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第6章
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第6章-1 現れる女勇者
峠を覆う暗雲が稲妻を孕みながら渦を巻く。
雪面を割って屹立する混淆巨人は、ベルゼとアクノ公爵の血肉が螺旋状に絡み合った異形──四本の腕が持つ闇槌と血剣が、ただ振り下ろすだけで谷の地形を塗り替えていく。
レイフォード軍は竜牙隊と合流して防衛線を二重に敷いたものの、重圧に耐えかねた盾が軋み、折れ、悲鳴が降り積もる。
閃光弩砲の一斉射は巨人の外殻に穴を穿った。しかし再生能力がそれを瞬く間に塞ぎ、返す衝撃波が砲兵を吹き飛ばした。
「持ちこたえろ! 白銀が動くまで――!」
ガウェインが声を張るが、疲弊しきった兵たちの瞳からは闘志が流れ落ちていく。
そこへ、ついに空気が震えた。
高く、そして澄んだ鐘のような音──剣が鞘から抜かれるときだけ生まれる純粋な金属の歌声。
白い雪煙の向こうから、銀色の稲妻が走った。剣身に纏う蒼雷が宙で三重螺旋を描き、巨人の正面へ放たれる。
「お館様には、指一本触れさせませんわぁあああッ!」
甲高く凛とした叫びが谷の空気を震わせる。
銀髪をなびかせた戦乙女——アイリーンは、竜牙隊の矢瀑の隙間をすり抜け、巨人の目前へ踏み込む。
刹那、四本の腕が同時に振り下ろされる。
だがアイリーンは剣を胸の前で逆手に構え、短杖を縦に併せ、魔法陣と剣閃を同時に重ねる“同時双演”を展開。
右半身は剣速の極致《星閃・三十三式》で闇槌をいなし、左半身は《氷盾陣》で血剣の軌道を凍結させる。
金属と氷が弾け、空気が真空音を立てる。
巨人が初めて大きく揺らいだ。それでも畸形の口が裂け、アクノの声とベルゼの声が重なった。
「貴様ァァァァァァ!!」
四腕が捻じれ合いながら横殴りへ叩きつける。
その殺到に、アイリーンはあえて後退せず、逆に半歩踏み込む。
「――《ルミナ・アーク》!」
封印を解いた星喰いが白銀の爆光を放つ。
剣身から溢れた光刃は槍のように直線で突き抜け、巨人の胸甲を貫通した。眩い弧が闇を裂き、契約核へ一直線に走る。
同時に短杖から迸る稲妻が光刃と干渉し、〈雷撃共振〉が発生。
核を覆う瘴気の膜が弾け飛び、漆黒の結晶が露わになった。
しかし、そのまま核を砕くには力が足りない。
アイリーンは自覚していた。解封によって魔力は沸騰し、生命の火が蝋燭の芯のように短く燃え上がっている。
(あと二撃……持つかしら)
だが背後から重厚な盾の音が重なる。
「剣姫殿、退くなッ! 矢弾で胸を開ける!」
ガウェインが率いる竜牙の残兵が巨人の脇腹へ突撃。レイフォード軍の残存弩兵が一丸となって射線を合わせる。
その光景に、公爵は心臓を鷲掴みにされたまま動かない自分を叱咤した。
「我が剣が、妻を守れずして何が公爵か!」
叫んで前に出る。副官が制止しようとするが、公爵は盾を掴んでアイリーンの右側へ飛び込んだ。
闇槌が振り上がる。公爵は盾で受け、骨が悲鳴を上げた。
もう一撃で砕ける――そう悟った瞬間、横合いからさらなる銀閃。
アイリーンの剣が盾と衝撃のあいだに滑り込み、反動を逸らす。
「お館様、ここは私に――」
「いいや、共にだ! 背を預けろ!」
短い言葉が交差した刹那、二人の魔力が共振した。
剣に纏う蒼雷が公爵の盾へ流れ込み、傷だらけの鋼が淡く光る。盾の紋章――蒼銀の双剣が、かつて勇者が授けた加護を呼び覚ましたのだ。
「行け、アイリーン!」
初めて名前を呼ばれ、アイリーンの胸で火花が散った。
彼は、気づいたのだろうか? 考える暇はない。
雷光を帯びた盾が巨人の腕を受け止め、アイリーンはその影に隠れた死角から跳躍。
《星閃・零式》二撃目が、剣身ごと核へ突き刺さる。
ぐわああああッ!
