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第11章 バカと天才は死んでも治らない

第263話 夢と悪夢は時々変なのだけ覚えている

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「お、お前!どうすんだよコレ!」
「しし、知るか!てか、俺に首をよこすな!」
「いらんってこんなの!人の首だぞ、嫌だよ!」
「俺も首なんざいらねぇよ!ほら返す!」
「やめろって、ベタベタ触ったら指紋付いて犯人と間違われるだろ!」
「テメェ、自分だけ貧乏くじ引かねぇつもりか!お前も道連れだ!」

 2人は少女の首をパスしながら、訳もわからず現場から逃走していた。間違って生存者の首を斬ってしまったのだ、落ち着かないのも無理はない。
 そして、そうこうしているうちに、ふと振り返ってみると、なんと少女の体が追ってきているのが見えた。
 足が疲れてきているし、夢じゃない。そういえば、首を斬られている筈なのに、首からは血が出ていない。
 しかし、気付いたところで、殺してしまったと言う恐れが勝り、2人は必死で逃げた。

「ああくそ!お前と会うといつもこうだ!この疫病神!」
「はぁ!?いつも迷惑な存在とか何とか言ってるお前が言うな!」
「なんだとコラ!それはお前らにだけであって、俺が迷惑被ってどうすんだ!」
「あのー……」

 どこからか女の子の声が聞こえてくる。しかし、2人は首を押し付け合いながら走る。

「あのー、すみません」
「お前が持っとけ疫病神!」
「これは死神が持っとくべきだろ!」
「えっと、よろしいですか?」
「「あーもう!誰なんだよ一体!」」

 度々茶々を入れられて腹を立てた2人は、バッと振り返る。しかし、そこに居るのは少女の体のみ。
 だが、少女の体は2人を襲うことはなく、膝に手をついて疲れる仕草をした。

「あの、こっちです。私の首」
「へ?うわぁぁぁぁぁ!しゃ、喋りやがったぁぁぁぁ!!」

 首を見たオニキスは、驚くあまり少女の首を投げてしまった。すると、少女の体はまるでスタントマンのような動きで首をキャッチし、肩に忍ばせていた縫い針を抜き取った。
 そして、チク、チク、と自分の首と体を繋ぎ合わせた。

「あ……あなたは……」
「こ、これは夢だ。俺は、信じねぇぞ」

 少女が復活した。目の前で、首が綺麗に飛び跳ねた筈なのに、何事もなかったかのように、首を縫っている。
 ゾンビか?しかし、ゾンビにしては綺麗すぎる。肌や肉体には腐っている様子はないし、服からこそはゾンビの臭いがするが、彼女本来の香り的なものは、微かに感じる。
 そして何より、髪が生き生きとしていた。ダイヤモンドダストのように輝く白銀の髪は、首を斬った時にバッサリと斬られたせいで後ろ髪は不自然にパッツンボブのようになっているが、元々の顔が美麗なため、むしろ新たなトレンドが生まれたようにも見える。
 すると、後ろからノエル達の声が聞こえてきた。

「おーい!タクマさーん!」
「ったく、リョーマといいタクローといい、勝手に行動してんじゃあねぇよバカ」
「ご、ごめんごめん」
「貴方、タクローって言うのですわね?」

 銀髪の少女は首を縫いながら訊く。しまった、アリーナの名前間違いを訂正しなかったせいで、早速勘違いされてしまった。

「おろ?オニキス殿まで、と言うか、何故そんな壺に頭を入れているでござる?」
「あっ、もしかしてビビっておるのか?お主も可愛いところがあるんじゃのぅ」
「うう、うるせぇ。俺は何にも見ちゃいねぇ。喋る生首なんて!何にも見ちゃいねぇ」
「だから、私は喋る生首じゃありませんわよ。それより皆様、何故このような危険な場所に?」

 言うと少女は、タクマの手を取り、立ち上がらせた。ついでに、オニキスの頭の壺も、ハマって抜けなくなったと思ったのか、近くの重そうな瓦礫を持ってチョンと突いた。
 そして、壺が割れると同時に、オニキスは叫び、おタツに抱きついた。

