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後日談
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「苦手な社交を無理して頑張る必要は有りませんよ。夫婦どちら共出来ないのは困りますが、片方が出来れば問題有りませんから。夫婦になれば、補い合えば良いだけです。王都の社交は魑魅魍魎が蔓延ると例えられる程なので、貴女は私に任せて隣で微笑んでいれば大丈夫ですよ。リラの傍に居れば、他の貴族達は近寄れませんし、私も出来る限りは傍に居ます。それに、仕事で隣国に赴いていた両親も、年越しの夜会に参加する為に、一時帰国すると言っていましたから、王都に着いた後に、あちらも帰ってくるでしょう。両親もアシュリー嬢に会えるのを、物凄く楽しみにいている様ですよ」
因みに、アシュリーが家出したのが10月の始めで、王都に着いたのは10月半ば。
エヴァンス家の揺れ難い馬車でなら、急いで半月でも何とかなるが、普通の馬車では、どれ程急いでも一月は丸々掛かる上、相当揺れる事になる。
現在は11月の半ばなので、本当にギリギリの状態になるだろう。
勿論ジーンはそれを知った上で、馬車でなら、どんなに急いでも王都までには一月丸々掛かるぞと態々教えてやったのだ。
あちらは大急ぎで準備をし、揺れる悪路をほぼ一月体験する羽目になる。
王都付近は舗装整備されているが、地方はまだまだ悪路続きだから、普通の馬車で有れば、馬車酔いは必然と言っても良いだろう。
乗馬が出来るなら、時折馬で馬車と並走し、身体の痛みを緩和させる事も出来ただろうが、サラはどこに行くにも馬車を使い、一人では馬に乗れないのだ。
それこそ、馬の臭いが付くから乗馬は嫌だと言っていたので、王都に着く頃には、グロッキーになっている事だろう。
速度を落とせば間に合わず、次はいつになるか分からないのだから、速度を落とす訳にはいかない。
ジーンはそうなるように逆算して、唯一の希望と言う名の餌をぶら下げ、挑発し、誘導したに過ぎなかったのだ。
「わたくし、ジーン様のご両親に、気に入って頂けるでしょうか……」
あんな父親がいて、義妹も婚約者も自分勝手で友人も作れない状況の中、ここまで健気に育ったのは、亡き実母の教育の賜物と言って良いだろう。
「私が妻に望んでいるのだから、大丈夫だよ。それより、あの三人には王都でも会う事になるだろうけど、次で最後だし、陛下は向こうの言い分を聞く人でも無いから、少し早いけど、ご褒美を貰っても良いかな?」
「ご褒美……ですか?」
キョトンと見返してくるアシュリーに、ニッコリとした笑顔で答えるジーン。
「そう。アシュリー嬢の唇にキスしたい。良いよね?」
湯気が出そうな程に顔を真っ赤に染め上げ、口をパクパクと動かすも、小さな声で返事を返す。
「……はい」
アシュリーの返事に、ジーンがその唇をゆっくりと塞ぐ。
「あの男は本物の大馬鹿者だ。私は絶対に貴女を手離しませんし、逃がしませんからね」
ジーンはアシュリーを腕の中に抱き締めて囁けば、アシュリーもジーンの背中にギュッと腕を回して小さな震える声で囁き返す。
「……嬉しいです、ジーン様」
「今日はもう疲れたでしょう。外だと身体も冷えますし、そろそろ中に入って部屋に戻りましょうか。明日はゆっくりと休んで、王都に戻りましょう。あまり長居してると、リラが寂しがりますからね」
ジーンはそう言うとアシュリーをエスコートして、早々に夜会を引き上げるのだった。
因みに、アシュリーが家出したのが10月の始めで、王都に着いたのは10月半ば。
エヴァンス家の揺れ難い馬車でなら、急いで半月でも何とかなるが、普通の馬車では、どれ程急いでも一月は丸々掛かる上、相当揺れる事になる。
現在は11月の半ばなので、本当にギリギリの状態になるだろう。
勿論ジーンはそれを知った上で、馬車でなら、どんなに急いでも王都までには一月丸々掛かるぞと態々教えてやったのだ。
あちらは大急ぎで準備をし、揺れる悪路をほぼ一月体験する羽目になる。
王都付近は舗装整備されているが、地方はまだまだ悪路続きだから、普通の馬車で有れば、馬車酔いは必然と言っても良いだろう。
乗馬が出来るなら、時折馬で馬車と並走し、身体の痛みを緩和させる事も出来ただろうが、サラはどこに行くにも馬車を使い、一人では馬に乗れないのだ。
それこそ、馬の臭いが付くから乗馬は嫌だと言っていたので、王都に着く頃には、グロッキーになっている事だろう。
速度を落とせば間に合わず、次はいつになるか分からないのだから、速度を落とす訳にはいかない。
ジーンはそうなるように逆算して、唯一の希望と言う名の餌をぶら下げ、挑発し、誘導したに過ぎなかったのだ。
「わたくし、ジーン様のご両親に、気に入って頂けるでしょうか……」
あんな父親がいて、義妹も婚約者も自分勝手で友人も作れない状況の中、ここまで健気に育ったのは、亡き実母の教育の賜物と言って良いだろう。
「私が妻に望んでいるのだから、大丈夫だよ。それより、あの三人には王都でも会う事になるだろうけど、次で最後だし、陛下は向こうの言い分を聞く人でも無いから、少し早いけど、ご褒美を貰っても良いかな?」
「ご褒美……ですか?」
キョトンと見返してくるアシュリーに、ニッコリとした笑顔で答えるジーン。
「そう。アシュリー嬢の唇にキスしたい。良いよね?」
湯気が出そうな程に顔を真っ赤に染め上げ、口をパクパクと動かすも、小さな声で返事を返す。
「……はい」
アシュリーの返事に、ジーンがその唇をゆっくりと塞ぐ。
「あの男は本物の大馬鹿者だ。私は絶対に貴女を手離しませんし、逃がしませんからね」
ジーンはアシュリーを腕の中に抱き締めて囁けば、アシュリーもジーンの背中にギュッと腕を回して小さな震える声で囁き返す。
「……嬉しいです、ジーン様」
「今日はもう疲れたでしょう。外だと身体も冷えますし、そろそろ中に入って部屋に戻りましょうか。明日はゆっくりと休んで、王都に戻りましょう。あまり長居してると、リラが寂しがりますからね」
ジーンはそう言うとアシュリーをエスコートして、早々に夜会を引き上げるのだった。
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