巨人の悲鳴が谷を割る。核に双裂の亀裂が走り、ベルゼ側の腕が吹き飛ぶ。血霧が舞い、瘴気の雲が竜巻のように奔る。
しかし核は完全には砕けなかった。
時間切れ──胸の刻印が焼け、アイリーンの魔力が急速に失われ始める。視界が染み入り、膝が震える。それでも刃は手放せなかった。
「貴様らぁッ!」
残った腕で闇槌が振り払われる。公爵の盾が粉砕され、彼は吹き飛んだ。
アイリーンもまた衝撃波で地面に叩きつけられ、剣が遠くへ弾かれる。
だが兵の目には、なお剣姫の背が映っている。その姿が瓦礫の中で立ち上がるのを見た瞬間、砕かれていた士気が再燃した。
「護れ! 剣姫を護れ!」
竜牙兵の叫びに、公爵兵が呼応する。
鎧を捨てた歩兵が盾となり、折れた槍で巨人の脚を刺した。
雪煙の向こうで熱が脈打ち、命が鎖のように繋がる。
アイリーンは血を吐きながら短杖を掴む。
魔力は空だ。しかし心臓がまだ打っている限り、最後の術式は使える。
(……生命力媒介。私と核を呪術的“糸”で結び、直接灼く)
それは術者の命を灯芯に魔力を燃やす禁呪。十年前の戦役で一度も使わず封じた切り札。
息を吸い、吐く。遠い日の誓いが胸に満ちる。
──夫の無事と、この国の明日を。
短杖が白く輝き始めた。
だが――
「もう十分だ」
背後で静かな声。振り返ると、レイフォード公爵が砕けた盾の柄を杖のように支え、剣を胸に構えていた。
「私の背を守り続けたのはそなたであったか。今度は私がそなたの盾となろう」
その瞳には、もはや迷いも嫉妬もない。
アイリーンは一瞬だけ涙ぐみ、そして微笑んだ。
「……ええ。共に終わらせましょう」
彼女は禁呪の詠唱を収め、残る魔力を公爵の剣へ注いだ。
蒼雷が薄紅に転じ、二人の魔力が合流した光刃が、最終の煌きを放つ。
巨人が雄叫びとともに突進。
公爵と剣姫が並び立ち、双閃の斬撃がV字に走った。
――閃光、轟音、沈黙。
契約核が粉砕し、混淆巨人は崩れ落ちた。血と瘴気の奔流が夜空へ昇華し、赤い朝日が峠を染めた。
兵が立ち尽くす中、レイフォード公爵は肩で息をつき、隣にいるはずの剣姫へ振り向いた。
しかしそこにいたのは、銀髪を栗色へ戻し、ぼんやりとした笑みを浮かべる一人の“妻”だった。
「お館様……ご無事、でしょ?」
彼は剣を取り落とし、ただ妻を見つめた。
夜明けの雲が晴れ、峠に光が満ちていく。
すれ違いの軌道は、静かに一点で交わった。
第6章-2 アクノ討滅
峡谷を包んでいた瘴気がわずかに引き、夜明け前の鈍い光が雪面に差し込んだ。
混淆巨人が崩れ落ちたあと、瓦礫の頂でひときわ濃い闇が脈動する。黒煙の芯に残ったのは――アクノ公爵。ベルゼの血肉と癒着し、鎧も肌も半ば溶けているが、紫水晶の両眼だけは執念を曇らせていない。
「まだだ……まだ私の舞台は終わらん!」
千切れた右腕の断面から瘴気が噴き、肉塊が蠢きながら再生を始める。しかし完成しきらぬ腕は骨と肉片の塊で、腐臭が立ちのぼる。その異形を支える脚も揺らぎ、アクノは闇剣を杖に縋りながら立った。
雪下の戦場は静まり返る。倒れた兵は息を潜め、竜牙隊もレイフォード軍も矢をつがえたまま動かない。そこへ、風に紛れる足音が響いた。
淡い栗色の髪――いや、戦場の仮面が解けかけて銀の原色を帯びた髪が揺れる。アイリーンが剣を手に頂上の瓦礫へ歩む。その横には、折れた盾を手直ししたレイフォード公爵。
「アクノ公爵」
アイリーンの声は穏やかだった。だが塞がるはずのない裂傷が剣先から稲妻を生み、雪面を焦がす。
アクノは引きつった笑みを貼り付け、闇剣を振りかざす。
「勇者アイリーン……いや、ぼんやり夫人? 貴様さえいなければ王冠も栄誉もすべて私のものとなるはずだったのだ!」
「栄誉は求めるものではなく、背中に生えるものですわ」
アイリーンは剣を胸元に立て、静かに構えた。
レイフォード公爵は一歩前に出る。砕けた盾でもその背を守る意思は変わらない。
「アクノ、貴殿の野望はここで終いだ。兵の命も、妻の名誉も弄ぶ者を私は許さぬ!」
公爵の咆哮に雪原が震える。
怒声を嘲るように、アクノの半魔の口から咆哮が返った。
闇剣が振り下ろされる。が、剣筋は既に剣技ではない。瘴気に操られるだけの獣の爪だ。
レイフォードは盾で受け止める。ぎしりと鉄が悲鳴を上げ、それでも踏みとどまる。そこへアイリーンが剣を滑り込ませ、衝撃をいなしつつ切先で腹部を割った。
「ぐあっ……!」
紫黒の血が噴き、アクノの膝が折れる。しかし胸骨の奥で黒い結晶が脈打った。――混淆核の欠片、ベルゼの瘴気とアクノの血で再生した“代替心臓”だ。
アイリーンは短杖を逆手に取り、その結晶へ突き立てると、契印逆転式の魔法陣を展開した。
「契約は私が塗り替えます。あなたの命脈は、これで終わりですわ」
結晶を包む闇が蒼光へ反転し、内部から罅が走る。
しかしアクノは最後の叫びとともに左腕を振り抜き、アイリーンの脇腹を切り裂いた。赤い筋が銀の甲冑に滲む。
「アイリーン!」
公爵が盾でアクノを押し返し、受け止めるように彼女を抱えた。
アイリーンは浅く息を整え、苦笑する。
「大丈夫……この程度、紅茶をこぼすより痛くありませんわ」
冗談めいた声に、公爵の胸が締め付けられる。その手の中で、彼女の魔力がまだ燃えていた。
アイリーンは剣を振り返し、公爵へ囁く。
「最後はお館様の剣でお願いします……私の魔力を添えますので」
レイフォードは頷いた。二人の剣と剣が交錯し、蒼雷が盾へ流れ込む。
公爵は踏み込み、残った力で真一文字に斬り上げた。
――ガキン!
