短編集【令嬢の憂鬱】

モモん

文字の大きさ
上 下
22 / 84
領地運営はアルバイトにお任せ

お宝

しおりを挟む

馬車は城壁の手前を左折し、工房が立ち並ぶ通りを進んでいく。

「お待たせいたしました。
こちらが領主邸に出入りする仕立て屋で、テラズの工房になります」

「セバスチャン、転移機の余分はないのか?」

「あと3個ございます」

「じゃあ、一つをミホに渡してくれ。
あと二つ、早急に作ってもらおうか」

「承知いたしました」

「どれくらいかかる。費用と時間両方だ」

「一週間ですね。魔石を使いますので、一つ金貨10枚です」

「私の分はすべてのポイントに行けるようにしてくれ。
隠し事は好まない」

「まいりましたね。どこからそのような情報を」

「お前の行動パターンを考えると、簡単に推測できる。
それでも、二つか三つ隠しポイントを確保するだろうことは織り込んである」

「まったく、噂通りのお方ですね。
橘商会の切り札。ゼロの観察眼。シークレット・クラッシャー。
降参です。すべてアカネ様のご指示のままに」

「アカネちゃん、そんなにすごいの?」

「今までのは遊びだ。
学生と生徒会と習い事の合間に父の仕事を手伝っただけ。
だが、今日からはここが本業だ。
日本のコネもすべて使ってルナをこの世界の王にする」

「ふーん、そこまで本気なんだ。
アカネちゃんが本気なら、もう一つ上の気合を入れないとダメかな。
じゃあ、工房へ行ってくるね」

「ああ、よろしく頼む」

「ミックスジャム商会はいかがされますか」

「そのままでいいが、私の手の者を一人雇ってもらおう。
それとは別に、私名義の会社を立ち上げて、ここに関与する全員を卒業後に従業員にする」

「ちょっと待って。ここ、お金の匂いがする」

「セバスチャン、ここは?」

「鉱石を扱う工房で、私も魔石を調達する時に使います。
転移機を作るのに魔石が必要ですから、寄ってみましょうか」

カラン、「いらっしゃいませ」

若い店員さんだ。

「あら、セバスチャン様、本日は魔石の良いものが入ってますよ」

「見せてもらえますか」

「はい、こちらになります」

「おお、これは透明度が高い。おいくらですか?」

「金貨5枚になります」

「金貨5枚!ちょっと見せて」

「アスカ、それは水晶か?」

「そう。セバスチャン、あっちに魔石を持ち込んでるよね」

「ええ、向こうの宝石商にダイヤモンドだから、金よりも高価だと言われました。
ですから、どちらで買っても大差ないと…」

「ちょっと、ほかの魔石も見せていただけますか?」

「ええ、こちらが全部魔石でございますが」

「セバスチャン、向こうで見せた魔石はこんな感じだった」

「ええ、そうですが」

「お姉さん、これ以外にもクズになる魔石ってありますよね」

「ええ、裏に。木箱に入れて雨ざらしのまま放置してありますけど」

裏に回って確認する。

「アスカ、これって…」

「宝の山発見だよ。価値観が違うんだ。
多分、透明度が高いほど魔石としての価値が高い。
見てよ、ダイヤにサファイア、エメラルドにルビー。ざっと見て一億円だよ」

「金貨2000枚か、当座の運転資金にはなるな。
セバスチャン、箱ごと買い取ってくれ」

「磨いて、建物の装飾に使うということで、銀貨5枚で支払い済みです。
では、屋敷に運んでおきます」

セバスチャンは瞬間移動で箱ごと消えた。

「アスカ、戻ったら100万円以上と以下で仕訳けてくれ。
私が直接現金化する」

「ほーい」



「さて、報告を聞こうか。
宇佐美、会計の方はどうだった」

「帳簿がめちゃくちゃ。
現金の残高もあってない。
整理するまで2日ください。
この土日でやります」

「わかった。
アスカがお宝を見つけてくれたから、向こうの現金は確保する」

「それは助かります」

「次、食材の方はどうだ」

「ミクの能力で、あっちのスイーツや料理は再現できるんだけど、今日見た限りでは、向こうで売れそうな食材はないわね。
土日で、色々と加工して試してみる。
それと、こっちの食堂を回って、どんな加工してるのか、料理長以外の料理人も当たってみるつもり」

「分かった。
こっちの貴族を招いてお茶会を開く予定だから、メニューの候補も考えておいてくれ」

「了解」

「豊美はどうだ?」

「大豆、トマト、トウモロコシは植えてみた。気候は温暖だから、一年中収穫可能ね。
あとは、土を痩せさせないように工夫していくつもり」

「農業は時間がかかるな。
ミホは?」

「完全に手縫いね。
ミシンを導入したいけど、足踏み式で送料を考えると一台5万円で、交換部品なし。
やっぱり、ここにソーラーパネルつけて、電動ミシン買わない?
ただし、貴族用のドレスとか需要もレベルもわからないから、一度王都ってところへ行ってみたいわね。
ここのメイド服は、セバスチャンが向こうで買ってきたものよ。
こっちの庶民はほとんど貫頭衣レベル。布も高いし、目も粗いわ。
商業化するなら、布はあっちから輸入した方が早いわよ。
そのうえで、ミシンを使って服を作らせるなら可能ってレベル」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:108,196pt お気に入り:4,086

浮気αと絶許Ω~裏切りに激怒したオメガの復讐~

BL / 連載中 24h.ポイント:22,515pt お気に入り:1,462

回復力が低いからと追放された回復術師、規格外の回復能力を持っていた。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:36,585pt お気に入り:824

9番と呼ばれていた妻は執着してくる夫に別れを告げる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:114,723pt お気に入り:2,039

九尾

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:262pt お気に入り:1

【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!

BL / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:240

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:61,663pt お気に入り:3,765

楽しい幼ちん園

BL / 連載中 24h.ポイント:390pt お気に入り:133

罰ゲームで告白した子を本気で好きになってしまった。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:404pt お気に入り:104

処理中です...