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第一部 第一章 虚無の安寧
ep4
しおりを挟むスーヴィエラは朝食を一人で食べていた。
まあ、ヴィンセントはいつも通り、さっさと食べて出かけてしまったのだが。
料理長の工夫から薄味の少量なご飯を食べていた。
今日はかなりいいペースで食べているのは、胃につっかえる感じではないこと、そして、料理長と言葉を交わしたおかげかもしれない。
「料理長さん、すごく美味しいです」
「喜んでいただき光栄です」
「ですが、寝不足ですか? あの、眠れないようでしたらハーブティーを淹れますけど、いかがですか?」
リアラが自己主張を激しく手を伸ばす。
「はい、はーい! 奥様、私にハーブティーを淹れてください! 奥様のハーブティーが飲みたいです」
スーヴィエラは小さく噴き出した。
「ぷっ…くくっ…」
「奥様ぁ!」
「わかったわ。相変わらずね、リアラ」
「奥様だけのアイドル、リアラですから!」
ウインクしたリアラだが、スーヴィエラの笑顔がすぐに嘘笑いへ変わったことを察したようだった。
だが、それに触れることなくいつもの笑顔を浮かべる。
「今日は天気が良さそうですから、テラスでお茶にしましょうか」
☆
「奥様、ケーキをご用意しましたよ」
料理長がニコニコしながらスーヴィエラにケーキを用意してくれた。
「では、ごゆっくりどうぞ」
スーヴィエラはリアラを振り返った。
「どうしよう」
「え?」
「ケーキなんて初めて食べるの。見たことはあったけど、見ただけで胸焼けが…する、けど、美味しそう…」
スーヴィエラはケーキに見とれていると、リアラが横からフォークを取り、ケーキを一口食べた。
「あっ!」
「うっ、甘くない…。クリーム感が…ミルク感がないです」
「えっ?」
スーヴィエラがフォークを受け取り、一口食べてみると、手を止めた。
「軽くて食べやすい…」
リアラ用のケーキを持って戻ってきた料理長が微笑んだ。
「豆乳クリームで代用してみました。ちょっと豆っぽさはあるんですけど、軽くてカロリーも控えめ。…いかがですか?」
「とても美味しいです」
スーヴィエラのほおが緩んでいた。
「こんなに美味しいケーキ、初めてです!」
「作り手冥利に尽きます。別のお菓子も作ってきますので、乞うご期待、ですね」
スーヴィエラは大きく頷いたが、ふと、手を止めた。
「リアラ」
「はい?」
「料理長さんってリアラの次にいい人だね。なんだか、一緒にいて安心できるかな」
「そうですか。でも、私は安定の一番ですね!」
「うん。リアラは大切な友達だから」
「えへへ~」
リアラが照れると、スーヴィエラは小さく呟いた。
「この短い間に誰かを信じるトレーニング、しなくちゃ」
「奥様、何か言いました?」
「ううん」
小鳥が近くの枝に留まり、スーヴィエラはフワッと笑った。
「あら、可愛い」
「本当ですねぇ。リルムバードですよ。この近くの森に住んでいるらしいですけど、可愛いですね」
スーヴィエラがハーブティーを注ぐと、別の小鳥がピヨピヨと鳴きながら舞い降り、スーヴィエラの肩に乗る。
「あらら、人懐っこいわね」
スーヴィエラはフニャリと微笑んでリアラにハーブティーを差し出すと、リアラは笑顔で受け取った時、別の小鳥がリアラの頭に乗った。
「リアラ、頭の上にいるよ?」
「スー様、なんだか小動物が集まっていませんか?」
周囲を見渡すと、いつの間にか色とりどりの鳥たちが二人の周りに留まっていた。
スーヴィエラはホッコリしたようにフニャリと笑う。
「たくさんね」
「うひゃあ! いつの間に!?」
リアラが大声を出すと、一斉に鳥が飛び立ち、色とりどりの羽が幻想的に降り注ぐ光景が一瞬だけ広がった。
「わぁ!」
リアラは歓声を上げるが、スーヴィエラは少し寂しそうな顔をした。
「モフモフ、したかったな…」
スーヴィエラの呟きを子供のようにはしゃぐリアラが聞いていたはずもなく、
「どうかしましたか、奥様?」
そう言ったリアラの顔にスーヴィエラは苦笑した。
「ううん、楽しそうね」
「はいぃ。何度でもみたいですね」
リアラの嬉しそうな笑顔にスーヴィエラは柔らかく微笑んだ。
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