剣が結晶に届き、先ほどの罅が爆発的に広がる。
アクノは目を見開き、言葉にならぬ悲鳴を上げた。瘴気の糸が千切れ、半魔の肉体が崩れ去る。
「ば……馬鹿な……私は……王になる男だ……!」
最後の抵抗。だが結晶の光は潰え、闇剣が砂のように崩れ落ちる。
アイリーンは短杖を掲げ、小さく呪文を唱えた。《浄めの終詠》。
黒い残滓が白い霧に変わり、雪へ吸い込まれていく。跡形もなく。
峠は静寂を取り戻した。
朝日が山際を染め、氷の小片が虹色に輝く。血と瘴気の匂いを薄める冷たい風が、戦場を浄化するように吹き抜けた。
◆
アイリーンは剣を収め、ふらりと膝を突いた。失血と力の使い過ぎで視界が霞む。
そこへ公爵が肩を抱くように支え、破れたマントを外して彼女の傷に巻いた。
「我が未熟で……そなた一人に剣を振らせた」
「いいえ。お館様が盾になってくださったから核へ届きましたわ」
二人は雪面に膝をつき、互いの呼吸を感じる距離で微笑んだ。
兵たちが静かに集まり、竜牙隊のガウェインが大剣を杖に立つ。
「終戦だ、レイフォード殿……いや、閣下。あとは残敵掃討だけだ」
「世話を掛けた、古き友よ」
公爵は立ち上がり、アイリーンへ手を差し出した。
彼女はその手を取ろうとして、ふと頬を染める。
「……紅茶、淹れ直さないといけませんね」
「そうだな。家へ帰ったら、妻として、そして勇者としての話をゆっくり聞こう」
太陽が完全に稜線を越え、峠の影を消す。
アクノ公爵の野望は砕け散り、魔王軍は潰走。
そして雪の戦場に残ったのは――互いの背を守り抜いた夫婦の揺るぎない絆だけだった。
第6章-3 魔王との決着
アクノ公爵の野望が潰え、瘴気は霧散した――はずだった。
だが峠を覆う雲がふたたび不気味にうねり、地鳴りが底から響く。戦いを見守っていた兵たちが剣を構え直し、レイフォード公爵はアイリーンをかばうように一歩前へ出た。
「まさか……ベルゼだけでは終わらぬと?」
アイリーンは血のにじむ脇腹を押さえながら顔を上げる。蒼い瞳に映るのは、谷底に穿たれた漆黒の亀裂。そこから逆巻く魔素が噴き出し、夜のない空をさらに暗く染め上げていた。
――ズズン……ズズズン……
岩肌が砕け、瘴気の柱が巨大な影を形づくる。翼でも角でもない、深淵が直接肉体をとったかのような影。峠にいる者すべての心音を吸い取り、鼓動を己の脈動と同期させる怪物。アイリーンは低く名を呼んだ。
「“深淵王(アビスロード)”カドラリス……本体の分霊(アヴァター)!」
十年前、本国へ襲来した魔王本人は別次元へ封印された。だが封印が長く維持されれば、必ず“喰い残し”の意識体が現世に滲み出す――それが深淵王の分霊だ。ベルゼとアクノが撒いた瘴気と血が、呼び水になったのだろう。
分霊は口も目もない影の顔をこちらへ向けた。空気が圧縮され、悲鳴のような風切り音が雪を払う。
『剣の乙女よ……星を喰う者よ……久しいな……』
脳髄へ直接入り込む“音”に兵たちが膝をつく。耐えられるのは、勇者と、勇者の近くで魔力に慣らされた一握りだけ。レイフォードでさえ眉間に青筋を浮かべ、剣を杖に踏ん張った。
アイリーンは震える脚に力を込めた。魔力量は残り火にすぎないが、ここを逃せば王都どころか世界が再び戦火に沈む。短杖を握る手がかすかに痙攣した。
「……終わらせるわ。あなたの根も、残り滓も」
だが分霊は嗤うように影の腕を前方へ伸ばし、空気を絞る。引力が一点に集中し、砕けた瓦礫や折れた槍が渦を巻き、弾丸の雨となって襲いかかった。
「防げぬ……!」
公爵が歯を食いしばったその時、アイリーンは短杖を捨て、星喰い(アステリア)を両手で逆手に構えた。刹那、剣の封印刻印が最後の封を外し、白銀の刀身が虹のオーラを噴き上げる。
《星霊解放・終極式――レグルス・イラディア》
剣と共に放たれた光が渦を逆走し、引力弾を粒子の霧へ崩した。だが同時に、アイリーンの命脈も激しく燃え出す。足元の雪が一瞬で蒸発し、彼女自身の影が淡く透けた。
「アイリーンッ!」
公爵が駆け寄る。だが光壁が二人を隔てた。終極式は外部からの干渉を許さない。
分霊カドラリスが影の口を開く。
『愚かなる人の勇者……身を灼いても深淵は食らい尽くせぬ』
黒い稲妻が光壁を叩き、白と黒の閃光が空を裂く。
アイリーンは剣を前へ突き出し、一歩ずつ歩みを進めた。吐血が顎を伝うが、瞳は燃える星のように揺るがない。
「あなたを……封印した十年前の私を、信じてくれた“人”がいる。それが答えよ!」
光壁が槍の穂先と化し、影の胴へ突き刺さる。分霊は深い悲鳴を上げ、空間そのものを歪めながら抵抗した。しかしアイリーンの足が止まるより早く、第二の剣閃――蒼銀の剣が光壁に重なった。
「一人ではない。妻よ、背を預けたまえ!」
レイフォード公爵の剣が、彼女の光と共振する。勇者の魔力は尽きている。だが公爵の剣が“受信器”となり、兵と仲間の“祈り”を魔力へ変換して流し込む《共鳴式》が起動した。
竜牙隊の弩兵、傷ついた歩兵、雪に伏した仲間たち――彼らの刹那の祈りが光壁へ注がれ、星の矢となる。
影が震え、引力が反転。深淵王の分霊ごと裂け目へ押し戻される。
『人の──祈り……ごとき……!』
最後の抵抗が虚しく、裂け目がぱんと弾ける音を立て、影を飲み込んだ。断末魔のエコーが雪嶺を揺らし、峡谷を奔る風が純白に変わる。瘴気は一片も残さず霧散し、夜明け前の空が蒼へ戻った。
