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そして、末永く幸せに暮らしました。
途方に暮れた気分で。
ひと気の無い、物置小屋のようなところを見つけ、休憩した。
頭陀袋に入っていた塩飴を、二人で舐める。
混乱した気持ちを静めるのにも、糖分は効果的である。
だいぶ血も流したし、塩分も必要だろう。
落ち着いて考えたが。
間違いない。
「どうやら、過去の世界に飛んだようだな……」
『過去?』
「そうだ。それも、百年以上、過去のようだ」
江戸時代より前からあったという、うちの寺が存在しない、ということは。
300年以上前かもしれない。
あるいは、もっと昔か。そうなると、戦国時代になるのか?
◆◇◆
『もう一回、チャレンジしてみる?』
「いや、もう目印がないんだろう? 今度はどんな時代に飛ばされるか、わかったものではないぞ」
下手をしたら、次元の狭間で永遠に彷徨うはめになるかもしれない。
回復できるかわからないし。魔力の無駄遣いも避けたい。
テオは、俺の腰に手を回している。
暖かい手。
……生きている。
確かに、ここにいるのだ。
「魂の傷とやらは、もういいのか?」
テオは不思議そうに首を傾げた。
『ああ、何か、天界かな? 光に包まれた人が、手をかざしてくれて。それで、楽になった』
あの方か。
善なる願いならば、必ず叶えてくださるという。
俺の、最後の願いを。叶えてくださったのだ。
加護はなくなろうとも、感謝は忘れない。
この後、一生涯、祈りを捧げよう。
「よかった。テオが、いなくなったら。どうしようかと思った」
キスをして、抱きついた。
『えーと、一回分は、あるけど』
テオが腰の小物入れから出したものは。
香油?
……貴様、何でそんなものを持ち歩いているのだ。
◆◇◆
慣らされて。
テオが入ってくるのを感じる。
熱い身体。
背に回した手から伝わる、力強い鼓動。
生きているのが嬉しい。
こうして、触れ合えるのが嬉しい。
俺の、はじめてのひと。
「テオ、愛している」
『善正。俺も、愛してるよ』
深く、身の内に熱を感じて。
「……っ、」
『どうした?』
「腹が、一瞬、熱くなった」
まだ、熱い。
中に精を出されたときとは何か、違う感覚だ。
『どれ?』
テオが俺の腹に手を当てて、目を瞠った。
『……できてる。女神の加護が、ギリギリ間に合ったのか……?』
テオの顔が赤い。
えらく興奮しているようだが。……何ができたと?
「何がだ?」
『俺たちの、子供』
オレタチノ、コドモ?
「こ、子供だと!?」
ここはもう、異世界ではないというのに。
それは卵状のまま出てきて。暖めれば、中から子供が生まれるらしい。
確かに、出産の痛みはなかった。
おかしな感じだ。
俺が母とは。結婚式も挙げていないのに。
異世界の、女神の力がここにまで及んでいたとは。
まさに、奇跡だ。
……奇跡?
ふと、気付いた。
「……ああ、そうか。そうだったのか……」
『どうした?』
「いや、俺達が出逢ったのは、昔から定められた運命だったのだと、理解しただけだ」
◆◇◆
未来の世界で、俺が手に取った卓也のラノベは、三度目の移動中に紛失していた。
おそらく、過去のエリノアへ届いていることだろう。
テオの声が、俺だけに聞こえた訳。
俺が異世界に渡って、言葉が通じた訳。
それは。
おそらく、遠い祖先の血のせいだろう。
生まれた子供の名は、”源”と決めた。
高槻家、我が寺の初代和尚の名前である。
テオの装備を都で売り払うと、かなりの高値で売れた。
それで、山を含めた一帯の土地を買って。寺を建てることにした。
この時代、あちこちで神社仏閣が乱立していたので、どさくさに紛れてひとつ増えても問題なかった。
寺の名前は、ゼンショー。……禅正寺と名付けた。
今は小さな寺だが。
将来的には檀家も増え、寺子も大勢抱え。年末年始ならずとも、人の大勢集まる、大きな寺となるだろう。
拝むのは。天界の、あの方の御姿をかたどった、拙いながらも俺が一本の木から掘り出したものだ。
何万人もの人に祈られ。
その想いが、後の人々の力に、礎となればいい。
石碑には、テオに文字を刻んでもらった。
”異世界より来る”。と。
俺たちが死んだら。
墓碑は刻まず、亡骸はあの石碑の元に埋めて欲しい、と告げよう。
それは、後にこちらへ渡るものへの道しるべとなるだろう。
◆◇◆
突如、ひなびた村に現れた赤毛の大男は。
はじめは言葉も通じず、村人から恐れられていたが。
持ち前の人柄の良さもあり、すぐに打ち解けた。
気は優しく力持ちで愛想も良いので、力仕事などの手伝いによく呼ばれるようになった。
大男の傍らには、いつも墨染めの衣を着た青年と。
2人に良く似た子供がいた。
3人で、仲睦まじく暮らしていたそうだ。
子供は長じて和尚となり、檀家から慕われたという。
大男は後に寺男、と呼ばれて、寺子屋で算術や剣術を教え、子供達からはたいそう好かれた、という話だ。
「ここで、共に暮らそう。……テオ、愛している」
「ああ。愛してる、善正」
毎日のように愛を囁き。
キスを交し合った。
卓也のラノベにも書かれていた通り。
二人は末永く幸せに暮らして、物語は終わるのである。
おわり
ひと気の無い、物置小屋のようなところを見つけ、休憩した。
頭陀袋に入っていた塩飴を、二人で舐める。
混乱した気持ちを静めるのにも、糖分は効果的である。
だいぶ血も流したし、塩分も必要だろう。
落ち着いて考えたが。
間違いない。
「どうやら、過去の世界に飛んだようだな……」
『過去?』
「そうだ。それも、百年以上、過去のようだ」
江戸時代より前からあったという、うちの寺が存在しない、ということは。
300年以上前かもしれない。
あるいは、もっと昔か。そうなると、戦国時代になるのか?
