上 下
4 / 23
ネイディーンへ

意志の疎通

しおりを挟む
二人はなにやら真剣に相談をしているようだ。

色違いでお揃いの衣装といい、仲が良さそうだ。友達同士だろうか?
海瑠は首を傾げて二人を見守ってみた。

じゃんけんのような勝負で何かを決めた様子で。
黒いほう、クリシュナが勝ったらしい。
白いほう、オーランドは見るからにがっくりしている。


『***、***』
クリシュナに肩を掴まれて、向かい合うかたちになる。

少々表情の乏しい、人形のような美しい顔が間近に迫り、海瑠はドキドキしてしまった。
綺麗な人というのは、男女の区別なく全てを魅了するものである。


「………………!?」
クリシュナの唇が触れ。
舌先が侵入してきたのであった。


一応、役者なので。女とも男とも、演技でキスをしたことはあったのだが。

ファーストキスではなかったものの。
舌まで入るキスは、それほど経験がなかったのである。


◆◇◆


「て、てめえ! 何しやがる!?」
思わずクリシュナの胸板を押し、突き飛ばすと。


いつの間にか現れた騎士風の男が二人、剣を抜き、首許へ突きつけて来た。
突然浴びせられた殺気に、びくっとしたが。

『よせ、ナイジェル、リッター。この方にとって、不埒な行いをした私が悪いのだ』
クリシュナが二人を止めた。

『はっ、』
白い鎧の騎士は大人しく下がった。

『しかし、王子』
『ナイジェル、』

クリシュナに睨まれて渋々下がった、黒い鎧の騎士はナイジェルというらしい。
では、白い騎士がリッターか、と納得する。


『花のような唇を奪った無礼をお詫び申し上げる。こちらの言葉が理解できる魔法をかけるのに必要であったゆえ』
クリシュナは跪いて海瑠の手を取り、謝罪した。

魔法とは? と首を傾げたが。
実際に言葉が通じるようになったので。

「そうだったんだ。ありがとな」
まあいいか、と思い、海瑠は素直にお礼を言った。


海瑠はこの年齢で天真爛漫、と言えば聞こえはいいが。かなり単純な性格であった。


◆◇◆


『改めて自己紹介をしよう。私は黒きものクリシュナ希望の国ネイディーンの第一王子だ』
『私は輝く太陽オーランド。同じくネイディーンの第二王子です』

聞いたことない国だが。本物の王子のようだ。
騎士からも王子と呼ばれていた。

「水無月海瑠。一応、役者デス……」
思わず声が小さくなってしまう海瑠だった。


じゃんけんのようなものは、やはりじゃんけんだったようだ。ハサミと石つぶてと紙。
こういう遊びは全世界共通なのだろうな、と海瑠は思った。

「で、さっきおれに、何て言ってたんだ? マルか、とかなんとか」


『是非、我々の女王マルカになってほしい、とお願い申し上げた』
クリシュナは真顔で。

『共に城に来て、私たちの女王になってください』
オーランドは輝くような笑顔で言った。


……女王に、なってください?

空耳でもなんでもなく。確かにそう言った。
SM的な意味で?


「女王って……おれ、男なんだけど……?」
そう言うが。

海瑠の繊細な白く細い指先。白い肌。華奢な肢体も、少女めいた愛らしい顔立ちも、まさしく美少女そのものであった。
男らしさの要素がカケラも見当たらなかった。


◆◇◆


王子二人は、上から下まで海瑠の姿を見て。

『ははは、またまたご冗談を』
「男だってば、ほら」
海瑠は笑うオーランドの手を握り、股間へ導いた。


『え、そんな、大胆な……! ええっ!? ……おお、ささやかながらも、これは、』

もにもにもに。

もにもにもに。

もにもにもに。

オーランドは驚くどころか、その感触を明らかに楽しんでいた。
テクニカルな指先で。


「はう、……ちょ、おま、大胆なのはおまえだろ! 揉むな! あやうくイっちゃいそうになっちゃっただろ!」
海瑠は股間を押さえて涙目だった。ささやかとか言われたし。

クリシュナは、それを羨ましそうに見ている。


『ええ、確かに男性でした。しかしまあ、これなら男でも構わないんじゃないかな、この際。ねえ兄上?』
と、オーランドは兄のほうを見た。

『ああ、異世界人なのは間違いない。バレなければ問題なかろう』
クリシュナは頷いた。


「兄弟だったのか……」
全く似てないどころか、人種も違うように見えるのに。

そういえば第一王子と第二王子、とか言っていたような気がする、と海瑠は首を傾げた。


『とにかく、私たちと一緒に城へ来てもらえませんか?』
オーランドが手を差し出した。

「……断ったりしたら?」


王子の背後で、騎士二人が剣を構えていた。

OK、命があぶない。
よくわからないが、せっかく転落死を免れて助かった命である。こんなかたちで失いたくはない。


海瑠は泣く泣く、王子たちに着いて行くことになった。


◆◇◆


それにしても、ここはどこなんだろう……外国だろうか?

再びのじゃんけんの末、またも勝利を収めたクリシュナの腕の中。
馬に揺られながら海瑠は思った。


オーランドは最初にグー……石つぶてを出す癖があるようだ。
それをクリシュナに言うと、内緒、とウインクされた。

そういう表情をすると、案外若いのかもしれない。
じゃんけんで勝負したりしてるし。と思い、年齢を聞いてみたところ。


「じゅ、15歳……だと……!?」

自分の半分しか生きてない小僧のクセに。こんなでかいのか。
海瑠の身体を余裕ですっぽり覆ってしまうほどの体格差。
腕など、自分の太股ほどある。

海瑠は悔しさを噛み締めた。


『カイル姫は……いえ、レディに年齢を訊くなど、失礼でしたね』

隣で優雅に白馬を操っているオーランドが笑顔で言った。
白馬の王子姿が似合いすぎる男であった。

「姫じゃねえ……」

今まで、彼らは実際に女を見たことがないという話なのに。何故、レディに対する態度を知っているのだろうか。
自分はレディではないが。

聞いてみると。昔はいたというが。女神が消してしまったらしい。
女神こわい、と海瑠は震えた。


『しかし、女性がいた頃の書物は残っているので。……貴方は書物で見た、女性そのものです』

「ぜんっぜん褒めてねえっつーの……。ちなみにおれは、30歳だ」
『………………』
『………………』
『………………』
『………………』

王子も騎士も。
四人とも、沈黙している。


『あー。魔族とかは、千歳くらいまで若いまま生きると言いますよねー』
白の騎士リッターが沈黙を破り、笑顔で言った。


「おれは魔族じゃねえ、人間だ!」
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

勇者召喚に巻き込まれた僕は異世界でのんびり暮らしたい

BL / 連載中 24h.ポイント:4,522pt お気に入り:110

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:44,957pt お気に入り:35,284

街を作っていた僕は気付いたらハーレムを作っていた⁉

BL / 連載中 24h.ポイント:4,239pt お気に入り:1,953

消えた一族

BL / 連載中 24h.ポイント:13,139pt お気に入り:605

攻略対象の婚約者でなくても悪役令息であるというのは有効ですか

BL / 連載中 24h.ポイント:2,932pt お気に入り:1,866

処理中です...