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16話
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(もう、訳分からない!
ど、どうして私がヒロイン並みの姿に変貌しているの!
そ、それにこれは一体、何なの?
ラ、ラルフとこの私が何故、今、このグーベルト家の広間でワルツを踊っているの?)
誕生日の華やかな装いの私に、まず、お父様が私にダンスの申し込みをされて。
その後は長兄であるオリバー兄様と思った矢先に、王太子ラルフに強引に手を取られ、そのまま、皆の前でダンスを披露しているのだけど。
流石、王太子……。
ステップがお父様とは段違いに上手い。
お父様も昔からダンスを嗜んでいるので上手だと思っていたが、ラルフのリードの巧みさに言葉を失ってしまう。
心の中で、うーんとつい、唸ってしまった。
エレーヌは5歳の時の大病がきっかけとなり、余り積極的にダンスの練習をしなかった。
まあそれは建前で、運動は昔から苦手。
紗雪の時の運動神経をどうもそのまま受け継いでいるらしく、かなり、ダンスは下手である。
そんなエレーヌを軽やかに誘うラルフに、エレーヌは苦笑を漏らしていた。
(へえ、ダンスの相手が違うだけで、こんなにも体が軽やかだわ。
凄く踊りやすい。
そして、毎回、相手の足を踏まない様にと、オドオドと踊っていた私だけど、ラルフは全然違う。
気遣いをしなくていいなんて!)
それになんか心が擽ったい。
今、エレーヌとラルフのダンスシーン。
リリアンヌが社交界デビューの時の姿と重なってしまう。
ホールの中央で皆の注目の中、煌びやかなシャンデリアの光を浴びながら、ラルフに促されてファーストダンスをするリリアンヌ。
凄く綺麗なスチルで気に入ってたわ。
そのシーンをゲームでプレイしながらずっと思っていた。
これが紗雪の姿だったら。
でも、紗雪は平々凡々なただのモブだから、誰にも相手にされない。
それはエレーヌも一緒だとずっと思っていたけど、でも……。
今、私はモブキャラではなく、「貴方に心ときめいて」から独立した、一人のキャラとしてラルフと踊っている。
美しいドレスに身を包み、そして綺麗に化粧を施され、ラルフに微笑まれながら……。
ぽろり。
(あ、あれ?
わ、私……)
不意に涙が滲んだ。
ああ、今、私はモブキャラでは無いんだ。
それがこんなにも心をときめかせているなんて。
「どうかしたのか、エレーヌ」
「い、いいえ、あ、あの少し疲れてしまって……」
「エレーヌっ!」
「オリバー」
足元がふらつくエレーヌの異変に気付き、オリバーがエレーヌの腕を取り、ダンスを中断させる。
普段、余り激しい運動をしないエレーヌの体力に限界が来た事を察したオリバーは、直ぐにソファに腰掛ける事を勧めた。
「顔色が余り良く無い。
直ぐに楽な衣装に着替えて休むんだ」
「でも、お兄様……。
ま、まだお兄様ともアル兄様とも踊っていない」
「そんな気遣いは無用だ、エレーヌ。
お前の身体が第一だ。
直ぐに休みなさい。
皆がお前の身体の事で騒動する前に、この場から退いた方が、いい……」
「……判ったから、お兄様。
お兄様のお言葉に従うわ。
私を寝室までエスコートして下さる?」
少し悪戯げに微笑むエレーヌに、オリバーは笑みを深くする。
「ああ、俺のお姫様」と軽いジョークを絡ませて、オリバーはエレーヌを抱き上げ寝室へと向かう。
一蓮の出来事を見詰めながら、ラルフの表情はいつに無く硬い。
オリバーのエレーヌに対する表情の変化に、ふと、想いに耽る。
(あれは妹に向ける感情では無い。
妹を溺愛しているとはまた別の感情だ。
そう、オリバーは俺と同じく恋情に濡れた目でエレーヌを見詰めている。
エレーヌに心奪われている……)
オリバーはエレーヌを一人の女性として愛している。
(エレーヌの事でずっと疑問が心の奥底で燻っていたが、オリバーのあの態度が決定打になるとは。
何故、あんなにも王妃がエレーヌを直々の侍女に推薦するのか。
辺境伯の娘であるエレーヌに、何故、白羽の矢を立てたのか)
エレーヌ・グーベルト伯爵令嬢が、現当主の実の娘では無いと言う仮説。
エレーヌが王族ゆかりの娘では無いかと言う真相が事実である事を、ラルフはオリバーの姿を見詰めながら、そう、思うのであった。
(もう、訳分からない!