◆ ◆ ◆
全てが終わったとき、アイリーンは剣を支えに膝をついた。星喰いの光が静かに収束し、封印刻印は再び冷たい銀へ戻る。彼女自身の影は濃いが、輪郭はまだしっかりと留まっていた。
レイフォード公爵が駆け寄り、肩を抱く。
「生きている……!」
「少し、寝不足なだけ……ですわ」
乾いた冗談に、公爵は笑い、そして小さく震えた。
彼の腕の中で、アイリーンは微笑む。雪を赤く染めた血は、もう鎮痛魔法で止まっている。
「あなたの祈りが力をくれました……十年前も、そして今も」
公爵は返事の代わりに額を彼女の額へそっと当てた。
遠くで歓声が上がり、峠を向こう側から黄金の朝陽が射してくる。
雪面が万華鏡のように輝き、兵たちの甲冑が反射する光が虹を散らす。
「終わったのか……」
ガウェインが大剣を杖に、空を仰いで呻いた。
「終わったぞ」
副官トラヴィスが泣き笑いで応じる。呼気が白く弾け、やがて冬の風に溶けた。
峠に残るのは、静けさと、折れた旗を支え合う人々の姿。
そして雪の中央で抱き合う二人の影が、淡い陽光のなかで重なって揺れていた。
第6章‐4 静かな退場
深淵王の分霊は霧散し、峠に残ったのは粉雪と微かな硝煙の匂いだけだった。
陽が完全に昇りきる前の蒼い光が、傷ついた兵士と崩れかけた防塁を染め、凍った血痕を薄く煌めかせる。戦の喧騒は遠い昔の幻のよう――だが、耳を澄ませれば確かに聞こえる。安堵の吐息、痛みに耐える呻き、小さな歓声と泣き声。それらが溶け合い、静かな大合唱となって冬の峠を満たしていた。
その中心に立つレイフォード公爵は、妻――いや勇者アイリーンの肩をそっと抱いていた。
「本当に、無事なのだな」
震える掌が血の滲んだ鎧に触れ、確かな体温を感じ取る。アイリーンは淡く笑った。
「大丈夫。……少し、疲れただけですわ」
言葉通り、彼女の瞳からは鋭い闘気が引き、もとの“ぼんやり”を思わせる柔らかさが戻りつつある。けれど公爵には分かる。戦場で剣を振るうあいだ、彼女がどれほどの覚悟で命を燃やしていたかを。
「感謝と謝罪を、一度に伝える術が思いつかん」
「なら、どちらもお家に帰ってからゆっくり伺いますわ」
アイリーンは冗談めかして言い、傷だらけの短杖を胸に抱えた。星喰い(アステリア)は既に鞘に戻り、その刀身は深い眠りへ落ちたかのように静かだ。
竜牙隊のガウェインが足を引きずりながら近寄り、公爵に礼を取った。
「この峠は奪還完了だ。残党は森へ散ったが、追撃部隊が処理している。……あとは王都への報告と、負傷者の搬送だな」
「世話になった」
ガウェインは笑い、アイリーンへ目礼してから部下たちへ指示を飛ばしに去っていく。その背を見送りながら、公爵はふと気付いた。戦勝の中心にいたはずのアイリーン――銀の剣姫――を見上げる視線が、兵士たちから自然と逸れている。
いや、違う。
兵たちは確かに彼女を見ている。けれど賛美の言葉をあげる者はなく、歓呼は彼女の手前で不思議と消える。誰もが心の奥で英雄への敬意を燃やしながら、表では“名も無き救いの鶴”として扱おうとする。
――勇者は称えられすぎてはならない。
十年前の戦役で、世情が混乱したのは「英雄崇拝の熱」が引き金だった。アイリーンをよく知る古参の兵ほど、その危うさを肌で知っているのだろう。無言の了解が、峠にゆるやかに広がっていた。
アイリーンもそれを察したらしく、わずかに肩の力を抜いた。
「……そろそろ、私は下がりますわ」
「なに?」
「治療班へ行くと言えば、不自然ではありませんもの。お館様は軍議の指揮を。それが終わったころ、……きっと『妻』としてお側におりますから」
公爵は頷き、マントを彼女の肩に掛けた。
「歩けるか?」
「ええ。――ありがとう」
それだけ言うと、アイリーンはふわりと踵を返した。蒼銀の鎧が雪を踏み、足跡を残す。それは戦場を去る英雄の行進ではなく、使用人に紅茶の入れ方を説明しに行く“ぼんやり夫人”の足取りと変わらない。
兵たちが自然と道を開ける。
誰も声を掛けない。掛けられない。
だがその沈黙は礼節の鎧だった。
鎧の隙間から洩れる想いが、風に乗って漂う――
(ありがとう)
(生きてくれて、ありがとう)
(貴女が私の背を守ったことを、決して忘れない)
耳には届かぬはずの言葉が、雪を踏むたびにアイリーンの胸へ染み入る。
彼女は振り返らない。ただ公爵を信じて前を向く。
背中に感じる温かな敬意は、最上の勲章だった。
◆ ◆ ◆
谷の外れに待機していた治療班の天幕に入ると、アイリーンは甲冑を脱ぎ、破れたドレスの下から血染めの包帯を覗かせた。待機していた薬師が悲鳴を上げそうになるが、彼女は人差し指を唇へ当てて制す。
「少し、縫っていただけますか? 声は小さく。皆さんの不安を煽りたくありませんから」
薬師は頷き、手際よく魔力縫合術式を走らせる。そのあいだ、アイリーンは帳の隙間から外を見た。
峠の中央で、公爵が指揮杖を掲げている。負傷兵を運ばせ、防衛線を組み直し、数刻後に来るであろう正式な王命使者を迎える準備を整えている。
――その背中は、もう誰にも押しつぶされていない。
アイリーンは胸の奥にひそむ緊張がほどけるのを感じた。
「終わりました、ご夫人」
「ありがとう。……誰にも私の正体は仰らないでくださいね」
薬師は目を丸くするが、すぐに敬礼を返す。
アイリーンは小さく礼を言い、テントを出た。雪解け水が靴底を濡らす。遠くの山影に、淡い朝日が顔を出し始めていた。
