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冬の国

拝啓祖母殿、俺、曾孫が出来てました。

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翌朝。

ザラームは朝から元気に犬ぞりを走らせて。
近くにあった村に、荷物とダーフィを預けていた。

そして、空に向かって指笛を吹いたら。
飛竜が来た。

金色の、派手なドラゴンだ。


『さ、乗って』
鞍に乗せられて。その後ろに、ザラームが乗り込んだ。

手すりがついてるから、これ、二人乗りなのかな?
振り向くと。ザラームがヘルメットみたいなのを装着して、手綱を握っていた。


『それに捕まって、伏せてたほうがいいよ?』

慌てて手すりにつかまって、前傾姿勢になったら。
ぶわあ、と浮いて。

ドラゴンが、急発進した。


ひえええ、G! Gがかかる! 何、この既視感!?


◆◇◆


しばらくして。
速度が落ちたような体感がして。

『はい、”春の国”、到着ぅ~』
後ろから、声を掛けられた。


ここは。
見覚えがある、春の国の王城だ。ほとんど変わってないように見える。

『現王にも連絡しといたんだ。ほら』
後ろから指をさされて。その方向を見ると。

城の前で。
王様っぽい人が手を振ってる。髪は黒い。奥に、もう一人。


『奥に居るのが前国王、シグルズで、髪が黒いほうが現国王、ヴォルンドルだ』

ドラゴンが、ふわりと地上に降りた。
ザラームがスタッとドラゴンから降りて。ザラームの手を借りつつ、俺も、ふらふらになりながら降りたら。

40歳くらいかな? 王様っぽい渋めのイケオジが、笑顔で俺に駆け寄ってきて。


『ああ、お初にお目にかかります、お祖母様……!』
と。感動の再会、みたいな感じで抱きつかれたんだけど。

お、おばあ……え? 何だって?


『母上……! まさか、生きてお会いできるとは……、』
白髪のイケ老人にも、涙ながらに抱きつかれる。

今度は母上?
何ですと? 俺が母上? でもってお祖母様だって? どういうこと!?


いや、どちらも俺より年上にしか見えないんですが!?

がっちりと両側から抱き締められている。
ザラームも。この光景を見て、びっくりした顔をしてる。


◆◇◆


今から121年前。

俺、赤の王の妃・イチ……つまり俺は。
赤ん坊だったシグルズを残して、忽然と消えたという。

……そんなに前なの!?


っていうか俺、本当に。過去の世界から今まで、ぴょ~んと飛んできたの? マジで?
まだ実感がないというか。どうなってんの? って感じ。


ラグナル、享年140歳か。あれから、長生きしたんだな……。
病気で倒れるその日まで。ずっと発明を続けていたんだって。頑張ったんだな。


その息子、シグルズ。121歳……。つまり。俺と、ラグナルの子なのか。
ほんとに自然発生するんだ……。
でもって、自然発生なのに、父親と母親って役割あるんだ……。

つまり。抱かれる方が母親で。子供は母親に似るらしい。自然発生なのに……あまり深くは考えないほうがいいんだろうか。頭パンクしそう。

言われてみれば、俺とラグナル、両方の面影があるかな?


そして、シグルズの息子、ヴォルンドル。”春の国”の現国王だ。
65歳? 見えないな……。40歳くらいだと思ってた。

ずいぶん遅くに作った子だな、って思ったら。

シグルズがあまりにもモテモテだったので、国内外から申し込みが殺到して。なかなか結婚相手を決められなかったんだって。
ラグナルも、一粒種のシグルズを目に入れても痛くないほど可愛がってたから、それも婚期が遅れた原因らしい。

でも、ラグナルに隠れて、若い頃は随分浮名を流してた? ……どうやら俺の遺伝子は継いでなさそうだな!


色々あったんだなあ。


◆◇◆


あれから、121年も経ってるなんて。信じらんないよ。
城も庭も、変わりないように見えるし。

俺との思い出の庭は、そのまま残したいってラグナルが言ってたから。みんなで維持してくれてたって? そうなんだ。


ラグナル王が現役を引退するのが遅かったので、シグルズの戴冠が遅れて。王としての在位は短いとか。
シグルズ、これで121歳かよ! 70歳くらいに見えるのに。背筋もしゃんと伸びてるし。この世界の人って、ほんとに長寿なんだな。

ヴォルンドルも40代にしか見えない。若く見えるのは、俺に似たからかもしれないって? でも、自分は早めに引退する、と言って笑った。

ヴォルンドルの息子、トールも紹介された。20歳だって。


わーい祖母ちゃん。
俺、知らない内に息子と孫と、ひ孫が出来ちゃってたよ! 全員、俺より年上だけど!


みんなで揃って、ラグナルの墓前へ向かった。

『”冬の国ヴィンテラ”王、ザラーム殿。ありがとうございます。生きているうちに母の姿をひと目でも、との願いが叶い、感謝します』
シグルズが、ザラームに礼を言っていた。

王?
ザラームって、”冬の国”の王様だったの!? 今知ったよ!


『礼を言いたいのはこちらです。同行を許可していただき、望外の喜びです』
あ、言葉遣いがちょっと丁寧になってる。

『ザラームさん、曾祖父ちゃんの大ファンだもんな』
トールが笑ってる。

ザラームと知り合いなのかな?

ああ。
トール、笑い方が、ラグナルにそっくりだ。


墓に、花を供えて。手を合わせる。

……幸せそうな人生だったようだ。
良かった。


ラグナル、一人じゃなかったんだな。


◆◇◆


『母上、ここに手を置いてください』


シグルズが示した場所には、石の柱があって。

上部に月のマークが入ってる。
これって。后妃の印?

手を置いてみると。

床が、ゴトンと動いた。
そのまま下に、ゆっくりと降りていく。


『な、何、これ!?』
トールが慌てて。

『おお、これ、”魔動エレベーター”ですよ!』
『えっ、そっちも実用化してたんですか!?』

ヴォルンドルとザラームは嬉しそうだ。
シグルズはうんうん頷いてる。

どうやらこのエレベーター、后の印にしか反応しないようになっているようだ。


地下に到着した。
エレベーター出口の先は、大きな空間があって。

『おお……』

「何だこれ!」
俺の写真がいっぱい、大きく引き伸ばした状態で、壁に貼られてあった。

カメラ。
フィルムも。

俺がいた時に、すでに完成してたのか。


なんだよ。何で教えてくれなかったんだよ。
びっくりさせるためとか?


まったく、ラグナルってば。
相変わらずだ。

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