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第45話 あさはかという言葉では足りない
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生徒指導室では、強面の生徒指導の先生と綾香の担任の女性教師、そして俺と優乃の担任の紫藤先生とで行われた。
本来ならば個別でやるべきことだろうが、俺と優乃、そして綾香をまとめてやるってんだから、学校側の対応ってのも雑だと思う。ここらへんがそこら辺の並の学校だと実感させられる。
面談みたいに、生徒側と教師側の机上に分かれての話し合い。隣同士の距離は空いている状態だ。
「それで、今回の騒動はなにが原因なんだ?」
体が大きく角刈りの先生。いかにも生徒指導の先生と言わんとする風貌の先生が、俺達を見比べて聞いてくる。
どう説明をしたものか。俺から口火を切っていいものか。
優乃の横顔を見ると、顔を上げているがなにかを口走ろうとはしていない様子だった。
優乃の奥では、さっきからずっと泣いている、いや、鳴いている綾香が伺えた。
いつまで鳴いてんだよ、人ならざる者め。
だが、さっきみたく、優乃に掴みかかった勢いはない。ずっと鳴きじゃくっている。
優乃の口撃がよほど効いたらしい。
あの状態じゃ、あいつはなにも言えないってことかな。
優乃は俺を庇ってくれた立場。彼女から説明するのもおかしな話だ。なので、ここは俺から……。
「京太の……子を……妊娠しました」
「「!?」」
バッと俺と優乃は綾香の方を見た。
「京太との……子供が、できた、から、結婚して、一緒に、子供を育てます……。だから一緒に学校をやめます。そのことで、ちょっとトラブル、に、なって……」
綾香節が炸裂。
この期に及んで、教師を味方に付けようとする魂胆。
ここまで来ると天晴れだ。
優乃は、どうしようもないこいつの発言に、「ぷっ」と吹き出していた。
紫藤先生を見ると、呆れを通り越して逆に笑っている。
俺も笑いそうだよ。
「あー……。妊娠……」
生徒指導の先生は困惑した表情で紫藤先生と綾香の担任の先生を見比べてた。
そして、どう発言するか慎重に言葉を選んでいる様子であった。
「枚方。妊娠させてしまったというのは本当なのか?」
生徒指導の先生は低い声で慎重に聞いてくる。
そりゃそうだ。話の内容を知らないのだからまずは事情を聞くことからだろう。
普段、強面角刈りと呼ばれて煙たがられてるけど、立派な大人だと思う。
「違います」
「違うのか?」
「違わない! 私は京太の子供を妊娠したいの! もうこれは京太の子なの! 私が言うならそうなの!」
いきなり感情的になって立ち上がり俺へと言ってくる。
明らかに様子のおかしい彼女を綾香の担任が駆け寄ってなだめる。
「糟谷さん? 落ち着きましょう。お話しをしないと。ね?」
「話しならさっきからしてる! 京太の子を妊娠したいから、お腹の子は京太の子なの!」
支離滅裂な発言に、大方の予想がついた生徒指導の先生と綾香の担任が俺へと視線を配って来る。紫藤先生も顎で、「言いたいこと言え」って感じを出してくれた。
「その……」
話し始めると、大人たちが俺の話へ耳を傾けてくれる。
「元々糟谷さんとはお付き合いをしていたのですが、彼女が他の男性とも付き合っていることが発覚して別れました」
「ち、ちがっ……!」
この期に及んでまだ否定するのか。
「お付き合いをしていた時は清い関係で、そういうことは一切しておりません。こっちとしては、いきなり絡まれて、妊娠したから責任を取れと訳のわからないことを言われてしまった次第です」
「そ、そうか」
「違う! 違うわよ! 悪いのは京太でしょ! 京太が悪いんだから! だから──」
「京太くんはわたしにしか手を出しませんよ」
「ぶっ!」
いきなり優乃が口を開いたかと思うと、とんでもないことを言いやがった。
「え、えと……。東堂さん? あの……」
綾香の担任が動揺してしまい、優乃も動揺する。
「や! あの……。つまりですね……。きょ、京太くんの言ってることは本当ということです。はい!」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」