◆◇◆
『もう一回、チャレンジしてみる?』
「いや、もう目印がないんだろう? 今度はどんな時代に飛ばされるか、わかったものではないぞ」
下手をしたら、次元の狭間で永遠に彷徨うはめになるかもしれない。
回復できるかわからないし。魔力の無駄遣いも避けたい。
テオは、俺の腰に手を回している。
暖かい手。
……生きている。
確かに、ここにいるのだ。
「魂の傷とやらは、もういいのか?」
テオは不思議そうに首を傾げた。
『ああ、何か、天界かな? 光に包まれた人が、手をかざしてくれて。それで、楽になった』
あの方か。
善なる願いならば、必ず叶えてくださるという。
俺の、最後の願いを。叶えてくださったのだ。
加護はなくなろうとも、感謝は忘れない。
この後、一生涯、祈りを捧げよう。
「よかった。テオが、いなくなったら。どうしようかと思った」
キスをして、抱きついた。
『えーと、一回分は、あるけど』
テオが腰の小物入れから出したものは。
香油?
……貴様、何でそんなものを持ち歩いているのだ。
◆◇◆
慣らされて。
テオが入ってくるのを感じる。
熱い身体。
背に回した手から伝わる、力強い鼓動。
生きているのが嬉しい。
こうして、触れ合えるのが嬉しい。
俺の、はじめてのひと。
「テオ、愛している」
『善正。俺も、愛してるよ』
深く、身の内に熱を感じて。
「……っ、」
『どうした?』
「腹が、一瞬、熱くなった」
まだ、熱い。
中に精を出されたときとは何か、違う感覚だ。
『どれ?』
テオが俺の腹に手を当てて、目を瞠った。
『……できてる。女神の加護が、ギリギリ間に合ったのか……?』
テオの顔が赤い。
えらく興奮しているようだが。……何ができたと?
「何がだ?」
『俺たちの、子供』
オレタチノ、コドモ?
「こ、子供だと!?」
ここはもう、異世界ではないというのに。
それは卵状のまま出てきて。暖めれば、中から子供が生まれるらしい。
確かに、出産の痛みはなかった。
おかしな感じだ。
俺が母とは。結婚式も挙げていないのに。
異世界の、女神の力がここにまで及んでいたとは。
まさに、奇跡だ。
……奇跡?
ふと、気付いた。
「……ああ、そうか。そうだったのか……」
『どうした?』
「いや、俺達が出逢ったのは、昔から定められた運命だったのだと、理解しただけだ」
◆◇◆
未来の世界で、俺が手に取った卓也のラノベは、三度目の移動中に紛失していた。
おそらく、過去のエリノアへ届いていることだろう。
テオの声が、俺だけに聞こえた訳。
俺が異世界に渡って、言葉が通じた訳。
それは。
おそらく、遠い祖先の血のせいだろう。
生まれた子供の名は、”源”と決めた。
高槻家、我が寺の初代和尚の名前である。
テオの装備を都で売り払うと、かなりの高値で売れた。
それで、山を含めた一帯の土地を買って。寺を建てることにした。
この時代、あちこちで神社仏閣が乱立していたので、どさくさに紛れてひとつ増えても問題なかった。
寺の名前は、ゼンショー。……禅正寺と名付けた。
今は小さな寺だが。
将来的には檀家も増え、寺子も大勢抱え。年末年始ならずとも、人の大勢集まる、大きな寺となるだろう。
拝むのは。天界の、あの方の御姿をかたどった、拙いながらも俺が一本の木から掘り出したものだ。
何万人もの人に祈られ。
その想いが、後の人々の力に、礎となればいい。
石碑には、テオに文字を刻んでもらった。
”異世界より来る”。と。
俺たちが死んだら。
墓碑は刻まず、亡骸はあの石碑の元に埋めて欲しい、と告げよう。
それは、後にこちらへ渡るものへの道しるべとなるだろう。
◆◇◆
突如、ひなびた村に現れた赤毛の大男は。
はじめは言葉も通じず、村人から恐れられていたが。
持ち前の人柄の良さもあり、すぐに打ち解けた。
気は優しく力持ちで愛想も良いので、力仕事などの手伝いによく呼ばれるようになった。
大男の傍らには、いつも墨染めの衣を着た青年と。
2人に良く似た子供がいた。
3人で、仲睦まじく暮らしていたそうだ。
子供は長じて和尚となり、檀家から慕われたという。
大男は後に寺男、と呼ばれて、寺子屋で算術や剣術を教え、子供達からはたいそう好かれた、という話だ。
「ここで、共に暮らそう。……テオ、愛している」
「ああ。愛してる、善正」
毎日のように愛を囁き。
キスを交し合った。
卓也のラノベにも書かれていた通り。
二人は末永く幸せに暮らして、物語は終わるのである。
おわり
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