自分の役目は、ここでいったん終わる。
――今度こそ、静かに退場しなければ。
彼女は毛布のように温かな朝の光へ溶け込むように、谷間の細道を下りていく。背を丸め、栗色の髪を適当に束ね、血を拭った頬にわざと薄汚れを残した。
それは“ぼんやり公爵夫人”に戻るための最後の仕上げだった。
◆ ◆ ◆
程なく、レイフォード軍の陣営で軍議が終わり、公爵が侍女長ベアトリスに尋ねた。
「妻はどこだ?」
「負傷者の手伝いに行かれました。ですが今、紅茶と包帯を持って戻る途中かと」
その報告通り、丘の斜面をとぼとぼ上ってくる栗色の髪の影がある。
公爵は微笑み、歩み寄った。彼女は大袈裟に息をつき、壊れかけた茶盆を差し出す。
「お館様、朝食もまだでしょう? 粗末ですが温かい茶を」
「……ありがたい」
紙カップに注がれた茶は、戦場の土埃で色も香りも半端だった。それでも公爵はこの上なく丁寧に受け取り、一口啜った。
「うまい」
「本当ですか?」
「本当だ。これ以上甘い茶はない」
互いに短く笑う。
その笑い声は、雪解けの水音よりも静かに、しかし確かに戦場を清めていった。
兵士が旗を立て直し、竜牙隊が峠から火を遠ざける。鳥が囀り、雲がほどけ、朝が来る。
英雄の名は風に流れ、ただ一つ――夫婦の小さな茶会だけが、ここに残った。
アイリーンは湯気に目を細めた。
「……お館様、帰ったらお庭のカモミールを植え替えませんか? きっと春までに芽吹きます」
「そうしよう。春には鳥も戻る」
「はい。――私たちにも、新しい芽が」
静かな退場は、同時に静かな始まりでもあった。
峠の戦いを語る者は後に数あれど、雪上に生まれたこの小さな約束こそが、王国を真に救う“根”となることを――まだ誰も知らない。
峠を覆う暗雲が稲妻を孕みながら渦を巻く。
雪面を割って屹立する混淆巨人は、ベルゼとアクノ公爵の血肉が螺旋状に絡み合った異形──四本の腕が持つ闇槌と血剣が、ただ振り下ろすだけで谷の地形を塗り替えていく。
レイフォード軍は竜牙隊と合流して防衛線を二重に敷いたものの、重圧に耐えかねた盾が軋み、折れ、悲鳴が降り積もる。
閃光弩砲の一斉射は巨人の外殻に穴を穿った。しかし再生能力がそれを瞬く間に塞ぎ、返す衝撃波が砲兵を吹き飛ばした。
「持ちこたえろ! 白銀が動くまで――!」
ガウェインが声を張るが、疲弊しきった兵たちの瞳からは闘志が流れ落ちていく。
そこへ、ついに空気が震えた。
高く、そして澄んだ鐘のような音──剣が鞘から抜かれるときだけ生まれる純粋な金属の歌声。
白い雪煙の向こうから、銀色の稲妻が走った。剣身に纏う蒼雷が宙で三重螺旋を描き、巨人の正面へ放たれる。
「お館様には、指一本触れさせませんわぁあああッ!」
甲高く凛とした叫びが谷の空気を震わせる。
銀髪をなびかせた戦乙女——アイリーンは、竜牙隊の矢瀑の隙間をすり抜け、巨人の目前へ踏み込む。
刹那、四本の腕が同時に振り下ろされる。
だがアイリーンは剣を胸の前で逆手に構え、短杖を縦に併せ、魔法陣と剣閃を同時に重ねる“同時双演”を展開。
右半身は剣速の極致《星閃・三十三式》で闇槌をいなし、左半身は《氷盾陣》で血剣の軌道を凍結させる。
金属と氷が弾け、空気が真空音を立てる。
巨人が初めて大きく揺らいだ。それでも畸形の口が裂け、アクノの声とベルゼの声が重なった。
「貴様ァァァァァァ!!」
四腕が捻じれ合いながら横殴りへ叩きつける。
その殺到に、アイリーンはあえて後退せず、逆に半歩踏み込む。
「――《ルミナ・アーク》!」
封印を解いた星喰いが白銀の爆光を放つ。
剣身から溢れた光刃は槍のように直線で突き抜け、巨人の胸甲を貫通した。眩い弧が闇を裂き、契約核へ一直線に走る。
同時に短杖から迸る稲妻が光刃と干渉し、〈雷撃共振〉が発生。
核を覆う瘴気の膜が弾け飛び、漆黒の結晶が露わになった。
しかし、そのまま核を砕くには力が足りない。
アイリーンは自覚していた。解封によって魔力は沸騰し、生命の火が蝋燭の芯のように短く燃え上がっている。
(あと二撃……持つかしら)
だが背後から重厚な盾の音が重なる。
「剣姫殿、退くなッ! 矢弾で胸を開ける!」
ガウェインが率いる竜牙の残兵が巨人の脇腹へ突撃。レイフォード軍の残存弩兵が一丸となって射線を合わせる。
その光景に、公爵は心臓を鷲掴みにされたまま動かない自分を叱咤した。
「我が剣が、妻を守れずして何が公爵か!」
叫んで前に出る。副官が制止しようとするが、公爵は盾を掴んでアイリーンの右側へ飛び込んだ。
闇槌が振り上がる。公爵は盾で受け、骨が悲鳴を上げた。
もう一撃で砕ける――そう悟った瞬間、横合いからさらなる銀閃。
アイリーンの剣が盾と衝撃のあいだに滑り込み、反動を逸らす。
「お館様、ここは私に――」
「いいや、共にだ! 背を預けろ!」
短い言葉が交差した刹那、二人の魔力が共振した。
剣に纏う蒼雷が公爵の盾へ流れ込み、傷だらけの鋼が淡く光る。盾の紋章――蒼銀の双剣が、かつて勇者が授けた加護を呼び覚ましたのだ。
「行け、アイリーン!」
初めて名前を呼ばれ、アイリーンの胸で火花が散った。
彼は、気づいたのだろうか? 考える暇はない。
雷光を帯びた盾が巨人の腕を受け止め、アイリーンはその影に隠れた死角から跳躍。
《星閃・零式》二撃目が、剣身ごと核へ突き刺さる。
ぐわああああッ!
