く、人が仕事をしている時に屋敷が燃えるわ、脱出した瞬間にメガ・ウォーターを当てられる。今日はとんだ厄日ですネ」

 濡れた方のアルゴ王は笑いながら気味の悪い語尾を付けて喋る。すると、濡れた王の身体がグニグニと変化した。
 金の髪は白くなり、自慢の髭は縮んで無くなり、いかにも高そうだった王の服は、ポケットにヤバそうな薬品が入った血付きの白衣に変わった。
 そして偽物の王は、変装マスクのような物をベリベリと剥がし、胸ポケットに入れた眼鏡をかけた。

「まさか、あの屋敷に住む小娘が貴方の子供だったとはネ」

 髪の色にしては若い顔、しかしその目は虚。
 そして不気味で狡猾的な笑い方のせいかは分からないが、この男にタクマは謎の恐怖心を覚える。
 体は細身だし、隙さえ掴めば簡単に骨を折れそうだ。しかし、それができない。もしやろうものなら、返り討ちに遭ってしまう。何故かそんな気がしてならない。

「申し遅れまシタ。私はドクター・ズィー。救世主となり、この世を救うあのお方に仕える科学者でス。気軽にDr.Zとお呼びくださいまシ」
「ZだかGだか知らぬが、何が目的で妾のパパに成り済ましたのじゃ!」

 メアはナイフを取り出し、すぐに攻撃に入れる体制を取って訊く。するとZは、狡猾に大笑いした。

「コレの為デス」

 そう言うとZは、ポケットから、骸骨のような形をした果実を取り出し、タクマ達に見せる。
 まるで白雪姫が食べた毒林檎のような、禍々しい形をした果実。

「そ、それはもう世界に一つしか存在しない不死身の果実!?屋敷に封印した筈なのにどうして……」

 その果実を見て、王は恐怖した顔を見せる。ティグノウスを最も容易く叩きのめした王が、そんな表情を浮かべるほど恐ろしいもの。タクマも何処かで、奴にだけは渡してはいけないと感じる。

「私の実験にはこれが必要でしてね、お借りしに来た訳デスよ。まあ返しはしないのデスがね」

 Zは手に持った果実を舐め回すように見つめる。言ってはいけないと分かっているが、その目は完全にイカれていた。道徳心、人としての心が全く感じられない、絵に描いたようなヤバイ奴の顔をしていた。

「馬鹿者、それがどれほど危険な物か分かっているのか!」

 王はついに剣を引き抜き、Zに剣先を向ける。
 すると、Zはフフフ……と静かに笑った後、話を始めた。

「食べれば名前の通り不死身になるが、恐ろしい怪物になってしまう。それくらい知ってマスよ」
「じゃあ何故そんな危険物を!」
 
 虚な目で、口をにやけさせながら笑うZに腹を立てたメアは、Zの首に向けてナイフを投げた。
 Zは、そのナイフをあえて食らった。しかし、死ぬ事はなく、そのまま首から引き抜いた。
 
「ですが、私は科学者。だからそこ、科学の力でこの果実を培養し、怪物化の副作用を取り除くのです!

 Zは両手を広げ、黒目を縮めながら叫ぶ。その間、Zの首についた傷は、完全に消滅してしまった。
 まさに化け物。勝ち目があるようには見えない。怪物化怪物化と言っているが、まさしく今のコイツの方が怪物だ。

「おい!聞いているのか!培養して何をするつもりなのだ!」
「これが成功すれば、アイツは……」

 Zは体を退け反らせたまま、不気味にはぁはぁと息を吐きながら呟いた。完全に聞いてはいない。
 すると、Zはいきなり「ハッ!」と息を飲んで素に戻った。

「いけないいけない。私は余計なことまで話す癖があると、この前言われたばかりでしタ」

 その時、メアが何かを思い出したのかアルゴ王を突き飛ばし、Zの胸ぐらを掴んだ。

「貴様!あの屋敷はサタン達が守っていたから入れない筈じゃぞ!何故入れた!」

 だが、Zはその問いに答えず笑い出した。その気味の悪い笑い方にメアも背筋が凍る。
 そして笑うのを辞めた時、胸ぐらを掴んだ手を解き、メアをそのまま地面に叩きつけた。

「きゃぁぁぁ!!」
「メア!このイカれ野郎め!よくも!」

 王は娘を傷つけた怒りに身を任せ、Zの方へ走った。
 だが、王は誰かに強く殴られたかのように宙を舞いながら倒れてしまう。
 すごい速さでZの攻撃をモロに食らったのだろう。
 そしてタクマも剣を引き抜き参戦しようとしたが、王を殴り飛ばした際に何かをされたのか、体が痺れて動かなくなっていた。

「これは防腐剤作りで出来た副産物の痺れ薬。デスが、失敗作から出来たモノなので、アナタの身体は暫く動かせないでしょうネ。それも、もしかしたら永遠ニ……」

 Zはポケットから黄色い薬品の入った注射器を取り出し、タクマに見せる。そして、追い討ちをかけるかのように、タクマの腹に蹴りを入れた。

「……っ!(声も出ない。辛うじてうめき声や断末魔程度は上げられそうだが、それでは会話が成り立たない)」
「そうそう、あの子供達は良く頑張りまシタよ。デスが、私があのお方から貰った力で消してしまいましタ。……と言っても、彼女は気絶しているので聞いてませんネ」

 Zが喋り終わった時、タクマの方にかがみ込んだ。そして、その口に無理矢理小さな石を一つ入れた。

「これはあのお方からのお通しデス。有り難く飲み込みたまエ」

 タクマは抗いたいが、痺れ薬のせいで身体が言う事を聞かずに飲み込んでしまった。
 石と言う訳ではないが飴でもない。例えるならば塩の塊を口に入れられたような感覚と味だった。

「あ″……ガハッ!ゴホッ!」

 そしてタクマは喉が焼けるような感覚により、気分が悪くなってきた。

「それでは目標達成した事デスし、モルモットの皆様、ご機嫌よう。クックック……アーッハハハハハハハハ!!!」

 Zは笑いながらバスケットボールサイズの煙玉を地面に叩きつけた後、ワープで消えた。
 残った力でメアを揺すっていた王は、ガスを吸わないように口と鼻を抑えるがすぐに倒れてしまった。

(あのイカれたマッド……サイエンティスト……が……)

 何とか耐えようとしたタクマも、じわじわと意識が飛んでいく。
 そして、目の前が真っ暗になってしまった。


 ──それから、タクマが倒れてすぐの事。どこかの城のような場所。

『やぁ、順調かな?Z』
「はいお陰様ですんなりと」

 Zは、急に現れた機械的な鎧を纏う謎の男の問いに答え、後ろを振り向かずに不死身の果実を見せた。

『それにしてもこんなもの一体何に使うんだい?』
「それは例え、あなたでも教える事はできません。アルファ・オブ・ジーメンス様」
『そうか。まあ、人には知られたく無い秘密の一つや二つはあるからね』

 二人は笑い合った、狡猾な笑い声で。

「それより、何故この小僧に貴重な転送石を?」

 Zが訊こうとしても、αは何も言わずに不死身の果実を指す。
 Zはそれを見て、頷きながら「教えられない、と言う訳ですか」と返した。

『さて、と。今日の所はやるべき事も終わったし、反省会でも開こうか』
「はい、α様。」
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