25 / 51
秋の国
ここはどこなんでしょうか。
しおりを挟む
「いってえ!」
固い床に落ちたっぽい。
ソファーから、寝ぼけて落ちたのか?
『誰だ! 神聖なる”儀式”の邪魔をするのは!?』
え、……儀式?
何の?
青みがかった銀色っぽい髪に、同じような瞳をした超絶美形な青年が、驚いたような顔をしてこっちを見ていた。
見回してみれば、洞窟のような場所で。
蝋燭の灯りしかなくて、薄暗い。
ローブを着た人たちが数人いて、銀髪の青年を囲んでいる。
なにこれ、あやしい儀式?
『貴様、どこから侵入した!?』
ローブ姿でフードを頭から被った人が、俺の襟を掴んで持ちあげた。
わあ、すごい力持ち。
『しかし、隙間など、どこにも……』
兵士っぽい人は、あわててその辺を確認している。
『とりあえず、外に出しておけ! 沙汰はそれからだ!』
と、兵士っぽい人に渡されて。
外に連れ出された。
◆◇◆
ああ……秋の風が身にしみる……。
秋……だよな?
ここ、”秋の国”なんだよな!?
森の色とか、紅葉っぽいし。
涼しいというか、肌寒いし。夏服だからね!
あの日はヤってないのに。一緒に寝てたらアウトなわけ? わけわかんねえなもう!
ザラーム、あれだけ神経質になってたというのに。
荒れてないかな。
子を授かってたら、少しは落ち着いてくれてるかな?
左手の手に紋章はあるし。胸に、黒い印もある。額には、何も無い。
ということは。
”冬の国”にいた時よりも未来で、”夏の国”よりも過去か。
西暦みたいに。目星があったらわかりやすいのに。
無いんだよな。ここには年号が。
一日24時間と、12カ月を一年としてカウントはされてるらしいけど。それだけで。
でも、みんなそれに何の疑問も持たずに暮らしているんだ。
歴史を勉強する必要が無いから。
教会はあるけど、神の教え的なものは無くて。
慈善事業をする施設のようなものだ。でも、神様の存在は信じてる。
国語とか算数的な勉強をちゃんとするのは、それが必要な職業の人だけ。
歴代の王の名前とかも、テストに出るわけじゃない。知ってるのは、王の城にいる記録係くらいだろう。
ラグナルくらい有名になれば、他国にも王様の名が伝わるくらいで。
基本的に、他の国のことは知らないのが当たり前らしい。
計画性がないというか、その日暮らしなんだよな。
兵士は、俺の顔をチラチラ見て、頬を染めていた。
ああ、ここでも俺は”カワイイ”のか。
「なあ、ここって、”秋の国”?」
『何だそれは。ここは偉大なる皇帝の国である。そのような名前ではない』
ええええ。
春夏秋冬の他にも、国があったの!? 初耳だよ!
「じゃあ”冬の国”とか”春の国”って知ってる?」
『”冬の国”は氷菓子で有名な国で、”春の国”は偉大な発明王のいた国だな』
あ、氷菓子、有名になってる時代なんだ。
順調なようで何よりだ。
そんでもって、未だに有名なんだ、ラグナル……。さすがだ。
◆◇◆
がやがやと声がして。
洞窟から、人が出てきた。
『結果はいかがでしたか?』
兵士っぽい人が尋ねた。
『……白だ』
あ、この声。
さっき俺を掴みあげた人だ。
ローブのフードをおろすと、黒い髪に、金色の瞳の超絶美形。肌の色も黒い。
めっちゃ怒ってるようだ。
『貴様、よくも我が弟の神聖なる儀式を邪魔してくれたな! 即刻う……、』
う?
男は俺の顔を見て、固まってる。
あの銀髪の青年、弟なのか。似てない兄弟だな。
「即刻、う、何?」
男は、みるみる内に真っ赤になって。
『う、……うちに連れ帰って、私の、嫁にする……!!』
えええええ。
どうしてそうなるんだよ!?
