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閑話9
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保科さんの急な訪問の次の日、朝から濃厚な口付けをされた私は、身体の奥に燻った熱に戸惑いを感じていた。
(な、何だろう。
この感じ……)
もしかして、私……。
浮かんだ言葉に、顔が真っ赤に染まる。
こんな事、もし、保科さんが気付いたら。
今、保科さんはシャワーを浴びている。
目覚めた保科さんは直ぐ、部下に連絡して着替えを用意する様に促していたけど。
届けられた袋には普段着と思われる衣服やら入っていて。
戸惑いながら受け取る私に保科さんの部下の不躾な視線が、不愉快で。
(わ、私、もしかして保科さんの女と思われているのでは無いよね?)
恋人では無く、女と喩えてしまう自分に自虐する。
(どう見たってこんな古いアパートに暮らしている私が、保科さんの彼女だなんて誰も考えないわ。
化粧っ気も無い、美人とも言い難い、大した凹凸も無い身体を持つ私が保科さんの恋人だなんて……)
ふと、自分の思考が保科さんの事で一杯になっている事に深い溜息が零れる。
どうしてこんな事になったんだろう?
何が保科さんの琴線に触れたの?
一柳さんと話している私に保科さんが一柳さんに嫉妬したって、有り得ない。
どう考えても納得いく答えが見つからない。
「一柳さん……」
つい、呟いてしまう。
今でも私は、一柳さんが好き。
保科さんの情熱的なキスを、想いを告白されても、私は。
ぽろり、と涙が出る。
自分の軽率な判断が招いた結果だと言うんだろうか?
仲良くなった多栄子さんの事情でビルの花壇の世話が出来ない事に、心が揺れ動いて引き受けた事が発端なら、私はもっと慎重に考えるべきだったの?
勤めている職場で急な半日勤務。
午後から花壇の世話と言う私の経験では考えられない事態になって。
保科さんの立場が何を示しているのか、私は理解していなかった。
私の想像を凌駕する程の権力を持っている人物だという事を。
「紗雪……」
背後から聴こえる。
ふわりと漂う石鹸の薫り。
普段、自分が使っている石鹸を保科さんが使って。
耳朶に保科さんの吐息がかかる。
背後から抱き締められて、私は……。
「何を考えていた?」
かぷり、と耳朶を甘噛みされてる。
「だ、駄目です、保科さん。
私は貴方とは……」
心臓がバクバクする。
こんな非常事態にパニック寸前で、どう対処すれば良いのか判らない。
そんな私の気持ちなんてお構い無しに私の耳穴に舌を這わせて。
「祥吾だと言っている」
「……、そ、そんな。
保科さんの事、そんな風には言えない。
だ、だって私は貴方とは」
付き合っていないし、と言う言葉を奪われる。
向かい合う様に身体が反転させられ私の唇を噛み付く様に保科さんが奪って。
強引な口付けに翻弄させられる。
顎を掴まれ唇が開いた隙を狙って舌が割り込み。
「逃がさないよ、紗雪。
お前の心が、身体が俺だけを求める迄、何度も伝えてやる。
お前は俺のモノだ。
誰にも渡さない……」
劣情を込めて目で私を射抜き、私の口内を犯す。
激しい口付けに身体の力が削がれ保科さんの腕にしがみつく。
(や、やだ、こんなの。
人の気持ちを無視した一方的な愛を捧げられても私は……。
一柳さん!一柳さん!
いちやなぎ、さん……)
心の中で一柳さんの名前を叫んでも、私の想いは一柳さんには伝わらない。
昨日の、あのひと時は私が望んだ幻だったの?
では、今、自分の身に起きている事は?
「紗雪」
涙で濡れる目で保科さんを見詰める。
解かれた唇の熱に、保科さんの熱い吐息に私は涙をボロボロと流してしまう。
嗚咽が零れる。
「どう泣いても、俺を拒んでも俺はお前を離さない。
好きなんだ、紗雪。
どうしようも無くお前を愛しているんだ」
ずるり、と保科さんの腕から手を離し床に座り込む。
「私は貴方の事なんて好きでは、無い……」
か細い声で保科さんの想いを否定する。
そんな私に保科さんは無言で私を見るめている。
「私が好きなのは……」
「お前が最後に求めるのは、俺だ」
冷ややかな声で私に告げる。
この事が発端で私は保科さんに全てを奪われる事になる。
心も身体も、そして一柳さんに対する恋心も。
全てを私は保科さんに奪われるのであった。
(な、何だろう。
この感じ……)
もしかして、私……。
浮かんだ言葉に、顔が真っ赤に染まる。
こんな事、もし、保科さんが気付いたら。
今、保科さんはシャワーを浴びている。
目覚めた保科さんは直ぐ、部下に連絡して着替えを用意する様に促していたけど。
届けられた袋には普段着と思われる衣服やら入っていて。
戸惑いながら受け取る私に保科さんの部下の不躾な視線が、不愉快で。
(わ、私、もしかして保科さんの女と思われているのでは無いよね?)
