龍騎士の花嫁

夜風 りん

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第二部 第四章 祈りと幸運

ep2

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 「あの、どういうことでしょう?」

 「この部屋はね、魔法が使えないの」

 リアラは思い切って魔力を練りあげようとしたが、力が抜けて上手くいかなかった。
 「あれ?」
 魔法は得意でないリアラだが、上手くいかない。
 「…あの、どういう…?」
 「恐らくは魔封じの陣が貼られているのでしょうね。魔法に左右しない力なら壊せるでしょうけど…武器も取り上げられちゃって」
 それはそうだろう。
 どの世界に捕らえておいた人間に武器を持たせておいたまま放置するバカがいるのか。
 「うっ…」
 今回は服に切れ目がないが、全て仕込んだ武器がなくなっていることに気が付いて嫌な予感がした。

 「あの、私の武器を抜いた人、知っていますか?」

 「…それは知らないけど、黒髪赤目の女の子があなたを運んできたわ」

 その言葉を聞いた瞬間、蹴られた痛みを不意に思い出した。
 ゾワリと鳥肌が立つ。
 (うそ…)
 リアラは我が身を抱えると、瞼を閉じた。

 (ヴィクトル様…!)

 ここにこうして閉じ込められた理由は一つ。
 リアラがヴィクトルを誘い出す餌でしかないことに気が付いた。
 「私、餌なの…?」
 「ヴィンセントをおびき出す餌よ」
 「? なんでヴィンセント?」
 「そもそも、この計画はイシュカ家に対する復讐みたいだし、当然でしょう?」

 商売敵がいるのは知っていたが、人を雇って攫わせたようだった。
 だが、あの少女だけはヴィクトルを狙っている。それだけは確信できた。
 折角、ヴィクトルにもらった簪を落としてしまったのか解けてしまった髪の毛を持ち上げ、深くため息を漏らす。

 (せっかく貰ったのに…)

 せめて、思い出の品に、と思っていたのに落としてしまったことに落ち込んでいた。

 (はぁ…ついてない)

 リアラが俯くとディアナは肩を竦めた。
 「私一人で何とか出来れば良かったんだけど…ね」
 「…そう、ですか」
 リアラはミサンガに手を乗せて目を閉じた。
 「あら? ミサンガ?」
 「ええ。我が主人にいただいたんです。お守りとして」
 「綺麗なミサンガね。特別な糸なのかしら? キラキラ光っているわ」
 「天龍シルクで出来ているんです」
 リアラはそう言うと、ディアナの前にそれをかざした時、ドアが開いた。
 弾かれたように二人が振り返ると、楽しげに笑う少女がいた。

 「あなたは!」

 少女ーーカノンがヴィクトルに買って貰ったフランボワーズという名前のナイフを手で弄んでいることに気が付いて頭に血が上った。
 「それを返して!」
 勝てる相手ではないことくらいわかっていても、リアラはカノンに掴みかかる。
 しかし、カノンはサッと軽やかにかわし、足をスッと出した。
 そこにリアラが引っかかり、派手に転ぶ。
 「うぅ…」
 リアラがヨロヨロと立ち上がろうとしたが、髪の毛を掴まれた。
 背中にドンッと足を乗せられて踏みつけられる。

 「少し黙ってよ」

 カノンがつまらなさそうにそう言うと、フランボワーズを髪の毛に近づけた。
 「切られたくなかったら大人しくしていて…なんてね」
 そう言うと、手を離して鼻歌を歌っていた。
 「何なの…?」
 「いやあ、僕の目論見通りヴィクトルと殺し合えるんだよ? 楽しいじゃないか。それに、龍騎士団も来る。最高だよ」
 「え…」
 「イシュカ家がどうとかほざいていたクソは煩いから殺しちゃったけど、僕もハーウェイも雇われた殺し屋もいるから、お姫様二人が無事に救い出せるのかっていうのも面白いアトラクションだよね」
 カノンは楽しそうに笑うと、フランボワーズを壁に突き立てた。
 「自害用に残してあげるよ。キチンと見つけてもらえるといいね?」
 カノンが立ち去ろうとすると、ディアナが練り上げた魔法をカノンに向かって放った。

 「爆ぜよ焔よ!」

 カノンに向かって炎の球が飛ぶが、カノンは別のナイフで弾き消した。
 「悪いけど、君たちの遊びに付き合っている時間はないんだ」

 ドアが閉まり、放とうとしていた魔法が掻き消え、ディアナが渋い顔をした。

 「やっぱり魔法術式はドアに刻まれているのね…」

 その呟きを聞きながら、リアラは突き立てられたナイフへと近づいた。

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