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第一部 第四章 折れた止まり木
ep5
しおりを挟むスーヴィエラはミストの怒声で目を覚ました。
「何やってんの、シリウス?!」
胸倉を掴まれているシリウスが眠たさそうな顔をしていた。
「だから、何もなかったって」
「いやいや、昨日まで人妻だった人を連れ込んでいる時点でおかしいよ?」
「男に襲われかけていた彼女を助けただけだ」
「いやいや、タラシのシリウス殿下。そりゃあ信じられませんが?」
ミストが疲れた顔をした。
「大旦那様をお連れしたけど、…これじゃあ色々と面倒なことになるわね…。まあ、仕方がないからあなたたちはクア=ドルガにまっすぐ行っていいわ」
「ちょ、誤解だって」
シリウスの顔を見て、プッとミストが吹き出す。
「そんなの、彼女の顔を見ればわかることよ。でも、事情を知らない大旦那様にこれ以上の心労はまずいから」
「…わかった」
ミストがシリウスの上から降りると、スーヴィエラにウインクした。
「あんまり、シリウスのことを信頼しないことね。信用はできる人だけど」
そして、スーヴィエラに近づくと、耳元でそっと囁いた。
「私たちエージェントは嘘つき、だから」
スーヴィエラは瞬くと、ミストが不敵な笑みを浮かべた。
「まあ、いいわ。少なくとも、今までの家よりは快適に過ごせるでしょうから」
「え?」
「え? シリウスに面倒を見てもらうんじゃないの?」
「そうなのですか?」
「…違うの?」
ミストがシリウスを振り返ると、シリウスはため息を漏らした。
「あのさ、ミスト。俺としては別にそれくらい、構わないが…」
「なら、問題なし。責任を取れよってことで」
「なあ、その前提はおかしい」
「いいでしょ?」
ミストはフワリと笑った。
「スーヴィエラちゃん、シリウスなら無理に手を出すことはないから安心できるわよ。…あ、でも、無理に惚れる必要もないから。若くてイケメンの奴を狙うなら、私がツテを探してもいいわよ?」
「え?」
スーヴィエラは思ったよりもフレンドリーなミストの態度に戸惑っていると、シリウスが呆れ顔をした。
「…君にミストは懐いてしまったらしい」
「私に?」
ミストはフフッと笑った。
「健気で頑張り屋さん。そういう子は応援したいのよ」
「単にモフりたいだけだろう…」
シリウスが呆れたような顔をしたが、スーヴィエラに言った。
「まあ、とりあえず、クア=ドルガに行こうか。ーーミスト、代役は用意しようか?」
「いいわよ、ンなもの。あたしは一人で十分」
「まあな。お前ほど怖い女はいないから」
「でしょ?」
「まあ、無理をしないように」
シリウスはポンッとミストの頭を撫でると、ミストが嬉しそうに顔を綻ばせた。
とはいえ、恋人というより、シリウスに懐いている子犬が尻尾をブンブン振っているようにしか見えなかったのだが。
「ボスの頭をナデナデ、包容力があって好き」
「いつまでもガキだな…」
シリウスは呆れた顔をすると、ミストが拗ねた顔をしてから、ふと、ニヤリと笑った。
「パパって呼ぶわよ?」
「頼むからやめてくれ」
ミストはしてやったりと、楽しそうな顔で歩き出した。
「それじゃあ、またね、スーちゃん!」
ミストが嵐のように去った後、だいぶ明るくなった空を見ながらシリウスは疲れたような顔で微笑んだ。
「さて、行こうか」
「はい」
スーヴィエラはシリウスの後に続いて歩き出した。
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