ど、どうして私がヒロイン並みの姿に変貌しているの!
そ、それにこれは一体、何なの?
ラ、ラルフとこの私が何故、今、このグーベルト家の広間でワルツを踊っているの?)
誕生日の華やかな装いの私に、まず、お父様が私にダンスの申し込みをされて。
その後は長兄であるオリバー兄様と思った矢先に、王太子ラルフに強引に手を取られ、そのまま、皆の前でダンスを披露しているのだけど。
流石、王太子……。
ステップがお父様とは段違いに上手い。
お父様も昔からダンスを嗜んでいるので上手だと思っていたが、ラルフのリードの巧みさに言葉を失ってしまう。
心の中で、うーんとつい、唸ってしまった。
エレーヌは5歳の時の大病がきっかけとなり、余り積極的にダンスの練習をしなかった。
まあそれは建前で、運動は昔から苦手。
紗雪の時の運動神経をどうもそのまま受け継いでいるらしく、かなり、ダンスは下手である。
そんなエレーヌを軽やかに誘うラルフに、エレーヌは苦笑を漏らしていた。
(へえ、ダンスの相手が違うだけで、こんなにも体が軽やかだわ。
凄く踊りやすい。
そして、毎回、相手の足を踏まない様にと、オドオドと踊っていた私だけど、ラルフは全然違う。
気遣いをしなくていいなんて!)
それになんか心が擽ったい。
今、エレーヌとラルフのダンスシーン。
リリアンヌが社交界デビューの時の姿と重なってしまう。
ホールの中央で皆の注目の中、煌びやかなシャンデリアの光を浴びながら、ラルフに促されてファーストダンスをするリリアンヌ。
凄く綺麗なスチルで気に入ってたわ。
そのシーンをゲームでプレイしながらずっと思っていた。
これが紗雪の姿だったら。
でも、紗雪は平々凡々なただのモブだから、誰にも相手にされない。
それはエレーヌも一緒だとずっと思っていたけど、でも……。
今、私はモブキャラではなく、「貴方に心ときめいて」から独立した、一人のキャラとしてラルフと踊っている。
美しいドレスに身を包み、そして綺麗に化粧を施され、ラルフに微笑まれながら……。
ぽろり。
(あ、あれ?
わ、私……)
不意に涙が滲んだ。
ああ、今、私はモブキャラでは無いんだ。
それがこんなにも心をときめかせているなんて。
「どうかしたのか、エレーヌ」
「い、いいえ、あ、あの少し疲れてしまって……」
「エレーヌっ!」
「オリバー」
足元がふらつくエレーヌの異変に気付き、オリバーがエレーヌの腕を取り、ダンスを中断させる。
普段、余り激しい運動をしないエレーヌの体力に限界が来た事を察したオリバーは、直ぐにソファに腰掛ける事を勧めた。
「顔色が余り良く無い。
直ぐに楽な衣装に着替えて休むんだ」
「でも、お兄様……。
ま、まだお兄様ともアル兄様とも踊っていない」
「そんな気遣いは無用だ、エレーヌ。
お前の身体が第一だ。
直ぐに休みなさい。
皆がお前の身体の事で騒動する前に、この場から退いた方が、いい……」
「……判ったから、お兄様。
お兄様のお言葉に従うわ。
私を寝室までエスコートして下さる?」
少し悪戯げに微笑むエレーヌに、オリバーは笑みを深くする。
「ああ、俺のお姫様」と軽いジョークを絡ませて、オリバーはエレーヌを抱き上げ寝室へと向かう。
一蓮の出来事を見詰めながら、ラルフの表情はいつに無く硬い。
オリバーのエレーヌに対する表情の変化に、ふと、想いに耽る。
(あれは妹に向ける感情では無い。
妹を溺愛しているとはまた別の感情だ。
そう、オリバーは俺と同じく恋情に濡れた目でエレーヌを見詰めている。
エレーヌに心奪われている……)
オリバーはエレーヌを一人の女性として愛している。
(エレーヌの事でずっと疑問が心の奥底で燻っていたが、オリバーのあの態度が決定打になるとは。
何故、あんなにも王妃がエレーヌを直々の侍女に推薦するのか。
辺境伯の娘であるエレーヌに、何故、白羽の矢を立てたのか)
エレーヌ・グーベルト伯爵令嬢が、現当主の実の娘では無いと言う仮説。
エレーヌが王族ゆかりの娘では無いかと言う真相が事実である事を、ラルフはオリバーの姿を見詰めながら、そう、思うのであった。
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