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結婚

初夜

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「では、皆心ゆくまで宴を楽しむがいい」
見るからに上機嫌なリカルドが、招待客に向かって言い。

私の身体をひょい、と持ち上げた。


皆が浮かれるほど楽しみにしていた獣の肉の味は気になるが。
残念ながら、祝宴には式を挙げた二人は参加しないのが通例なのである。

「待ちに待ったの時間ですね。おめでとうございます、陛下」
祝いに来てくれたパトリシオ伯爵が、意味深な笑みを浮かべながら手を叩いた。

「ああ、待ちに待った初夜だ。命が惜しければ何があろうと邪魔をするなよ」
こら、臣下を脅すな。

「ええ、たとえ怪物ムプラズトが襲ってきても我々が食い止めてみせますよ。今夜だけは」
「邪魔したら、怪物よりも恐ろしい目に遭わされそうですからねえ」

などと、皆から冷やかされながら、会場を後にする。


リカルドは平然とした顔だが。
……これは、かなり恥ずかしい。今から、のだと宣言しているのだから。

まあ今更か。
すでにパトリシオ伯爵の城でやらかしてる。

他人の家で、淫蕩三昧の日々を過ごしていたのだ。
パトリシオ伯爵には、本当に申し訳ないことをしたものだ。


*****


「これで、正式に貴方は私のものだよ。穂波、私のかわいいツガイ。愛しているよ」
リカルドは今にも歌い出しそうなくらい上機嫌である。

逞しい男の腕の中で。
心臓が破裂しそうなほどドキドキしている。


ああ、とうとう結婚してしまった。
異世界の、それも男と。

華族の血を引く名家である有栖川家の嫡男として生まれたその日から、家を継ぎ、社長になることが決められていた。
一族を統べる立派な当主になるため、寸暇を惜しんで努力してきた。

決められたレールから外れることなど、考えもしなかった。

それが。
何も持たず、裸の状態で異世界に召喚されてしまった。

私を迎えに来た男は一国の国王で、魔導師でもあり。私を召喚した本人であった。
アクシデントで、セックスすることになってしまったが。

肌が触れ合っても嫌悪感を覚えなかったのは、これが初めてだった。

愛され、可愛がられて。
これまでの私は、末の弟を猫可愛がりすることで、逃避をしていたのだと気付いた。

他の誰にも譲りたくない、唯一の相手を得たことで。本当に人を愛することを知ったのだ。

この世界で私は、有栖川家の嫡男ではない。国王に召喚された、”運命の番”である。
甘えても、頼ってもいい。自由の身だ。


私はこの世界で、新たな人生を送る決心をした。

はたして有栖川の当主と国王の伴侶、どちらが重責であったのかは、まだわからないが。
自分にできることは精一杯、勤めたいと思う。


*****


「穂波。私のことだけ見て、考えていなさい」
叱られて。

少々呆けている間に服を剥かれて、全裸にされていることに気付いた。
相変わらず手の早い男だ。


「愛しているよ、リカルド」
「……っ、」
ぶしゅっ、と大量の先走りが腹を濡らした。

「不意打ちはずるい。達しそうになってしまったじゃないか」
拗ねたような顔をしている。

「ああ。早く、リカルドで腹の中を満たして欲しい」
愛しい男の首に腕を回した。

「だから、煽るなと」
乱暴にしたくはないから、と呟いて。口をキスで塞がれた。


「ん、……う、」
口の中を、リカルドの舌で蹂躙される。

他人の唾液など気持ち悪いと思っていたが。
何故、彼のはこうも甘く感じるのか。

リカルドは私の精液も甘いと言っていた。恋愛感情というものは、味覚にまで影響を及ぼすのだろうか?

「んんっ、」
リカルドの手が尻の肉を揉み。その間に指が這わされ、ぞくぞくする。


「……は、」
唇が離され、呼吸が楽になった。

「今夜は、初夜の花嫁に使う、を使うよ?」
耳元で囁かれた。

特別な香油……?
弄られれば濡れる身体にされたはずだが。必要なのか?


*****


リカルドは、枕元に置かれていた小瓶の蓋を開けた。

以前嗅いだ覚えのある、爽やかな草の匂い。
これは。

「そう。媚薬アポロディシャクの入った香油だ。本来は、こういった用途で使うものなんだけどね」

媚薬には、興奮し、情欲を煽る他には鎮痛作用もあり、破瓜の痛みも和らげる効果があるという。
そうと知らずに媚薬の原材料である葉を服代わりにしたせいで、リカルドも欲望を抑えられなくなり、パトリシオ伯爵のふりをしたまま身体を繋げることになってしまった訳だ。


私も愛欲に溺れてしまったので、リカルドばかりを責められないが。

きっかけは媚薬ではあるのだが。
こうなったのは、媚薬だけのせいだとは言えない。

”運命の番”だけあって、惹かれ合う運命だったのだと、今では思っている。


「あ……、」
香油をたっぷり纏い、ぬるぬるした指が、中に入ってくる。

剣だこのできた、太く長い指。
久しぶりなせいか、まだ快感よりも違和感が強い。


「中、蕩けそうに柔らかくて熱い。なのに入口はきつく締め付けて来て……早くこの中に入りたい。この感覚を味わいたい。根元まで挿入して、奥に、孕むほど精を放ち、私の匂いをつけたい。私のものだとわかるように」
熱い囁きに、頬が熱くなる。

何という恥ずかしいことを言うのだ、この男は。
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