『ええええ!?』
『皇帝陛下!?』
『どういうことです兄上えええ!?』
周りの人も、同じように叫んでいた。
え、……皇帝陛下?
この人が!?
◆◇◆
皇帝陛下の名前は、偉大なるエセル、というらしい。自分でそう名乗った。
似てない弟の名は、ルーク。
『あ、あの、処罰を与えるのでは……?』
ローブ姿の神官らしき人が皇帝に言った。
『貴様、このような無垢で可愛らしい生き物に害をなそうというのか。血も涙も無いな。鬼なのか?』
なんか俺は、何故か皇帝の膝の上で、頭を撫でられてる。
『陛下が仰られたんですよね!?』
『ん? 何だこれは。刺青か?』
俺の左手を持ち上げて。
これ、この皇帝は知らないのか。
印持ちなのに?
『……それは春の……え、赤……?』
神官は気づいたようだ。
そりゃ印を授ける儀式の神官なら、知ってるか。
『よく見れば、身体にもあるな。奴隷のあかしか何かか? かわいそうに、誰にこんな真似を……』
皇帝は、俺の胸の印を覗き込んでる。
夏服だから、見えちゃうんだよね。
このまま日本に戻ったら、間違いなく退学だよこれ。
夏休みデビュー扱いされるね。
『冬……それも、黒……』
神官の顔が真っ青になっていく。
『あの、その方は……』
口に人差し指を持ってって。
後で、と合図した。
神官は黙って頷いた。
◆◇◆
神官は、セスという名前で。何となくラクさんに似た感じのする人だった。
耳が尖ってて。銀色の髪に、青い瞳。遠い親戚かな?
印を授ける儀式を担当する神官の間では、噂になっていたようだ。
左手に赤の后妃の印を持つものは、神の使いであり、現れた国に幸をもたらす。
”春の国”や”冬の国”は、そうして莫大な冨を得たのだと。
……いつのまに、そんな与太話が噂として広まってんだよ……。
人の噂ってあてにならないよね。
みんな、俺じゃなくて。王様たちの努力の成果だよ。
頑張ってたの、俺、傍で見てたから知ってるもん。
固い床に落ちたっぽい。
ソファーから、寝ぼけて落ちたのか?
『誰だ! 神聖なる”儀式”の邪魔をするのは!?』
え、……儀式?
何の?
青みがかった銀色っぽい髪に、同じような瞳をした超絶美形な青年が、驚いたような顔をしてこっちを見ていた。
見回してみれば、洞窟のような場所で。
蝋燭の灯りしかなくて、薄暗い。
ローブを着た人たちが数人いて、銀髪の青年を囲んでいる。
なにこれ、あやしい儀式?
『貴様、どこから侵入した!?』
ローブ姿でフードを頭から被った人が、俺の襟を掴んで持ちあげた。
わあ、すごい力持ち。
『しかし、隙間など、どこにも……』
兵士っぽい人は、あわててその辺を確認している。
『とりあえず、外に出しておけ! 沙汰はそれからだ!』
と、兵士っぽい人に渡されて。
外に連れ出された。
◆◇◆
ああ……秋の風が身にしみる……。
秋……だよな?
ここ、”秋の国”なんだよな!?
森の色とか、紅葉っぽいし。
涼しいというか、肌寒いし。夏服だからね!
あの日はヤってないのに。一緒に寝てたらアウトなわけ? わけわかんねえなもう!
ザラーム、あれだけ神経質になってたというのに。
荒れてないかな。
子を授かってたら、少しは落ち着いてくれてるかな?
