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特別短編集
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しおりを挟む「そういえば、奥様の好物ってなんですか?」
料理長がある日、そう尋ねると、スーヴィエラはキョトンと尋ねた。
「好物、ですか?」
リアラが得意げに言った。
「ふふふ。それは、柔らかなチキンステーキです」
「それはあなたの好物でしょ?」
スーヴィエラは呆れたようにそう言ったが、彼女は考え込んだ。
「そういえば、私の好物って考えたこともなかったかな…」
料理長が不敵な笑みを浮かべた。
「では、せっかくの機会ですし? スーヴィエラ様の好物探しと行きましょうか!」
「さんせーい! 奥様のハーブティーを飲みながら色々と食べたいです!」
リアラが元気にそう言うと、スーヴィエラは呆れたように口角を緩めた。
「はいはい」
スーヴィエラは呆れたようにそう言うと、リアラがウフフと笑った。
「それじゃあ、始めますか」
☆
「で? あの調子だと、見つからなかったんだな?」
リアラが物凄く落ち込んでいる様子を見ながらヴィンセントは苦笑いを浮かべると、執事長はふふっと笑った。
「生肉、だそうですよ?」
「は?」
「奥様の大好物は、エメーラパイソンの肉だそうです。彼女が落ち込んでいるのは、その魔物であるエメーラパイソンを狩ってこようとして、逆に追い回され、帰宅してきたからです」
「…どこにでもいるパイソンだな。店に売っているじゃないか」
「生肉で食べるためには鮮度が命、だそうで。『焼いた肉は脂っぽくて好きじゃないけど、生肉なら食べたことがある』とか」
「生肉で? はぁ…貴族様は格が違うな」
ヴィンセントがそう言うと、リアラはブツブツと呟いた。
「くそぅ…エメーラパイソンめ…。奥様の喜ぶ笑顔を独り占めしたかったのに…!」
ヴィンセントがガタッと立ち上がった。
「そこまで言うなら狩ってきてやる」
「え、本当ですか?」
リアラがそう言うと、ヴィンセントは外套を羽織って愛用の剣を差し、出かけてしまった。
翌朝、スーヴィエラが庭でお茶をしていると、目の前に肉の刺身が置かれた。
「え?」
「エメーラパイソンの刺身でございます。旦那様が狩ってきてくださったんですよ?」
「…生肉を食べろ、と?」
「え?」
「いえ、そんな風に見られていたと思うと少しショックで…」
そう言いながら皿を持って立ち上がった。
「リアラ」
「はい!」
素早く部屋に帰ったスーヴィエラはテーブルに皿を置くと、リアラが部屋の鍵をかけて息を吐き出す。
スーヴィエラは背中に意識を集中すると、ふわりと天使のような双翼が広がった。
体も光に包まれ、やがてその姿が龍に変化する。滑らかな毛に覆われた体を揺らし、上品に蜷局を巻いて座る。
そして、一枚いちまい丁寧に剥がしながらゆっくりと噛み締めた。
「んー!」
スーヴィエラが歓声を上げ、リアラが目を細めた。
「うふふ、美味しいですか、スー様?」
「うん」
パタパタと尻尾の先を揺らしたスーヴィエラは最後の一枚を名残惜しげに見つめ、ペロリと完食した。
その翌日、ヴィンセントの部屋にお礼と称して絹のハンカチが届けられ、それはヴィンセントが普段使うハンカチになったとか。
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