巨人の悲鳴が谷を割る。核に双裂の亀裂が走り、ベルゼ側の腕が吹き飛ぶ。血霧が舞い、瘴気の雲が竜巻のように奔る。
しかし核は完全には砕けなかった。
時間切れ──胸の刻印が焼け、アイリーンの魔力が急速に失われ始める。視界が染み入り、膝が震える。それでも刃は手放せなかった。
「貴様らぁッ!」
残った腕で闇槌が振り払われる。公爵の盾が粉砕され、彼は吹き飛んだ。
アイリーンもまた衝撃波で地面に叩きつけられ、剣が遠くへ弾かれる。
だが兵の目には、なお剣姫の背が映っている。その姿が瓦礫の中で立ち上がるのを見た瞬間、砕かれていた士気が再燃した。
「護れ! 剣姫を護れ!」
竜牙兵の叫びに、公爵兵が呼応する。
鎧を捨てた歩兵が盾となり、折れた槍で巨人の脚を刺した。
雪煙の向こうで熱が脈打ち、命が鎖のように繋がる。
アイリーンは血を吐きながら短杖を掴む。
魔力は空だ。しかし心臓がまだ打っている限り、最後の術式は使える。
(……生命力媒介。私と核を呪術的“糸”で結び、直接灼く)
それは術者の命を灯芯に魔力を燃やす禁呪。十年前の戦役で一度も使わず封じた切り札。
息を吸い、吐く。遠い日の誓いが胸に満ちる。
──夫の無事と、この国の明日を。
短杖が白く輝き始めた。
だが――
「もう十分だ」
背後で静かな声。振り返ると、レイフォード公爵が砕けた盾の柄を杖のように支え、剣を胸に構えていた。
「私の背を守り続けたのはそなたであったか。今度は私がそなたの盾となろう」
その瞳には、もはや迷いも嫉妬もない。
アイリーンは一瞬だけ涙ぐみ、そして微笑んだ。
「……ええ。共に終わらせましょう」
彼女は禁呪の詠唱を収め、残る魔力を公爵の剣へ注いだ。
蒼雷が薄紅に転じ、二人の魔力が合流した光刃が、最終の煌きを放つ。
巨人が雄叫びとともに突進。
公爵と剣姫が並び立ち、双閃の斬撃がV字に走った。
――閃光、轟音、沈黙。
契約核が粉砕し、混淆巨人は崩れ落ちた。血と瘴気の奔流が夜空へ昇華し、赤い朝日が峠を染めた。
兵が立ち尽くす中、レイフォード公爵は肩で息をつき、隣にいるはずの剣姫へ振り向いた。
しかしそこにいたのは、銀髪を栗色へ戻し、ぼんやりとした笑みを浮かべる一人の“妻”だった。
「お館様……ご無事、でしょ?」
彼は剣を取り落とし、ただ妻を見つめた。
夜明けの雲が晴れ、峠に光が満ちていく。
すれ違いの軌道は、静かに一点で交わった。
第6章-2 アクノ討滅
峡谷を包んでいた瘴気がわずかに引き、夜明け前の鈍い光が雪面に差し込んだ。
混淆巨人が崩れ落ちたあと、瓦礫の頂でひときわ濃い闇が脈動する。黒煙の芯に残ったのは――アクノ公爵。ベルゼの血肉と癒着し、鎧も肌も半ば溶けているが、紫水晶の両眼だけは執念を曇らせていない。
「まだだ……まだ私の舞台は終わらん!」
千切れた右腕の断面から瘴気が噴き、肉塊が蠢きながら再生を始める。しかし完成しきらぬ腕は骨と肉片の塊で、腐臭が立ちのぼる。その異形を支える脚も揺らぎ、アクノは闇剣を杖に縋りながら立った。
雪下の戦場は静まり返る。倒れた兵は息を潜め、竜牙隊もレイフォード軍も矢をつがえたまま動かない。そこへ、風に紛れる足音が響いた。
淡い栗色の髪――いや、戦場の仮面が解けかけて銀の原色を帯びた髪が揺れる。アイリーンが剣を手に頂上の瓦礫へ歩む。その横には、折れた盾を手直ししたレイフォード公爵。
「アクノ公爵」
アイリーンの声は穏やかだった。だが塞がるはずのない裂傷が剣先から稲妻を生み、雪面を焦がす。
アクノは引きつった笑みを貼り付け、闇剣を振りかざす。
「勇者アイリーン……いや、ぼんやり夫人? 貴様さえいなければ王冠も栄誉もすべて私のものとなるはずだったのだ!」
「栄誉は求めるものではなく、背中に生えるものですわ」
アイリーンは剣を胸元に立て、静かに構えた。
レイフォード公爵は一歩前に出る。砕けた盾でもその背を守る意思は変わらない。
「アクノ、貴殿の野望はここで終いだ。兵の命も、妻の名誉も弄ぶ者を私は許さぬ!」
公爵の咆哮に雪原が震える。
怒声を嘲るように、アクノの半魔の口から咆哮が返った。
闇剣が振り下ろされる。が、剣筋は既に剣技ではない。瘴気に操られるだけの獣の爪だ。
レイフォードは盾で受け止める。ぎしりと鉄が悲鳴を上げ、それでも踏みとどまる。そこへアイリーンが剣を滑り込ませ、衝撃をいなしつつ切先で腹部を割った。
「ぐあっ……!」
紫黒の血が噴き、アクノの膝が折れる。しかし胸骨の奥で黒い結晶が脈打った。――混淆核の欠片、ベルゼの瘴気とアクノの血で再生した“代替心臓”だ。
アイリーンは短杖を逆手に取り、その結晶へ突き立てると、契印逆転式の魔法陣を展開した。
「契約は私が塗り替えます。あなたの命脈は、これで終わりですわ」
結晶を包む闇が蒼光へ反転し、内部から罅が走る。
しかしアクノは最後の叫びとともに左腕を振り抜き、アイリーンの脇腹を切り裂いた。赤い筋が銀の甲冑に滲む。
「アイリーン!」
公爵が盾でアクノを押し返し、受け止めるように彼女を抱えた。
アイリーンは浅く息を整え、苦笑する。
「大丈夫……この程度、紅茶をこぼすより痛くありませんわ」
冗談めいた声に、公爵の胸が締め付けられる。その手の中で、彼女の魔力がまだ燃えていた。
アイリーンは剣を振り返し、公爵へ囁く。
「最後はお館様の剣でお願いします……私の魔力を添えますので」
レイフォードは頷いた。二人の剣と剣が交錯し、蒼雷が盾へ流れ込む。
公爵は踏み込み、残った力で真一文字に斬り上げた。
――ガキン!