左手の手に紋章はあるし。胸に、黒い印もある。額には、何も無い。
ということは。
”冬の国”にいた時よりも未来で、”夏の国”よりも過去か。
西暦みたいに。目星があったらわかりやすいのに。
無いんだよな。ここには年号が。
一日24時間と、12カ月を一年としてカウントはされてるらしいけど。それだけで。
でも、みんなそれに何の疑問も持たずに暮らしているんだ。
歴史を勉強する必要が無いから。
教会はあるけど、神の教え的なものは無くて。
慈善事業をする施設のようなものだ。でも、神様の存在は信じてる。
国語とか算数的な勉強をちゃんとするのは、それが必要な職業の人だけ。
歴代の王の名前とかも、テストに出るわけじゃない。知ってるのは、王の城にいる記録係くらいだろう。
ラグナルくらい有名になれば、他国にも王様の名が伝わるくらいで。
基本的に、他の国のことは知らないのが当たり前らしい。
計画性がないというか、その日暮らしなんだよな。
兵士は、俺の顔をチラチラ見て、頬を染めていた。
ああ、ここでも俺は”カワイイ”のか。
「なあ、ここって、”秋の国”?」
『何だそれは。ここは偉大なる皇帝の国である。そのような名前ではない』
ええええ。
春夏秋冬の他にも、国があったの!? 初耳だよ!
「じゃあ”冬の国”とか”春の国”って知ってる?」
『”冬の国”は氷菓子で有名な国で、”春の国”は偉大な発明王のいた国だな』
あ、氷菓子、有名になってる時代なんだ。
順調なようで何よりだ。
そんでもって、未だに有名なんだ、ラグナル……。さすがだ。
◆◇◆
がやがやと声がして。
洞窟から、人が出てきた。
『結果はいかがでしたか?』
兵士っぽい人が尋ねた。
『……白だ』
あ、この声。
さっき俺を掴みあげた人だ。
ローブのフードをおろすと、黒い髪に、金色の瞳の超絶美形。肌の色も黒い。
めっちゃ怒ってるようだ。
『貴様、よくも我が弟の神聖なる儀式を邪魔してくれたな! 即刻う……、』
う?
男は俺の顔を見て、固まってる。
あの銀髪の青年、弟なのか。似てない兄弟だな。
「即刻、う、何?」
男は、みるみる内に真っ赤になって。
『う、……うちに連れ帰って、私の、嫁にする……!!』
えええええ。
どうしてそうなるんだよ!?
『ええええ!?』
『皇帝陛下!?』
『どういうことです兄上えええ!?』
周りの人も、同じように叫んでいた。
え、……皇帝陛下?
この人が!?
◆◇◆
皇帝陛下の名前は、偉大なるエセル、というらしい。自分でそう名乗った。
似てない弟の名は、ルーク。
『あ、あの、処罰を与えるのでは……?』
ローブ姿の神官らしき人が皇帝に言った。
『貴様、このような無垢で可愛らしい生き物に害をなそうというのか。血も涙も無いな。鬼なのか?』
なんか俺は、何故か皇帝の膝の上で、頭を撫でられてる。
『陛下が仰られたんですよね!?』
『ん? 何だこれは。刺青か?』
俺の左手を持ち上げて。
これ、この皇帝は知らないのか。
印持ちなのに?
『……それは春の……え、赤……?』
神官は気づいたようだ。
そりゃ印を授ける儀式の神官なら、知ってるか。
『よく見れば、身体にもあるな。奴隷のあかしか何かか? かわいそうに、誰にこんな真似を……』
皇帝は、俺の胸の印を覗き込んでる。
夏服だから、見えちゃうんだよね。
このまま日本に戻ったら、間違いなく退学だよこれ。
夏休みデビュー扱いされるね。
『冬……それも、黒……』
神官の顔が真っ青になっていく。
『あの、その方は……』
口に人差し指を持ってって。
後で、と合図した。
神官は黙って頷いた。
◆◇◆
神官は、セスという名前で。何となくラクさんに似た感じのする人だった。
耳が尖ってて。銀色の髪に、青い瞳。遠い親戚かな?
印を授ける儀式を担当する神官の間では、噂になっていたようだ。
左手に赤の后妃の印を持つものは、神の使いであり、現れた国に幸をもたらす。
”春の国”や”冬の国”は、そうして莫大な冨を得たのだと。
……いつのまに、そんな与太話が噂として広まってんだよ……。
人の噂ってあてにならないよね。
みんな、俺じゃなくて。王様たちの努力の成果だよ。
頑張ってたの、俺、傍で見てたから知ってるもん。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
642
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる