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本編

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「あっ、あのっ……そのっ……」

「……私の婚約者に、こんな無礼な書簡で呼び出し、立たせたままで何の持て成しもしないとは、どういう了見だ?」


 エドワルドが息を整える間も無く言葉を放ち、エドワルドの怒気に、レオンがビクッと震える。


「いつから王族は、初対面の相手に敬意を払わず蔑めと、教えられるようになったのだ?答えてみろ、レオン」

「そっ、そんなつもりは無くて……」

「じゃあ、どういうつもりでこんな書簡を送った?今日届いたらしいと、ジルギリス殿が言っていたが、ジルギリス殿が在宅の時に、届いた物では無いな?何時いつ、出した?」


 エドワルドの厳しい詰問に、レオンが答える。


「きょっ、今日の……昼前です……」

「彼女の都合も考えず、仕度時間すらも与えずにか?」

「しっ、仕度時間?」

「女性が王宮に来ると言う事は、それ相応の仕度がいるのは当然だ。街中や家で過ごすドレスで王宮に来れるとでも思っているのか?女性の仕度は男と違い、何時間も掛かる事がある。それを考えもせずに呼び出すのは、馬鹿のする事だ!」


 エドワルドに馬鹿と言われてショックを受けるレオン。


「今日、彼女に動かせぬ予定が有った場合、お前はどう断りを入れさせる気だったのだ?王族の、それも王太子の呼び出しだぞ。無視をすれば王太子を蔑ろにしたとされ、断りを入れる書簡を出した所で、王太子の呼び出しに応じないと言う事で、不敬罪だと言う者も出てくるんだぞ。本来、そんな事が無いように、相手に都合の良い日付を尋ねる書簡を送るか、結婚を間近に控えた女性であれば、婚姻後の、落ち着くであろう三ヶ月先を目安に書く物なのだ!それをお前は、選りにも選って、結婚を間近に控えた女性を相手に、自ら都合を聞いて会いに行くのでも無く、こんな非道とも取れる手段を取ったのだぞ!」


 そして、言われた内容の酷さと、自らが冒した失態の数々をやっと全部理解したレオンは項垂れるが、エドワルドは更に言い募る。


「その上、お前は内容もサインも書いていない!これは、『お前に知らせる必要は無い』や、『名を書くのも煩わしい』、つまりは他人が見れば、罪人に宛てた物だと取られても仕方の無い書簡と言う事になるんだぞ。これを見た相手は、彼女を罪人と決め付け、彼女を脅す事も出来るんだ。それに、お前は人払いをしたようだが、結婚を控えた忙しい彼女が何故、初対面の王太子が住まう王宮に呼び出されているのか、探りを入れられた場合、お前はどう切り抜けるつもりでいた?」


 エドワルドに問われ、何も思い浮かばずレオンは途方に暮れた。
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