剣が結晶に届き、先ほどの罅が爆発的に広がる。
アクノは目を見開き、言葉にならぬ悲鳴を上げた。瘴気の糸が千切れ、半魔の肉体が崩れ去る。
「ば……馬鹿な……私は……王になる男だ……!」
最後の抵抗。だが結晶の光は潰え、闇剣が砂のように崩れ落ちる。
アイリーンは短杖を掲げ、小さく呪文を唱えた。《浄めの終詠》。
黒い残滓が白い霧に変わり、雪へ吸い込まれていく。跡形もなく。
峠は静寂を取り戻した。
朝日が山際を染め、氷の小片が虹色に輝く。血と瘴気の匂いを薄める冷たい風が、戦場を浄化するように吹き抜けた。
◆
アイリーンは剣を収め、ふらりと膝を突いた。失血と力の使い過ぎで視界が霞む。
そこへ公爵が肩を抱くように支え、破れたマントを外して彼女の傷に巻いた。
「我が未熟で……そなた一人に剣を振らせた」
「いいえ。お館様が盾になってくださったから核へ届きましたわ」
二人は雪面に膝をつき、互いの呼吸を感じる距離で微笑んだ。
兵たちが静かに集まり、竜牙隊のガウェインが大剣を杖に立つ。
「終戦だ、レイフォード殿……いや、閣下。あとは残敵掃討だけだ」
「世話を掛けた、古き友よ」
公爵は立ち上がり、アイリーンへ手を差し出した。
彼女はその手を取ろうとして、ふと頬を染める。
「……紅茶、淹れ直さないといけませんね」
「そうだな。家へ帰ったら、妻として、そして勇者としての話をゆっくり聞こう」
太陽が完全に稜線を越え、峠の影を消す。
アクノ公爵の野望は砕け散り、魔王軍は潰走。
そして雪の戦場に残ったのは――互いの背を守り抜いた夫婦の揺るぎない絆だけだった。
第6章-3 魔王との決着
アクノ公爵の野望が潰え、瘴気は霧散した――はずだった。
だが峠を覆う雲がふたたび不気味にうねり、地鳴りが底から響く。戦いを見守っていた兵たちが剣を構え直し、レイフォード公爵はアイリーンをかばうように一歩前へ出た。
「まさか……ベルゼだけでは終わらぬと?」
アイリーンは血のにじむ脇腹を押さえながら顔を上げる。蒼い瞳に映るのは、谷底に穿たれた漆黒の亀裂。そこから逆巻く魔素が噴き出し、夜のない空をさらに暗く染め上げていた。
――ズズン……ズズズン……
岩肌が砕け、瘴気の柱が巨大な影を形づくる。翼でも角でもない、深淵が直接肉体をとったかのような影。峠にいる者すべての心音を吸い取り、鼓動を己の脈動と同期させる怪物。アイリーンは低く名を呼んだ。
「“深淵王(アビスロード)”カドラリス……本体の分霊(アヴァター)!」
十年前、本国へ襲来した魔王本人は別次元へ封印された。だが封印が長く維持されれば、必ず“喰い残し”の意識体が現世に滲み出す――それが深淵王の分霊だ。ベルゼとアクノが撒いた瘴気と血が、呼び水になったのだろう。
分霊は口も目もない影の顔をこちらへ向けた。空気が圧縮され、悲鳴のような風切り音が雪を払う。
『剣の乙女よ……星を喰う者よ……久しいな……』
脳髄へ直接入り込む“音”に兵たちが膝をつく。耐えられるのは、勇者と、勇者の近くで魔力に慣らされた一握りだけ。レイフォードでさえ眉間に青筋を浮かべ、剣を杖に踏ん張った。
アイリーンは震える脚に力を込めた。魔力量は残り火にすぎないが、ここを逃せば王都どころか世界が再び戦火に沈む。短杖を握る手がかすかに痙攣した。
「……終わらせるわ。あなたの根も、残り滓も」
だが分霊は嗤うように影の腕を前方へ伸ばし、空気を絞る。引力が一点に集中し、砕けた瓦礫や折れた槍が渦を巻き、弾丸の雨となって襲いかかった。
「防げぬ……!」
公爵が歯を食いしばったその時、アイリーンは短杖を捨て、星喰い(アステリア)を両手で逆手に構えた。刹那、剣の封印刻印が最後の封を外し、白銀の刀身が虹のオーラを噴き上げる。
《星霊解放・終極式――レグルス・イラディア》
剣と共に放たれた光が渦を逆走し、引力弾を粒子の霧へ崩した。だが同時に、アイリーンの命脈も激しく燃え出す。足元の雪が一瞬で蒸発し、彼女自身の影が淡く透けた。
「アイリーンッ!」
公爵が駆け寄る。だが光壁が二人を隔てた。終極式は外部からの干渉を許さない。
分霊カドラリスが影の口を開く。
『愚かなる人の勇者……身を灼いても深淵は食らい尽くせぬ』
黒い稲妻が光壁を叩き、白と黒の閃光が空を裂く。
アイリーンは剣を前へ突き出し、一歩ずつ歩みを進めた。吐血が顎を伝うが、瞳は燃える星のように揺るがない。
「あなたを……封印した十年前の私を、信じてくれた“人”がいる。それが答えよ!」
光壁が槍の穂先と化し、影の胴へ突き刺さる。分霊は深い悲鳴を上げ、空間そのものを歪めながら抵抗した。しかしアイリーンの足が止まるより早く、第二の剣閃――蒼銀の剣が光壁に重なった。
「一人ではない。妻よ、背を預けたまえ!」
レイフォード公爵の剣が、彼女の光と共振する。勇者の魔力は尽きている。だが公爵の剣が“受信器”となり、兵と仲間の“祈り”を魔力へ変換して流し込む《共鳴式》が起動した。
