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第二部 第一章 モノガタリの始まりに
閑話 懸念
しおりを挟むシリウスはリアラが出て行くと、ヴィクトルを振り返った。
「お前も、道中は十分に気を付けろ」
「どうしたんですか、父上?」
怪訝そうなヴィクトルに、シリウスは苦笑した。
「少し、パルへの道中に連絡を取れなくなった部下がいるんだ。だから、な」
「! それは大変じゃないですか!」
ヴィクトルが驚いてそう言うと、シリウスは肩を竦めた。
「そう、だけど…簡単に死ぬ奴じゃないから」
ヴィクトルが遠慮がちに尋ねた。
「まさか、ミストさん、ですか?」
シリウスは苦い笑みを深める。
「あれが簡単に捕まると? それこそ、一国を動員して捕らえられるかどうか。自分本意の塊だからな」
「よく、エージェントなんてやってますね…」
「彼女は戦力になる。破壊神の役目だ」
「…ですよね…」
「出来のいい部下なんだが、な。惜しいことだ」
「助けに行かないのですか!?」
ヴィクトルがギョッとすると、シリウスは悲しそうに笑った。
「情報が一切ない。だが、追っている奴はイシュカ家に因縁があるらしいから、場合によってはリアラ嬢を囮に使うかもしれない」
シリウスが目を細めた。
愛する婚約者が慕う侍女を囮に使って命の危険に晒すことに対する罪悪感か、それとも…。
ヴィクトルはそんな父親を見つめてハッキリと言い放つ。
「僕が守ります。一般市民を危険から守るのも騎士の務めですから」
シリウスは優しく微笑んだ。
「任せた。だが、ヴィクトル。一つ、気をつけてほしいんだ」
「はい?」
「もし、俺の部下らしい彼女を見つけても、何も言うな」
「はい?」
ヴィクトルは戸惑いながら頷いたが、シリウスの言葉に意味が理解できず、首を傾げていた。
「父上、どういう…?」
「…さて、話は以上だ。仕事があるから出てくれるか?」
「え、あ、はい」
慌てたようにヴィクトルが部屋を出て行った後、シリウスは遠い空を見上げた。
「もし、全部ダメになったとして、その罪は俺が抱えよう」
決意に満ちた呟きが空気に溶けて消えていった。
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