跡継ぎが産めなければ私は用なし!? でしたらあなたの前から消えて差し上げます。どうぞ愛妾とお幸せに。

Kouei

文字の大きさ
7 / 14

第7話 幸せのぬくもりの中で…

 私の突然の問いに驚いた様子のモートン様。

 けどすぐに冷静な顔に戻り、ソファから立ち上がった。

 机の引き出しから書類の入った封筒を手に、ソファに座っている私の横に戻ってきた。

「この書類を見てくれないか?」

「あ、はい」

 渡された封筒を開け、中に入っている書類を見ると驚いた。
 私が実家でどのような扱いを受けて来たかが、事細かく記載されていたからだ。

 母と結婚する前から父には愛妾とその子供がいた事。
 母と私は離れに追い出されていた事。
 そして、離れでの生活の悲惨さが克明に書かれていた。

 …私が街に出ている事は書かれていない。
 誰も知る訳ないものね。

「まず、最初に謝らせて欲しい。君に黙って君の身上を調べた事、申し訳なかった。実は結婚式で指輪の交換をする時、君の手がひどく荒れていた事に気が付いたんだ。そこで君の境遇が気になって調べさせた。君の手は使用人のように荒れていて、伯爵家のご令嬢として過ごしていたのならありえない事だと思ったんだ」

「…っ」

 私は左の甲を覆うように右の手で握り締めた。
 隠しきれるはずもないのに。

 指輪の交換の時に彼が一瞬戸惑ったのは、私の荒れた手を見たからなのね…
 何だか急に恥ずかしくなった。

 そんな私の様子を見て、モートン様がそっと私の手を取り、甲にキスをした。

「隠す事はない。君が一生懸命生きてきた証だ。よくひとりで義母上ははうえを守ってきたな」

「!」

 な…んで会って間もないあなたがそんな優しい言葉をかけて下さるのですか?

 優しさを求めた父からは何も与えられなかった。

 身も心も弱かった母にはやすらぎを求める事もできず、ただひとり耐えるしかなかった。

 なのになぜあなたは…

「リサーリア…」

「…っ…うっ…」

 実家で過ごした日々が走馬灯のように駆け巡り、堰を切ったように涙が溢れだした。

 つらかった
 悲しかった
 怖かった

 守ってもらえるはずの父から見捨てられ、母は私が守らなければならなかった。
 あの広い屋敷の中で、私たちを助けてくる者は誰もいなかった

 だから母が亡くなり追い出されるように嫁いだこの場所で、あなたに出会える幸せがあるなんて思いもしなかった。

 私はあなたの胸の中で子供のように泣きじゃくった…


 ◇◇◇◇


「………………も、申し訳ありませんっっ」

 どれだけ泣いたか分からないけれど、涙も枯れ始めるとだんだん冷静になってきて、あわててモートン様から離れたのが数秒前。

 気が付くと、モートン様のシャツの胸元がぐっしょり濡れていた。

「今すぐ着替えをっ」

「いい、大丈夫だから」
 慌てて立ち上がる私の腕を掴まえるモートン様。

「それよりまだ話があるのだ。よいか?」

「…はい」

 私はモートン様の隣に座り直した。
 モートン様は私の右手の甲にご自分の手を重ねて話し始めた。

「最初の君の質問に答えるよ。僕は君と本当の夫婦になりたいと思っている。だから愛妾を持つ気など全くない」

「…本当ですか?」

「ああ。この結婚は確かに家同士の利益のための婚姻でもあるが、君とは良い夫婦関係を築いていけると思っている。そして僕は夫として君を決して裏切りはしないと誓うよ」


『決して裏切りはしないと誓うよ』

 誓いに意味などないと思っていた。
 そんな不確かな約束など信じられないと。

 けど…モートン様。あなたの事は信じたい…

「モートン様…」

「モートンでいい」

 この夜、私たちは夫婦になった。
 そして私は生まれて初めて、幸せの中で深い眠りについた、

 1年後に彼から裏切られる事など夢にも思わずに…
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【短編】夫の国王は隣国に愛人を作って帰ってきません。散々遊んだあと、夫が城に帰ってきましたが・・・城門が開くとお思いですか、国王様?

五月ふう
恋愛
「愛人に会いに隣国に行かれるのですか?リリック様。」 朝方、こっそりと城を出ていこうとする国王リリックに王妃フィリナは声をかけた。 「違う。この国の為に新しい取引相手を探しに行くのさ。」 国王リリックの言葉が嘘だと、フィリナにははっきりと分かっていた。 ここ数年、リリックは国王としての仕事を放棄し、女遊びにばかり。彼が放り出した仕事をこなすのは、全て王妃フィリナだった。 「待ってください!!」 王妃の制止を聞くことなく、リリックは城を出ていく。 そして、3ヶ月間国王リリックは愛人の元から帰ってこなかった。 「国王様が、愛人と遊び歩いているのは本当ですか?!王妃様!」 「国王様は国の財源で女遊びをしているのですか?!王妃様!」 国民の不満を、王妃フィリナは一人で受け止めるしか無かったーー。 「どうしたらいいのーー?」

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

冷遇夫がお探しの私は、隣にいます

終日ひもの干す紐
恋愛
愛人がいるなら、さっさと言ってくれればいいのに! 妻に駆け落ちされた、傷心の辺境伯ロシェのもとへ嫁いでほしい。 シャノンが王命を受け、嫁いでから一年……とんでもない場面に立ち会ってしまう。 「サフィール……またそんなふうに僕を見つめて、かわいいね」 シャノンには冷たいの夫の、甘ったるい囁き。 扉の向こうの、不貞行為。 これまでの我慢も苦労も全て無駄になり、沸々と湧き上がる怒りを、ロシェの愛猫『アンブル』に愚痴った。 まさかそれが、こんなことになるなんて! 目が覚めると『アンブル』になっていたシャノン。 猫の姿に向けられる夫からの愛情。 夫ロシェの“本当の姿”を垣間見たシャノンは……? * * * 他のサイトにも投稿しています。

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。