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ふたたび、夏の国

戻ってきました。

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「いってえ!」

落ちて、腰を打った。

なんか、辺りは薄暗いんだけど。……洞窟っぽい。これって。ルークが印を授かった洞窟に似てる。まだ、秋の国なのか?
それともまた、他の国とか……。


『……まさか……イチなのか……?』

数人いた、ローブ姿の中の1人が立ち上がって。
被っていたフードを下ろした。

……嘘だろ。

現れた、黒髪に紫の瞳。
額には、紫の印。


ウルジュワーンだ!


俺、戻ってこれたの!? ”夏の国”に。
ウルジュワーンの元に。


◆◇◆


「ウージュ、」
『ああ、イチ……! これは、夢ではないのだな?』

ウルジュワーンが、俺の元に駆け寄ってきて。
抱き締められて、抱き返す。


広い背中。
前よりも、大きくなった気がする。

この、どこか甘く、オリエンタルっぽいにおい。腕。

ああ、ウルジュワーンだ。
……ちょっと老けた? というか、大人になったような。


『15年だ。イチ。ちょうど、あの日より15年経ったのだ。……ああ、よく見せておくれ。余の愛しいイチよ。今まで、どこへ行っていたのだ。そなたは、少しも変わっていないな?』

嘘。
ここ、あれから15年後の”夏の国”なの!?

じゃあ、えーと。
ウルジュワーンは、31歳? 31にしちゃ若くない?

ただでさえ超絶美形なのに、よりイケメン度が増してる気がする。
どう見ても、立派な王様だ。ドキドキしちゃうよ。


『イチ……これは?』
声のトーンが低くなった。

俺の左手や、両耳。
胸についている”印”に気付いたようだ。

『赤、青、白? 初めて見る印だな。待て……黒だと? どういうことだ』

まるで浮気を責められているような気分である。
いや、実際、浮気みたいなものか。ふ、不可抗力です!

冷や汗出てきた。


『あの、王、儀式の最中ですが……?』
神官らしき人が、おそるおそる声を掛けてきた。

『ああそうだった。余とイチの子、アブヤドの儀式の途中であったのだ。……これは我が后、イチである。アブヤドよ、母だぞ』

『母上!?』
黒髪黒目の、可愛らしい顔をした少年は、びっくりした顔をしていた。

え、あの子が俺の?


やっぱり、子供、授かってたんだ。
ウルジュワーンと、俺の。


◆◇◆


何だかよくわからないうちに、ローブを着せられて。
俺も儀式に参加することになった。


アブヤドを囲むように、座って。

神官が呪文を唱えながら、聖水をアブヤドの額につけている。
しるしを、さずけたまえ、と全員で祈っていると。

アブヤドの額が、ぼんやりと光った。


……白い、印だ。

『印は、授けられたようですが……白?』
『白? これは……どういうことだ?』

みんな、見たことがない、と驚いている。

黒、紫、赤、桃、青、緑、黄以外の印の存在は、確認されていないという。
黒も、昔に存在を確認されたくらいで。
冬の王、ザラームが持っていたという情報もないようだ。

秋の国の王、ルークの情報は外に出てないのか?
放逐された秋の国の神官セスは、他の人に、白の印の存在を伝えなかったのか。


この世界の人って、あまり自分の持っている情報を他者に共有させようと思わないみたいだ。自分の発明を多く広めようとしたラグナルが、特別だったんだ。
ほんとに、すごい人だったんだな……。


「白は、黒よりも強い力だったよ」

『イチ?』
『白の印について、ご存知なのですか?』
神官に訊かれて。


俺は、今までのことを説明した。

”夏の国”から、過去の”春の国”に飛ばされて。
そこから”冬の国”、”秋の国”へ行ったこと。

そこで、何が起こって、何を見たかを。


◆◇◆


『まさか、そんなことが……』

『しかし、確かにこれは春の国、冬の国、秋の国の后妃の”印”に間違いありません。凄いですね……実物は、初めて見ました』
神官が俺の印を確認して言った。

『神はいったい、何を考えておられるのだ……!』
ウルジュワーンが頭を抱えてる。

俺もそう思う……。
っていうか、俺が一番、それを聞きたいんだぞ?


『あの、母上?』
「ん?」

アブヤド、さすが美形遺伝子が強いのか、可愛い顔をしている。
年齢相応の身長なのは、俺の遺伝子のせいかな。すまない。

見ろ! これが本物の”カワイイ”だ!!
と、声を大にして言いたい。

この子に比べたら、俺なんて普通だろ? 普通ですよね!?


『わたしの力がそれほど凄いのなら、ラクの怪我も、治せるのでしょうか?』

アブヤドの世話係になったというラクさんは、去年事故で複雑骨折をしてしまい、未だに歩くのに支障が出ているという。
それで、儀式の場所にも来られなかったのを、残念に思っているようだ。

「うん、黒の王も、骨折を治してるの見たし。練習すれば、アブヤドにも出来ると思うよ」

『良かったあ』
ほっとしたように笑った。


優しい子に育っているようで。俺も嬉しい。


◆◇◆


『ああ……カワイイが並んでる……やだ……超萌える……』

洞窟の壁に寄り添って悶絶してるのは、ハルさんだった。
居たんかい。

これまた、妖艶ともいえる美貌におなりで。


『そっかー。冬の国の氷菓子のゲスい売り方、イっちゃんの入れ知恵だったんだねー』
ゲスい言うな。

限定販売で安売りしないので、今じゃ滅多に手に入らない、高級菓子扱いだもんな。

「でも、もう同じモノ作れるんじゃないのか?」
『いやー、あれから同じレシピで作ってみたんだけど、どうしても同じ味にはならなくてさ。みんなで、何でだろうねって言ってたんだ』


そうか。
15年、か。

長かった、よな。


『また、作ってくれる?』
ハルさんは変わらない笑顔で言った。

『母上、わたしも食べてみたいです! 栗きんとんとやらも、是非!』
アブヤドも、興味津々のようだ。
食いしん坊は遺伝だろうか。


「うん、みんなで食べような」
材料を揃えないとだけど。

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