超絶美形だらけの異世界に普通な俺が送り込まれた訳だが。

篠崎笙

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春の国

揺れる心

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『くっ、……イチが可愛すぎて、幾度遂情しても、勃起が治まらぬ。全く、どうしてくれる……』

人のせいにするなよ!
俺が悪いみたいに、溜め息混じりに言うな!


『ああ、そなたの中は心地好い。このまま、抜きたくない……』
いや、抜けよ。
頬を摺り寄せるな。

超絶美形のアップは、心臓に悪いんだってば!


額に、頬に、キスされて。
とろけそうなほど甘ったるい声で。表情で。

『愛している……』
って。
無理矢理ヤっといて。愛を語るなっての。まったく。


……真っ赤になってんじゃねえよ俺も。


◆◇◆


……あれ?
そういや、ウルジュワーンの時も、はじめは無理矢理だったっけ?

なんか、いつの間にかほだされちゃったけど。


愛情表現がストレートで。年下だって聞いたからかな。
何か、可愛いと思っちゃったんだよな。

俺、流されすぎじゃね?


ふと左手を見る。
赤い、三日月のような模様。その周りを、葉っぱ……月桂樹かな? が囲んでる。

”春の国”の后妃に贈られる紋章だって言ってた。


ラグナルのは、右手に赤い太陽を、同じく葉っぱで囲んであるような印だったな。
国によって、こんな変わるんだ。

右手に大いなる力の印が現れる、って。なんか中二病っぽいよな……。オッドアイだし、天才だし。
考えてみれば、中二病の人が抱く憧れの塊のような人だ……。

中二病っぽいといえば、額の印もそうか。
他の国の印も、やっぱりそんな感じなのかな?


色でいえば、黒、紫、赤、桃、青、緑、黄……の順番で強いんだっけ?
その順番でいえば、ウルジュワーンのが強いらしいけど。黒が最強ってのもまた、中二魂をくすぐられるよな……。

どういう能力なのか、直接見てないから、強さがよくわかんないけど。
とりあえず、嘘がわかるらしいことしか知らない。


◆◇◆


……はあ。
あんなに無茶されたのに。こうもダメージ少ないって、何なんだろう。


身体もそうだけど。
精神的にも。そんなにショックを受けてないんだよな……。

ゴーカンされたんだぞ。無理矢理。
薬使われて。

なのに、涙も出てこない。怒りもわいてこない。

こんな、メンタル強かったっけ? 俺。
二回目だからかな?

いやいや、ゴーカンに一回目も二回目もあるかい!
何度だってショッキングだよ!!


異世界だからってのもあるかも。毎日が異常事態だもんな。

あれだ。
つり橋効果、だっけ? 怖くてドキドキしてると、恋と勘違いしちゃうってやつ。

迫ってくるやつが、あまりに超絶美形過ぎて。ドキドキしたのを勘違い……。


そうだよ。
きっと、感覚が麻痺してるんだ。

あんな、世界の違う人が、俺なんかにプロポーズしてくるなんて。
異常事態の中でも、トップクラスでおかしいことだ。

それで俺も、おかしくなっちゃったんだ。


特別扱いに慣れちゃって。
これでもし、元の世界に戻ったら。勘違いした、ただのイタイ人になっちゃうぞ。

超絶美形からモテてるからって調子に乗るなよ。勘違いするな。
俺は、普通の、ただの、一般人だって自覚を忘れるな。

この世界では唯一のフツメンだから、浮いてるだけで。
たとえばクラスのやつだって、この世界に来たら、同じような扱いを受けるに決まってる。
俺自身は、何の魅力も取柄もない、ただの男子高校生なんだから。

……何で俺、こんなヘコむことを自分に言い聞かせないといけないんだろう。


ああ。
俺の普通の日常、どこいった。


◆◇◆


『やや、それは后妃のモーネ紋章ウォーペンショール! 想いを遂げられたので? おめでとうございます。変人同士、お似合いのお二人ですよ!』

ハーラル……。
この末弟、どうしてくれよう。


『ははは、そうかそうか。似合いの二人か!』

ラグナルはご機嫌だった。
都合の悪い部分は聞こえないという、便利な耳をお持ちのようだ。


只今俺を片手で抱えながら、セグウェイ風の乗り物で城内を移動中だ。
ほんと何でも作っちゃうよ、この人。


『身体は、大事無いか?』
ちらりとこちらを見た。青い目の方だけだと、何となく印象が違って見えるな。

「へ、平気……」
歩けるし。


昼頃、起きたらすぐにラグナルにさらわれて、この状態なんだけど。
セグウェイもどきでドライブか?


『そうか。実は、昨日の飲み物は、媚薬ではなく、酒だったのだ。影響が無いようで良かった』
「!?」

え、お酒だったの!? 甘くて口当たりが良い分酔いやすいのか。
二日酔いにならなくてよかった……って。良くない。


「さ、酒で酔わせてゴーカンするのも、フツーに犯罪だからな!?」

『ああ、そうだな。一生かけて償おう』
流し目を送られる。


……やめろよ。そういうこと言うの。

俺、またいつどこかに飛ばされるか、わかんないんだぞ。
それなのに。


『今。この一瞬を大切に生きればよい』
ラグナル……。

そうか。
天才だもんな。

わかってるんだ。俺が、またいつ飛ばされるかもわからない身だっていうことを。


元の世界で俺は、普通の人間で。この世界では浮いてるだけだ。
それも、わかってるだろうに。


『愛しているぞ、イチ。一分一秒たりともそなたを離したくない』
何で、そんな風に。真っ直ぐに。


『あ、兄上! 領主との会見を私に押し付けるの、いい加減にやめてください!』
イーヴァルはおかんむりだ。

『しかし、イーヴァルの方が見た目に威厳があるから、意見を通しやすいのだがなあ』

『え、そ、そうですか? 仕方ないなぁ……』
照れている姿は、威厳のカケラもなかった。


イーヴァル、ちょろいな……。


◆◇◆


奉仕の日、というのがあって。
年に二度ほど、城下町に降りて、パンやお菓子を配るのだという。

孤児院にも顔を出して、寄付金の入った袋を渡していた。
今でいう、ボランティア活動かな?


ラグナルは子供たちから、ずいぶん慕われていて。
手先も器用なもんだから、壊れた玩具をあっという間に修理してみせたり。新しいのを渡したりして喜ばれていた。

距離が近すぎて、危険なんじゃないかと思ったけど。

『民が居てこその王である。直接声を聞くのも仕事のうちだ』
と、子供によじ登られながらすまし顔で言った。


『それに、赤の印持ちに、何の危険があると?』
確かにそうでした……。

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