氷結の毒華は王弟公爵に囲われる

本編

170

｢そう言った理由も有りますので、アナスタシア王妃には、この男と入れ替わって貰おうと思っているのです。この男は、人の声真似が得意でして。見覚え有りませんか？｣


　そう言われて、よくよくその男を見たアナスタシアは、この国に来る前に、会った事の有る男だと気付く。

　アナスタシアは過去、アレクシスへの縁談を持ち込んだジルギリスに、アレクシスとの縁談をする前に、ディーラン国とアレクシス本人を見てみたいと、こっそりジルギリスに相談したのだ。

　その後に、アナスタシアが行方不明になるのは困るので、アナスタシアの身代わりを置くと、この男を連れて来たのだ。

　そして、数日間だけアナスタシアの仕草や喋り方を見聞きし、アナスタシアと入れ替わったのだ。

　勿論、周りの協力も取り付けての事だが、数ヶ月もアナスタシアの不在が気付かれずに済んだのは、この男の声真似による物も大きい。


｢お久し振りです、アナスタシア様。まさか、もう一度貴女を演じる羽目になるとは思いませんでしたよ｣

｢その節は、大変お世話になりましたわ！ファーニー様、で宜しかったでしょうか？｣

｢はい、合ってます。そう言う事で、今回も男に変装して頂きますが、宜しいですかね？｣

｢はい、勿論ですわ。わたくし、今回はどうすれば宜しいのでしょうか？｣


　アナスタシアは、目をキラキラさせて聞いてくる。


｢大変申し訳ありませんが、アナスタシア王妃には、他の侍女達がいる時は、隠し通路か寝室にて隠れて頂きます。ファーニーは入れ替わり要員で、先程話した二人には含まれていませんので｣


　それを聞いたアナスタシアはがっかりとした顔をする。


｢……ジーン兄様、王妃様もジッとしているのは苦痛なのでしょう。それならば、王妃様にも動いて頂ければ良いのでは？それこそ兄様の補佐官と入れ替えれば良いのです。ここにはレベッカも居ますし、マティスはそこにいるのですよね？｣


　リラが隠し通路の方を見れば、手だけをこちら側に出して、振ってくれる。

　彼もエヴァンス家の使用人なので、問題無い。


｢有難う御座います、エヴァンス令嬢！ああ、でも、エヴァンス令嬢だなんて、他人行儀ですわね。わたくし達は、もうすぐ義理とは言え、姉妹になるのですから！リラ様と呼ばせて下さいな、わたくしはアナでもシアでも構いませんわ！出来れば、お義姉様と呼んで頂きたいですわ♪｣


　物凄く好意的な態度を見せるアナスタシアに、リラは戸惑うばかりだった。