彼女に二股されて仲間からもハブられたらボッチの高嶺の花のクラスメイトが高校デビューしたいって脅してきた

すずと

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第50話 清水の舞台から飛び降りる気持ち

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 綾香の件が無事に終わったからといって、劇的に世界が変わるわけではない。

 朝起きて、学校に行く日常はいつもと変わらない。

 ただ、噂がなくなったという事実だけで俺の世界が変わる。

 いや、この心の軽さはそれだけじゃないな。

 俺は優乃が好きだということを、自覚したことによる変化の方が大きいかも。

 俺達の目的は高校デビューと高校生活のやり直し。

 でも俺は欲張りみたいだ。

 優乃と恋人になりたい。

 そのためには告白をしないといけない。

 告白……。告白かぁ。

 なんて、思っていると本日の授業が終わった。

「明日から完全衣替えだからなぁ。忘れるなよー。ほんじゃ気ぃつけて帰れよー」

 紫藤先生の帰りのホームルームは秒で終わる。

 あの先生自体がそういうのが面倒なだけだろうな。それが俺ら生徒にはありがたいんだけどね。

 しかし……。

「はぁ……」

 窓の外を見てため息が漏れてしまった。

 今日は朝から天気が悪かった。午後から降り出した小雨は次第に勢力を増し、今では強い雨へと変わっていた。

 傘は持ってきている。

 しかし、わざわざこの強い雨の中で帰るってのも気が引ける。

 今日は優美ちゃんの家庭教師もないし、カフェのバイトもない。

 放課後は暇なので、ちょっと待ってから雨が弱まるのを待つとするか。

「京太くん。帰らないんですか?」

 部活組も帰宅部もほとんど出て行った教室内で、後ろの席の優乃が話しかけてくれる。

 嬉しくなって、振り返る

「あ、いや、もうちょっと待とうかなと」
「もしかして傘、忘れました?」
「ちゃんとあるよ」

 言いながら、鞄の中から折り畳み傘を見せた。

 ちなみに俺はどんな時でも折り畳み傘派だ。持ち運びが楽だから。

「なら、雨でも帰れるのではありませんか?」
「この強い雨の中帰らなくてももうちょっと弱くなってからと思ってな」
「なるほど。あ……」

 優乃が変な声を出すと、急にソワソワし出した。

「便所か?」
「便所って……。乙女になんて汚い聞き方をしているのですか」
「その乙女が姉妹揃ってお手洗いを便所って言っていたがな」
「便所じゃありません」
「便所って言ってんじゃん」
「いやー……」

 大きく頭をかいて、ひょうひょうとした様子で言ってくる。

「そういえばわたし、傘を忘れたと思って」
「ふぅん」

 言いながら俺は彼女の机のフックにかかってある傘を持って広げて見せた。

「立派なルリキュアの傘だな」
「でしょー! それプレミアですっごく高かったんです! 自慢の一品ですよ」
「優美ちゃんのじゃないんだ」
「自慢のコレクションの1つです♪」

 機嫌よく言うと、頬杖ついて窓の外を見上げた。

「だからわたし、雨って結構好きなんですよね。お気に入りの傘をさして外を歩くのって、とっても気分が高揚しますから」
「良かったな。お気に入りの傘をさして帰れて」
「はい♪」

 そう言った後に、優乃は汗を1つ垂らしてからバンっと机を叩く。

「違います!」
「なにが?」
「これはわたしの傘ではありません!」
「おおう。今の状況から挽回できる可能性があると思ったその度胸に免じて話だけは聞いてやろう」
「これは……沢村くんの傘です!」

 堂々と優乃の隣の席である、野球部の沢村を犠牲にした。

「沢村ってルリキュア好きなんだな」
「そ、そうみたいですね」

 あくまで突き通そうとするのか。良かろう。

「まぁ今は色んな趣味が認められる時代だ。野球部の沢村がルリキュアのプレミア傘をさして登校していても良いし、あいつは野球部だから部活終わりに取りに行こうと思って自分の席に置いていたとしても不思議じゃないよな」
「そ、そうですよ」
「で? その沢村の傘を……なんで優乃が持ってるの?」
「そ、それは……。その……」
「まさか、人のものをパクるつもり? 人としてやばいんじゃ?」
「う、うう……」

 優乃の頭から煙が上がった。

 知恵熱でも出しているのか?

「さらばっ! ルリレッド!」
「おお!?」

 まさかプレミア傘を犠牲にしてまで嘘を貫き通すとは、なんて生き様だ東堂優乃。恐れ入った。流石は俺の惚れている人。

「み、見ましたか? ちゃんと、沢村くんのです」

 声が震えている。清水の舞台から飛び降りる気分での決断だったのだろう。

 そうまでして嘘を貫き通す理由はなんなんだ?

「わたし傘ないので! 相合傘してください!」
「……は?」
「ですから! わたし、傘ないので京太くんの傘に入れてください!」

 これは……。プレミア傘を手放す案件なのだろうか。

「えっと……」

 いや、俺としてはかなり嬉しいイベントなんですけどね。いきなりは動揺するよね。

「だ、だってしょうがないじゃありませんか。傘ないんですよ? 雨強いんですよ? 濡れて帰れって言うんですか? 濡れて帰ったらわたしの服溶けますよ? 公衆の面前で裸になると言うのですか? そんな羞恥プレイをお望みなのですか? わたしの体を見ておいて飽きたら他の人に見せるプレイですか? なんですかそれ、あなたが望むのならやりますけど、ただ勘違いしないで欲しいのは、わたしはみんなに体を見せるために仕上げているのではありませんよ? あなただけに──」
「早い早い」

 めちゃくちゃ早口で捲し立てるように言ってくる。

 しかし、滑舌が良いのと聞き取りやすい萌えボイスなので頭にすんなりは入ってくる。流石は声優希望。

 あと、その内容が嬉しい。

「とりあえず、雨で服が溶ける原理はエロアニメの見過ぎとだけ言っておこう」
「いやいや。エロアニメでも雨じゃ溶けません。何年前のエロアニメの話を持ち出しているのですか? 時代錯誤も良いところですよ」

 なんで俺が説教された?

「それより良いのか? その傘、プレミアなんだろ?」

 話を戻して視線を沢村の机に置いてある傘へと向ける。

 すると、涙目で優乃が訴えかけてくる。

「だ、だって! だってだって! 京太くんが意地悪するからじゃありませんか!」
「意地悪って……」
「わたしの嘘を嘘ってわかっているのに詰めてくるから……」

 うう……と泣きそうな声を出す優乃に大きくため息を吐いてから立ち上がる。

 ま、こんな嘘なら可愛いもんだよな。

 この前まで人間をやめた奴の嘘で散々な目に合ったけど、こんな可愛らしい嘘なら笑って許せる。

 というよりは優乃だからだと言うべきかな。

「雨も止みそうにないし帰ろうぜ」

 言いながら沢村の席に置いた傘を優乃に渡した。

「俺、傘ないからさ。入れてくれないか?」

 言いながら傘を優乃に渡すと、受け取って笑顔で言ってくる。

「さっき、傘持ってるって言ってたのに。嘘ついてまでわたしと相合傘したいのですね。しょうがありません。今日だけ特別ですよ?」
「ぶん殴るぞ、こんちくしょうがっ!」

 こんな会話が非常に心地良い。
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