90 / 123
番外編 小噺集
甘い幸せ
しおりを挟むシリウスとスーヴィエラの結婚前のひととき。その小噺。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
スーヴィエラはシリウスに付き添って週に一度のお掃除をしたいと社屋に来ていた。
ここで攫われたこともあるので戸締りは慎重になったが、あれ以来の訪問者はシリウスを除いてまず、ない。
「いつも通り、お掃除しておきますね」
シリウスにそう尋ねると、彼は瞬いたが、優しく微笑んだ。
「もちろん。スー、今夜はちょっとお酒でも飲む?」
「え?」
「飲んで帰る?」
「え、でも、そんな…えっと…」
「? …あ、別に飲んでそのまま情事に及ぶなんて紳士の風上におけないようなことはしないから」
シリウスは甘やかすような笑みをスーヴィエラに向けた。
「さすがに食べてくださいと言わんばかりに君が脱いでベッドの上にいるとさ、理性を抑えきれる自信はないけど」
「そ、そんなこと、しません!」
スーヴィエラがむくれると、シリウスは優しく微笑んだ。
「なら、大丈夫」
からかわれたと気が付いてスーヴィエラが顔を赤くすると、シリウスはスーヴィエラのほおに触れ、額にキスを落とした。
「シリウス様は私と、その…したいですか?」
スーヴィエラはシリウスを見上げてそう尋ねると、彼は優しく微笑んだ。
「そりゃあ、異性に対して興味が無いわけじゃないし、大好きな人の体に興味が無いわけはないから。人並みの欲望はあるし、君と楽しみたい。けど…今はポリシーに反する」
「ポリシー?」
「そ。結婚した人以外とは最後までやらない。それに、スーの歩いてきた道を考えると、覚悟もなく抱いたってことはしたくない。今だって責任があるとは思う。けど、俺は結婚してから君を抱きたい」
「じゃあ、遊びなら途中まではするのですか?」
妬いたようにスーヴィエラが拗ねた顔をすると、シリウスはキョトンとした。
「どうしたんだい、スー? 誰かに何かを言われた?」
「…昔、シリウス様が付き合っていたっていう女性に、鼻で笑われました。私がシリウス様と結婚するのに抱かれないなんて可哀想って」
スーヴィエラは口を尖らせる。
「私だって…シリウス様が大好きなのに、自分の方がシリウス様が大好きで、愛されているんだから婚約者を譲るようにって…」
「ふぅん…それ、誰?」
シリウスの瞳が獲物を狩るような光を帯びていることに気が付かないスーヴィエラはその人の名を告げると、彼はスーヴィエラに対して表面上は優しく笑う。
「そう、彼女が。…でも、過去の女は過去のもの。そもそも、結婚まで発展させようという気兼ねに持って来られなかった女に未練はないよ?」
シリウスの声がワントーン低くなる。
「スー、君は婚約者。俺の最愛は君。理解できた?」
「え、…」
「理解させてあげようか?」
「へ…?」
スーヴィエラが戸惑った直後、シリウスがスーヴィエラを抱きしめて濃厚なキスをした。
あまりの息苦しさに微かに唇を開くと、その隙間から舌が入れられ、彼の舌先がスーヴィエラの舌先に触れる。
慌てて舌を引っ込めようとしたが、捕まえられるように絡められ、痺れるような感覚が脳天から貫いた。
「んんっ…」
シリウスの腕に抱かれる心地よさと、激しいキスの味に体が疼いてきた時、シリウスが顔を離し、口元からいつの間にか垂れていた涎を手の甲で拭った。
「これ以上はダメ」
「え?」
「約束を破って君を脱がせて抱きたくなる。…まだ怖いだろう?」
確かにまだ、あの日のことは忘れられていないが、シリウスに散々焦らされていると、彼なら抱かれたいと思ってしまうのは仕方のないことだとスーヴィエラは思っていた。
他の男性はまだ怖いが、シリウスになら全部捧げても彼女は後悔しないと感じていたから。
「でも、これで理解できたよね? 俺が君を好きってこと。仕事があるからこれ以上は今、出来ないけど…帰ってきたらたっぷりと可愛がってあげるよ」
「可愛がってって、私は愛玩動物じゃないんですよ!」
「ごめんごめん」
不貞腐れたスーヴィエラの額に再びキスを落としたシリウスは彼女から離れた。
「それじゃあ、また後で」
「はい」
その夜、二人は地下にあるバーでお酒を飲んだのだが、スーヴィエラがお酒に弱すぎてほとんど飲めないことが発覚し、二日酔いの彼女をシリウスが社屋で看病することになったが、シリウスは二度と家以外で彼女を飲ませないと誓ったとか。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,209
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる