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第一部 第七章 天使の翼
ep7
しおりを挟むエメル王国は代々、女王が治めてきた国家である。
いや、建国期まで遡れば男性の王もいるらしいのだが、とんだボンクラ王に失望した民を導いた国王の妹君が国民のクーデターで王となり、善政が続いたために女王崇拝となったというのが有力な説だが、単に王の血を確実に継承している者が王に相応しいという理由であるという説もある。
女王から生まれた子供は確実に、どの男の血を引いていようと王の子には違いないのだから。
女王メロウは堂々と宣誓を行なった。
「今日という日を迎えられたのも民の支えあってこそ。わたくし、メロウ・R・アルバートは第25代女王として、この建国500年という記念の日を皆と分かち合いたいと思う」
彼女は優雅に微笑んだ。
「今日と言うこの日に乾杯」
国民の歓声が轟き、異様な熱気が蔓延する会場でスーヴィエラはリアラにしがみつきながら目を丸くしていると、女王が優雅な仕草でステージを降り、席に腰掛けた。その隣にはシリウスがなぜか座っており、メロウと楽しげに会話をしてハグをするとほおに軽くキスをした。
「!」
スーヴィエラは目を丸くしていたが、リアラが言った。
「シリウス様、メロウ殿下の弟君らしいですよ」
「え?」
キョトンとしたスーヴィエラにリアラは口を尖らせる。
「それにしても、イケメン王子に王位継承権がないって、どんなおとぎ話ですかね」
「騎士様なら、サマになるけどね」
「ふむ、その発想、一理ありますね」
リアラが感心しているうちに次のプログラムに移行していた。
メロウが再び壇上に上がり、みんなに手を振ると、艶やかな笑顔が女王の顔に浮かんだ。
しかし、億劫なのだろう。目が笑っていない。
まあ、欲しくもないものを贈られ続けるのはいかんせん、その身に堪えるのかもしれないが。
まず、先に壇上へ上がったのはシリウスだった。
「陛下、どうぞお納めください」
シリウスは優しく微笑みながら差し出したのは遠くからだとよくわからないが、ブレスレット。
メロウが目を輝かせた。
「ありがとう」
「いえ、お喜びいただけたようで何よりでございます」
二人は数事、言葉を交わしてから、シリウスが壇上を降りた。
スーヴィエラはシリウスとメロウが小声で言葉を交わすのを見ていたが、献上のために列を作る貴族や商人たちの中に父親だけでなく、上の兄ハグルや、下の兄シグリジルの姿をみとめて鳥肌が立った。
「っ…」
寒気が走り、嫌悪感から吐き気がこみ上げる。
スーヴィエラがそうやって吐き気と戦っている間に順番は父親と兄たちの番まで移行していた。
「我々が献上するのはこちらです」
魔法で運ばせてきたのは巨大な天幕のかかったゲージ。
「つい、先日、借金のカタに取り上げたのですが、ついぞ美しかったものですから、是非、女王陛下に献上させて頂ければ、と思いまして」
そして、幕がフワリと降ろされた時、スーヴィエラは声にならない悲鳴をあげた。
(お母さん…)
産んですぐ生き絶えたというが、幼い頃、使用人たちの噂話で聞いてしまったことが衝撃的で忘れもしない。
それは、スーヴィエラを生き長らえらせる代わりに、母親が天龍の姿で死ぬという取引をしたというのだから。
でも、生まれなければよかったと言い続けられては信用出来ない。
…そう、思っていたのだ。
だが、穏やかに悲しい笑みを浮かべるその天龍の剥製は慈悲深く、あまりにも美しかった。
「天龍の剥製でございます。しかし、天龍を殺すのは違法。なぜ、そんな所業を、と、その者に問うと、旅の途中の天龍が息絶えているのを発見し、あまりの美しさに見惚れてしまったそうなのでございます」
父親が訴えかけるように言った。
「そして、このまま消えてしまうのは惜しいと、天龍を剥製にしたそうなのです。…見てください、陛下。この美しいフォルム。柔らかく、そしてこんなにも美しい翼を!」
そして、上目遣いで険しい顔を隠せないメロウに言った。
「では、一つ問おう」
「なんなりと」
余裕綽々の父親だが、メロウは暗い瞳で天龍を見上げた。
「龍の里から天龍が旅に出たという報告はないわ。その龍は…龍人じゃないの?」
会場がざわめいて、一瞬、父親の瞳が泳いだが、スーヴィエラには何が起きているのかわからなかった。
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