綾香が壊れたみたいに首を横に振っている。
もうこいつになに言っても無駄だな。
「あのさ糟谷さん。そこまで言うのならDNA鑑定でも、なんでもする。俺、法律には詳しくないけど、裁判になるなら戦う。親にも先生にも相談する。全員で戦う」
当たり前すぎてあえて言ってなかったけど、もう当たり前のことを言うしかないみたいだ。
「そ、それは……」
綾香は黙り込んでしまった。
反応を見る限り、そこまで頭が回っていなかったのか。本当に自分の発言だけでいけると思ったのか。
あさはかというには、あさはかという言葉じゃたりないほどにあさはかだ。
「糟谷」
それまで、予想外の出来事が起こり過ぎてあんぐりしていた紫藤先生が、諭すように綾香の名前を呼んだ。
綾香は俯いたままだった。
「嘘はいずれバレる。突き通したとしても、それは自分の首をしめているのと同じだ。本当のことを話した方が気分的にも人生的にも楽になるはずだ。話してみなさい。先生が話しを聞いてやるぞ」
紫藤先生が普段の言動とは思えないほどに悟った声で綾香に言った。
普段からそんな感じでいればモテるだろうに。
紫藤先生の言葉に、綾香は自分の罪を感じ取るように泣きながら答えた。
「妊娠したことをしょうちゃんに言ったら、『俺の子じゃない』、『お前は誰とでもヤル奴だから俺じゃない』って言われて……。それを言われたっきり連絡が出来な……い。捨てられたってわかったら悲しくなって、京太ともう1度やりなしたいって思った。京太なら一緒に育ててくれるって思った」
こいつは泣きながらもなんて頭のネジが吹き飛んだことをぬかしてくれているんだ。呆れてものも言えないぞ。
「事情はわかった」
紫藤先生が頷きながら俺と優乃を見た。
「2人は巻き込まれただけなんだな。すまない授業中に呼び出して」
先生が頭を下げてくれると、生徒指導の先生と綾香の担任も軽く頭を下げた。
「糟谷とは先生達で話しを聞いてやる。2人は席を外してくれないか? 良いですよね?」
紫藤先生の言葉に2人の先生は頷く。
どうやら学校側も綾香の妄言ということで片づけてくれるみたいだ。そりゃそうだ。
「それでは失礼します」
一安心したところで立ち上がり、軽く1礼すると、優乃も1礼して共に生徒指導室を出た。
本来ならば個別でやるべきことだろうが、俺と優乃、そして綾香をまとめてやるってんだから、学校側の対応ってのも雑だと思う。ここらへんがそこら辺の並の学校だと実感させられる。
面談みたいに、生徒側と教師側の机上に分かれての話し合い。隣同士の距離は空いている状態だ。
「それで、今回の騒動はなにが原因なんだ?」
体が大きく角刈りの先生。いかにも生徒指導の先生と言わんとする風貌の先生が、俺達を見比べて聞いてくる。
どう説明をしたものか。俺から口火を切っていいものか。
優乃の横顔を見ると、顔を上げているがなにかを口走ろうとはしていない様子だった。
優乃の奥では、さっきからずっと泣いている、いや、鳴いている綾香が伺えた。
いつまで鳴いてんだよ、人ならざる者め。
だが、さっきみたく、優乃に掴みかかった勢いはない。ずっと鳴きじゃくっている。
優乃の口撃がよほど効いたらしい。
あの状態じゃ、あいつはなにも言えないってことかな。
優乃は俺を庇ってくれた立場。彼女から説明するのもおかしな話だ。なので、ここは俺から……。
「京太の……子を……妊娠しました」
「「!?」」
バッと俺と優乃は綾香の方を見た。
「京太との……子供が、できた、から、結婚して、一緒に、子供を育てます……。だから一緒に学校をやめます。そのことで、ちょっとトラブル、に、なって……」
綾香節が炸裂。
この期に及んで、教師を味方に付けようとする魂胆。
ここまで来ると天晴れだ。
優乃は、どうしようもないこいつの発言に、「ぷっ」と吹き出していた。
紫藤先生を見ると、呆れを通り越して逆に笑っている。
俺も笑いそうだよ。
「あー……。妊娠……」
生徒指導の先生は困惑した表情で紫藤先生と綾香の担任の先生を見比べてた。
そして、どう発言するか慎重に言葉を選んでいる様子であった。
「枚方。妊娠させてしまったというのは本当なのか?」
生徒指導の先生は低い声で慎重に聞いてくる。
