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第二十六話 甘く見ていた
しおりを挟むやっぱり、ちゃんと主張はすべきだな。食卓に並んだ料理を前に、思わず微笑む。
侯爵に命じられたのもあってか、朝食時と同様、オレステスの前には他の家族と同じ物が並んでいた。
なんならオレステスが希望した通り、メインの肉料理は倍ほどの量が皿に乗っている。
我知らず頬が緩んでしまうオレステスを、侯爵はまったくの無視、アレクサンドルは飽きれ気味の目で見ている。
侯爵夫人――たしか名前はバエビアといったか。彼女は不満そうな、憎々しげな眼差しでオレステスを睨みつけていた。
体が健康でなければ、心も弱くなりがちだ。
それを狙っていたのか単なる嫌がらせだったのかはわからない。ただオレスティアの食事を意図的に減らせていたのは侯爵夫人なのだろうと、三者の反応を見る限りでは推測できた。
だとしたらこの展開は面白くないだろうな。ざまぁみろ、と思いながら、一口サイズに切った肉をほおばる。
「んーっ!」
うまい!
昨夜、アレクサンドルが自分の分を渡してくれて食べたときにも思ったけれど、おそらく一級品の肉だ。
決して育ちがいいわけでもなく、またグルメでもないオレステスには、なにを材料にソースが作られているかなど知らない。ただうまいかそうでないか感じる舌があるだけだ。
ただ、少しだけ不安もあった。昨夜は栄養摂取が目的だったので、きっと上等の肉なんだろうなとの感想は抱きながらも、味わう余裕がなかった。
その上で今日、昼に飲んだ紅茶を美味と感じたから、「オレスティア」が肉を好まない舌である可能性を考えたのだ。
あの貧相な食事を嫌がらせと断じたのは早計で、実は本当にオレスティアの味覚や食の細さに合わせたものだったのではないか、と。
もっとも、こうして肉も、ややこってりめのソースさえ美味しく感じられたのだから、継子いじめの一環で間違いなかったのだろうが。
バランスよく食べることは、体つくりにとって大事だ。そう考えると、筋肉をつけるために適しているのはトリ肉ではあるのだが、まずはよく貧血を起こすというオレスティアにはこういった赤味肉の方がいいのかもしれない。
なにより、味がいい。
食事の質にも量にも満足して部屋に戻り、支度を整え、あとは休むだけとなったところで、問題が起こった。
――胃が痛い。
いや、痛いというか重いというか胸焼けがするというか……?
完全にもたれてしまっている気がする。
あんなトリの餌のような食事をしてきたオレスティアの体には、負担が大きかったのかもしれない。
昨夜はアレクサンドルから譲られた一人前だったからよかったのだろう。それが今日は、オレステスが望んだとおり、ほぼ二人前だった。
しまった、ゆっくり慣らしていくべきだった、と思いはするも、後の祭り。食べてしまったものはもう、仕方がない。
また、一旦増やしたものを減らしてもらうのも癪だった。
ほら見ろ、やっぱり食べられないじゃないか、できもしないくせに欲張りめ――などとも思われたくない。
まぁ無理してでも食べ続けていればそのうち慣れるだろう。ならばがんばって食べ、多少の不調も我慢していくしかないか。
それにしてもまさか、食べることが苦行になる日が来るとは。
オレステスは改めて、自分との体との違いに気づかされた。
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