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3章 同性愛と崩壊する心
24 わぁー! わぁー! わぁー!
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「ーーーーお嬢様。お客様がお見えです」
そんなアンナの声に私は咄嗟に声がした方へと振り返ります。
これほどの短期間に私を訪ねてお客様が見える、という異常事態への驚きはもはやありませんでした。
それ以上の驚きをこの一日だけで二度も体験していますから、もう何が起きてもびっくりしません。
今回のお客様はきっとドーラさんではないでしょうか。今年のお芋の収穫が何割か済んで、去年の熟成させていた分のお芋をお裾分けに来てくれたのでしょう。
その証拠というのも何ですが、私の視線の先には姿勢良くアンナが立っていてそのアンナの後方からは、色鮮やかなエメラルドグリーンのドレスに身を包み、周囲を照らすほどに光り輝く金色の髪をふわりと宙で揺らしながら優雅にこちらへと歩いてくるドーラさんの姿がーー。
「ーーーーっ⁉︎」
「あっ! ローレライ嬢! こんにちは、御機嫌いかが?」
と、非常に活発的で生き生きとした明るいジェシカ様の性格が滲み出ている口調でそう言いながら、ジェシカ様はこちらに向かって右手をぶんぶんと振ります。
「ジェッ、ジェッ、ジェシカ様⁉︎」
まさかの来客に驚きと戸惑いの声をあげる私をよそに、ジェシカ様は口角を大きく上げて私ににこりと笑いかけます。そして、客間へと入り私の今の現状を見たジェシカ様は、
「ーーほぇ?」
と、なんとも力の抜けてしまうお声を出して私の方をぼんやりと眺めています。
そんなジェシカ様の見つめる視線の先、つまりは今の私の状況を簡単に説明すると今の私はあろう事か、ひざまずいた王国一の美男に手を取られ、そしてそんな姿を王国一の美女に見つめられています。
わぁー! わぁー! わぁー! わぁー!
私は両腕を天井に向かって突き上げ、客間にいる絶世の美女と美男の間をぐるぐると走り回ります。
というのは当然、私の頭の中で思い描かれた妄想上の奇行であって、現実はなんの面白味もなくただその場で固まっているだけです。
でもこれ……。
しかしこれ……。
いやいやこれ……。
明らかにまずいでしょう、この状況。
確かに私はつい先ほどベオウルフ様とジェシカ様を二人並べていつまでも交互に観察していたいと思いましたが、それはあくまでも叶わないと分かっている夢を夢見ただけのいわばただの戯言のようなものであって……。
私はまさかまさかの事態に今現在、目の前で繰り広げられているこの光景が夢か現実か判断しかねていました。
ちらり視線を動かした先にいるのは、壁際に追い込まれたネズミのように恐怖と覚悟が入り混じったような表情で立ち尽くしているお父様のお姿で、その表情と壁に張り付くようにしている様子が妙に現実離れしていて更に私の判断を迷わせます。
「あっ……やっぱり。表にマルグリッド公爵家の馬車があるかと思えば、君はスーパーフェミニストのベオウルフ・ハイウィンド卿じゃないかっ! その様子だと、今度はローレライ嬢に手を出そうとしているんじゃないだろうね⁉︎ ローレライ嬢を泣かせると私が許さないよ!」
ジェシカ様は語気を強めながらベオウルフ様の方へとぐんぐん詰め寄ります。
「なっーーまさか。ただのご挨拶に来ただけだよ、ジェシカ嬢」
ベオウルフ様はジェシカ様の発する圧に耐えられないといったご様子で、すぐさま握ったままだった私の左手を開放すると肩を竦めながらそうおっしゃいました。
「ご挨拶? それにしては大層なご挨拶じゃなくって?」
「そうでもないよ。君に初めて挨拶した時とまるで同じさ」
「十年も前の事だけど、はっきりと覚えてる。あの時はそんな下心が見え見えじゃあなかったように思うけど?」
「……とにかく、今日はもう失礼させて貰うよ。じゃあまたね、ローレライ嬢」
ベオウルフ様はそう言うと足早にアンナと共に玄関先へと向かいました。
するとその道中、ちょうどお父様が壁に張り付いていた辺りが物音と共に騒がしくなりました。
「あ、これはこれはポーンドット卿いらっしゃったのですね。私はベオウルフ・ハイウィンドと申します」
「あっ……ああ、頭をお上げに……そう、そのまま、そのまま。ようこそ我が家に、もっ、もうお帰りですかな? もっとくつろいでいかれては……」