恋人では無く、女と喩えてしまう自分に自虐する。
(どう見たってこんな古いアパートに暮らしている私が、保科さんの彼女だなんて誰も考えないわ。
化粧っ気も無い、美人とも言い難い、大した凹凸も無い身体を持つ私が保科さんの恋人だなんて……)
ふと、自分の思考が保科さんの事で一杯になっている事に深い溜息が零れる。
どうしてこんな事になったんだろう?
何が保科さんの琴線に触れたの?
一柳さんと話している私に保科さんが一柳さんに嫉妬したって、有り得ない。
どう考えても納得いく答えが見つからない。
「一柳さん……」
つい、呟いてしまう。
今でも私は、一柳さんが好き。
保科さんの情熱的なキスを、想いを告白されても、私は。
ぽろり、と涙が出る。
自分の軽率な判断が招いた結果だと言うんだろうか?
仲良くなった多栄子さんの事情でビルの花壇の世話が出来ない事に、心が揺れ動いて引き受けた事が発端なら、私はもっと慎重に考えるべきだったの?
勤めている職場で急な半日勤務。
午後から花壇の世話と言う私の経験では考えられない事態になって。
保科さんの立場が何を示しているのか、私は理解していなかった。
私の想像を凌駕する程の権力を持っている人物だという事を。
「紗雪……」
背後から聴こえる。
ふわりと漂う石鹸の薫り。
普段、自分が使っている石鹸を保科さんが使って。
耳朶に保科さんの吐息がかかる。
背後から抱き締められて、私は……。
「何を考えていた?」
かぷり、と耳朶を甘噛みされてる。
「だ、駄目です、保科さん。
私は貴方とは……」
心臓がバクバクする。
こんな非常事態にパニック寸前で、どう対処すれば良いのか判らない。
そんな私の気持ちなんてお構い無しに私の耳穴に舌を這わせて。
「祥吾だと言っている」
「……、そ、そんな。
保科さんの事、そんな風には言えない。
だ、だって私は貴方とは」
付き合っていないし、と言う言葉を奪われる。
向かい合う様に身体が反転させられ私の唇を噛み付く様に保科さんが奪って。
強引な口付けに翻弄させられる。
顎を掴まれ唇が開いた隙を狙って舌が割り込み。
「逃がさないよ、紗雪。
お前の心が、身体が俺だけを求める迄、何度も伝えてやる。
お前は俺のモノだ。
誰にも渡さない……」
劣情を込めて目で私を射抜き、私の口内を犯す。
激しい口付けに身体の力が削がれ保科さんの腕にしがみつく。
(や、やだ、こんなの。
人の気持ちを無視した一方的な愛を捧げられても私は……。
一柳さん!一柳さん!
いちやなぎ、さん……)
心の中で一柳さんの名前を叫んでも、私の想いは一柳さんには伝わらない。
昨日の、あのひと時は私が望んだ幻だったの?
では、今、自分の身に起きている事は?
「紗雪」
涙で濡れる目で保科さんを見詰める。
解かれた唇の熱に、保科さんの熱い吐息に私は涙をボロボロと流してしまう。
嗚咽が零れる。
「どう泣いても、俺を拒んでも俺はお前を離さない。
好きなんだ、紗雪。
どうしようも無くお前を愛しているんだ」
ずるり、と保科さんの腕から手を離し床に座り込む。
「私は貴方の事なんて好きでは、無い……」
か細い声で保科さんの想いを否定する。
そんな私に保科さんは無言で私を見るめている。
「私が好きなのは……」
「お前が最後に求めるのは、俺だ」
冷ややかな声で私に告げる。
この事が発端で私は保科さんに全てを奪われる事になる。
心も身体も、そして一柳さんに対する恋心も。
全てを私は保科さんに奪われるのであった。
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