そりゃそうだ。話の内容を知らないのだからまずは事情を聞くことからだろう。
普段、強面角刈りと呼ばれて煙たがられてるけど、立派な大人だと思う。
「違います」
「違うのか?」
「違わない! 私は京太の子供を妊娠したいの! もうこれは京太の子なの! 私が言うならそうなの!」
いきなり感情的になって立ち上がり俺へと言ってくる。
明らかに様子のおかしい彼女を綾香の担任が駆け寄ってなだめる。
「糟谷さん? 落ち着きましょう。お話しをしないと。ね?」
「話しならさっきからしてる! 京太の子を妊娠したいから、お腹の子は京太の子なの!」
支離滅裂な発言に、大方の予想がついた生徒指導の先生と綾香の担任が俺へと視線を配って来る。紫藤先生も顎で、「言いたいこと言え」って感じを出してくれた。
「その……」
話し始めると、大人たちが俺の話へ耳を傾けてくれる。
「元々糟谷さんとはお付き合いをしていたのですが、彼女が他の男性とも付き合っていることが発覚して別れました」
「ち、ちがっ……!」
この期に及んでまだ否定するのか。
「お付き合いをしていた時は清い関係で、そういうことは一切しておりません。こっちとしては、いきなり絡まれて、妊娠したから責任を取れと訳のわからないことを言われてしまった次第です」
「そ、そうか」
「違う! 違うわよ! 悪いのは京太でしょ! 京太が悪いんだから! だから──」
「京太くんはわたしにしか手を出しませんよ」
「ぶっ!」
いきなり優乃が口を開いたかと思うと、とんでもないことを言いやがった。
「え、えと……。東堂さん? あの……」
綾香の担任が動揺してしまい、優乃も動揺する。
「や! あの……。つまりですね……。きょ、京太くんの言ってることは本当ということです。はい!」
「違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う」
綾香が壊れたみたいに首を横に振っている。
もうこいつになに言っても無駄だな。
「あのさ糟谷さん。そこまで言うのならDNA鑑定でも、なんでもする。俺、法律には詳しくないけど、裁判になるなら戦う。親にも先生にも相談する。全員で戦う」
当たり前すぎてあえて言ってなかったけど、もう当たり前のことを言うしかないみたいだ。
「そ、それは……」
綾香は黙り込んでしまった。
反応を見る限り、そこまで頭が回っていなかったのか。本当に自分の発言だけでいけると思ったのか。
あさはかというには、あさはかという言葉じゃたりないほどにあさはかだ。
「糟谷」
それまで、予想外の出来事が起こり過ぎてあんぐりしていた紫藤先生が、諭すように綾香の名前を呼んだ。
綾香は俯いたままだった。
「嘘はいずれバレる。突き通したとしても、それは自分の首をしめているのと同じだ。本当のことを話した方が気分的にも人生的にも楽になるはずだ。話してみなさい。先生が話しを聞いてやるぞ」
紫藤先生が普段の言動とは思えないほどに悟った声で綾香に言った。
普段からそんな感じでいればモテるだろうに。
紫藤先生の言葉に、綾香は自分の罪を感じ取るように泣きながら答えた。
「妊娠したことをしょうちゃんに言ったら、『俺の子じゃない』、『お前は誰とでもヤル奴だから俺じゃない』って言われて……。それを言われたっきり連絡が出来な……い。捨てられたってわかったら悲しくなって、京太ともう1度やりなしたいって思った。京太なら一緒に育ててくれるって思った」
こいつは泣きながらもなんて頭のネジが吹き飛んだことをぬかしてくれているんだ。呆れてものも言えないぞ。
「事情はわかった」
紫藤先生が頷きながら俺と優乃を見た。
「2人は巻き込まれただけなんだな。すまない授業中に呼び出して」
先生が頭を下げてくれると、生徒指導の先生と綾香の担任も軽く頭を下げた。
「糟谷とは先生達で話しを聞いてやる。2人は席を外してくれないか? 良いですよね?」
紫藤先生の言葉に2人の先生は頷く。
どうやら学校側も綾香の妄言ということで片づけてくれるみたいだ。そりゃそうだ。
「それでは失礼します」
一安心したところで立ち上がり、軽く1礼すると、優乃も1礼して共に生徒指導室を出た。
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