余裕など微塵もなさそうなご様子のお父様が悪戦苦闘しています。
そんなアンナの声に私は咄嗟に声がした方へと振り返ります。
これほどの短期間に私を訪ねてお客様が見える、という異常事態への驚きはもはやありませんでした。
それ以上の驚きをこの一日だけで二度も体験していますから、もう何が起きてもびっくりしません。
今回のお客様はきっとドーラさんではないでしょうか。今年のお芋の収穫が何割か済んで、去年の熟成させていた分のお芋をお裾分けに来てくれたのでしょう。
その証拠というのも何ですが、私の視線の先には姿勢良くアンナが立っていてそのアンナの後方からは、色鮮やかなエメラルドグリーンのドレスに身を包み、周囲を照らすほどに光り輝く金色の髪をふわりと宙で揺らしながら優雅にこちらへと歩いてくるドーラさんの姿がーー。
「ーーーーっ⁉︎」
「あっ! ローレライ嬢! こんにちは、御機嫌いかが?」
と、非常に活発的で生き生きとした明るいジェシカ様の性格が滲み出ている口調でそう言いながら、ジェシカ様はこちらに向かって右手をぶんぶんと振ります。
「ジェッ、ジェッ、ジェシカ様⁉︎」
まさかの来客に驚きと戸惑いの声をあげる私をよそに、ジェシカ様は口角を大きく上げて私ににこりと笑いかけます。そして、客間へと入り私の今の現状を見たジェシカ様は、
「ーーほぇ?」
と、なんとも力の抜けてしまうお声を出して私の方をぼんやりと眺めています。
そんなジェシカ様の見つめる視線の先、つまりは今の私の状況を簡単に説明すると今の私はあろう事か、ひざまずいた王国一の美男に手を取られ、そしてそんな姿を王国一の美女に見つめられています。
わぁー! わぁー! わぁー! わぁー!
私は両腕を天井に向かって突き上げ、客間にいる絶世の美女と美男の間をぐるぐると走り回ります。
というのは当然、私の頭の中で思い描かれた妄想上の奇行であって、現実はなんの面白味もなくただその場で固まっているだけです。
でもこれ……。
しかしこれ……。
いやいやこれ……。
明らかにまずいでしょう、この状況。
確かに私はつい先ほどベオウルフ様とジェシカ様を二人並べていつまでも交互に観察していたいと思いましたが、それはあくまでも叶わないと分かっている夢を夢見ただけのいわばただの戯言のようなものであって……。
私はまさかまさかの事態に今現在、目の前で繰り広げられているこの光景が夢か現実か判断しかねていました。
ちらり視線を動かした先にいるのは、壁際に追い込まれたネズミのように恐怖と覚悟が入り混じったような表情で立ち尽くしているお父様のお姿で、その表情と壁に張り付くようにしている様子が妙に現実離れしていて更に私の判断を迷わせます。
「あっ……やっぱり。表にマルグリッド公爵家の馬車があるかと思えば、君はスーパーフェミニストのベオウルフ・ハイウィンド卿じゃないかっ! その様子だと、今度はローレライ嬢に手を出そうとしているんじゃないだろうね⁉︎ ローレライ嬢を泣かせると私が許さないよ!」
ジェシカ様は語気を強めながらベオウルフ様の方へとぐんぐん詰め寄ります。
「なっーーまさか。ただのご挨拶に来ただけだよ、ジェシカ嬢」
ベオウルフ様はジェシカ様の発する圧に耐えられないといったご様子で、すぐさま握ったままだった私の左手を開放すると肩を竦めながらそうおっしゃいました。
「ご挨拶? それにしては大層なご挨拶じゃなくって?」
「そうでもないよ。君に初めて挨拶した時とまるで同じさ」
「十年も前の事だけど、はっきりと覚えてる。あの時はそんな下心が見え見えじゃあなかったように思うけど?」
「……とにかく、今日はもう失礼させて貰うよ。じゃあまたね、ローレライ嬢」
ベオウルフ様はそう言うと足早にアンナと共に玄関先へと向かいました。
するとその道中、ちょうどお父様が壁に張り付いていた辺りが物音と共に騒がしくなりました。
「あ、これはこれはポーンドット卿いらっしゃったのですね。私はベオウルフ・ハイウィンドと申します」
「あっ……ああ、頭をお上げに……そう、そのまま、そのまま。ようこそ我が家に、もっ、もうお帰りですかな? もっとくつろいでいかれては……」
余裕など微塵もなさそうなご様子のお父様が悪戦苦闘しています。
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