「きゃっ、変態!」

 谷間に顔を埋めてしまったせいで、今度は雪の中に飛ばされてしまった。

「ああ全く、トカゲ娘まで一緒かよ。クソ、なんて日だ」
「そう言わんといてーなオニちゃん」
「オニちゃん言うな。全く、Zをぶっ潰しに来たってのに、何でこのバカタレ共が……」

 Z。オニキスが確かに呟いたその時、少女はオニキスに近付き、手を強く握った。
 すると、オニキスの手にひんやりとした感触が伝わり、驚いて手を引いてしまった。そのせいか、今度は腕が取れた。

「ヒャァァ!!な、何してるでありんすか!」
「ナノナノ、見ちゃいけません!」
「あ、あなた今、Zって言いました?」
「Z?もしかして君、Zについて何か知ってるのか?」

 タクマはオニキスから手を取り、話を聞いた。すると少女は、はい、と肯き、近くの安全なシェルターに案内してくれた。

 ──またまた一方その頃、エンドポリスの大通り商店街跡。
 Zはひっそりと、荒廃した街を歩いていた。辺りには、共食いをしたり、真っ赤に染まった雪を舐めとる国民、もといゾンビが居る。最早見るに耐えられない、地獄よりも酷い景色。
 しかし、Zだけがその街の中でケラケラと気味の悪い笑い声をあげていた。

「嗚呼愉快ダ。実に愉快ダ。アレだけ私の事を除け者にシ、馬鹿にしていた愚民ガ、ワタシの才能にヨッテこんな姿になるトハ」
「どくたーくーん。見ーつけた」

 その時、背後から陽気な声が聞こえ、首筋に冷たい気配を感じた。振り返ると、そこにはリュウヤが立っていた。しかも、刀の剣先をZの首に当て、表情を隠しているつもりなのか、顔はZの視界からでは見えない明後日の方向を向いている。

「おやオヤ、これはリュウヤ君じゃあありませんカ。いつも緑髪のボインなお姉ちゃんや、タクマ君と仲良しこよしラブラブしているのニ、珍しいデスネ」
「おっと、動いちゃあダメだぜ?鬼がまだ“だるまさんが転んだ”って言ってないぞ」

 リュウヤは、まるで友達と遊んでいるかのような隔てのない口調で続ける。それでも、顔はまだ明後日の方向にある。

「おお怖い怖イ。しかし良いのですカ?私の事、オトモダチに伝えなくテ」
「生憎俺っち、自分のケツは自分で拭くタチなんでね。悪いけど、ここでバイオハザードは終劇にしてもらうぜ」
「カカカ。君と言う人は、実に興味深いヨ」
「奇遇だねぇ。俺っちも、お前さんにはとてつもなーい程に興味があるんだなぁこれが」

 そう言い合った後、リュウヤはZに顔を向けた。しかしその刹那、ただ瞬きをしたその一瞬にして、Zの姿が目の前から消えた。
 そして、混乱して目が丸くなっている間に……

 ドスッ

「が……ぐぉゎあ……」
『全ク、怪我をしテいるクセに、ヨくもまぁ私の所ヘ単騎で乗り込ムトハ。その姿勢、私が評価シテ差し上げマシょウ』

 思うように動かない体を起き上がらせると、そこには注射器を片手に持ち、ゾンビのような姿となったZの姿があった。
 後から来た首筋の痛みから、それがすぐ首に打ち込まれたのだと分かった。しかし、分かったところで、身体を襲う苦しみは消えなかった。

「ハ……ハハ……一杯……食わされたって……訳ねぇ」
『こんな状態で笑エルのデスカ。ソウ、私は君ガ何故そウマでしテ笑えルのカ、ソノ謎が気にナッテいたのデす』
「いいの……か……?ここで……殺しちゃったらさ……その謎……教えらんねぇぞ……?」

 訊くとZは、リュウヤの顎を持ち上げ、白濁と濁りかけている眼の瞳孔を広げて笑った。

『君ハ、これカら私の用心棒とシテ使ってアゲまス。ソノ最高の耐久力、ソれで私ヲ楽しまセテくださイ』

 あーあ。最悪な1日だな、本当に。
 そんな事を思いながら、リュウヤの目はそっと閉じた。
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