竜牙隊の弩兵、傷ついた歩兵、雪に伏した仲間たち――彼らの刹那の祈りが光壁へ注がれ、星の矢となる。
影が震え、引力が反転。深淵王の分霊ごと裂け目へ押し戻される。
『人の──祈り……ごとき……!』
最後の抵抗が虚しく、裂け目がぱんと弾ける音を立て、影を飲み込んだ。断末魔のエコーが雪嶺を揺らし、峡谷を奔る風が純白に変わる。瘴気は一片も残さず霧散し、夜明け前の空が蒼へ戻った。
◆ ◆ ◆
全てが終わったとき、アイリーンは剣を支えに膝をついた。星喰いの光が静かに収束し、封印刻印は再び冷たい銀へ戻る。彼女自身の影は濃いが、輪郭はまだしっかりと留まっていた。
レイフォード公爵が駆け寄り、肩を抱く。
「生きている……!」
「少し、寝不足なだけ……ですわ」
乾いた冗談に、公爵は笑い、そして小さく震えた。
彼の腕の中で、アイリーンは微笑む。雪を赤く染めた血は、もう鎮痛魔法で止まっている。
「あなたの祈りが力をくれました……十年前も、そして今も」
公爵は返事の代わりに額を彼女の額へそっと当てた。
遠くで歓声が上がり、峠を向こう側から黄金の朝陽が射してくる。
雪面が万華鏡のように輝き、兵たちの甲冑が反射する光が虹を散らす。
「終わったのか……」
ガウェインが大剣を杖に、空を仰いで呻いた。
「終わったぞ」
副官トラヴィスが泣き笑いで応じる。呼気が白く弾け、やがて冬の風に溶けた。
峠に残るのは、静けさと、折れた旗を支え合う人々の姿。
そして雪の中央で抱き合う二人の影が、淡い陽光のなかで重なって揺れていた。
第6章‐4 静かな退場
深淵王の分霊は霧散し、峠に残ったのは粉雪と微かな硝煙の匂いだけだった。
陽が完全に昇りきる前の蒼い光が、傷ついた兵士と崩れかけた防塁を染め、凍った血痕を薄く煌めかせる。戦の喧騒は遠い昔の幻のよう――だが、耳を澄ませれば確かに聞こえる。安堵の吐息、痛みに耐える呻き、小さな歓声と泣き声。それらが溶け合い、静かな大合唱となって冬の峠を満たしていた。
その中心に立つレイフォード公爵は、妻――いや勇者アイリーンの肩をそっと抱いていた。
「本当に、無事なのだな」
震える掌が血の滲んだ鎧に触れ、確かな体温を感じ取る。アイリーンは淡く笑った。
「大丈夫。……少し、疲れただけですわ」
言葉通り、彼女の瞳からは鋭い闘気が引き、もとの“ぼんやり”を思わせる柔らかさが戻りつつある。けれど公爵には分かる。戦場で剣を振るうあいだ、彼女がどれほどの覚悟で命を燃やしていたかを。
「感謝と謝罪を、一度に伝える術が思いつかん」
「なら、どちらもお家に帰ってからゆっくり伺いますわ」
アイリーンは冗談めかして言い、傷だらけの短杖を胸に抱えた。星喰い(アステリア)は既に鞘に戻り、その刀身は深い眠りへ落ちたかのように静かだ。
竜牙隊のガウェインが足を引きずりながら近寄り、公爵に礼を取った。
「この峠は奪還完了だ。残党は森へ散ったが、追撃部隊が処理している。……あとは王都への報告と、負傷者の搬送だな」
「世話になった」
ガウェインは笑い、アイリーンへ目礼してから部下たちへ指示を飛ばしに去っていく。その背を見送りながら、公爵はふと気付いた。戦勝の中心にいたはずのアイリーン――銀の剣姫――を見上げる視線が、兵士たちから自然と逸れている。
いや、違う。
兵たちは確かに彼女を見ている。けれど賛美の言葉をあげる者はなく、歓呼は彼女の手前で不思議と消える。誰もが心の奥で英雄への敬意を燃やしながら、表では“名も無き救いの鶴”として扱おうとする。
――勇者は称えられすぎてはならない。
十年前の戦役で、世情が混乱したのは「英雄崇拝の熱」が引き金だった。アイリーンをよく知る古参の兵ほど、その危うさを肌で知っているのだろう。無言の了解が、峠にゆるやかに広がっていた。
アイリーンもそれを察したらしく、わずかに肩の力を抜いた。
「……そろそろ、私は下がりますわ」
「なに?」
「治療班へ行くと言えば、不自然ではありませんもの。お館様は軍議の指揮を。それが終わったころ、……きっと『妻』としてお側におりますから」
公爵は頷き、マントを彼女の肩に掛けた。
「歩けるか?」
「ええ。――ありがとう」
それだけ言うと、アイリーンはふわりと踵を返した。蒼銀の鎧が雪を踏み、足跡を残す。それは戦場を去る英雄の行進ではなく、使用人に紅茶の入れ方を説明しに行く“ぼんやり夫人”の足取りと変わらない。
兵たちが自然と道を開ける。
誰も声を掛けない。掛けられない。
だがその沈黙は礼節の鎧だった。
鎧の隙間から洩れる想いが、風に乗って漂う――
(ありがとう)
(生きてくれて、ありがとう)
(貴女が私の背を守ったことを、決して忘れない)
耳には届かぬはずの言葉が、雪を踏むたびにアイリーンの胸へ染み入る。
彼女は振り返らない。ただ公爵を信じて前を向く。
背中に感じる温かな敬意は、最上の勲章だった。
◆ ◆ ◆
谷の外れに待機していた治療班の天幕に入ると、アイリーンは甲冑を脱ぎ、破れたドレスの下から血染めの包帯を覗かせた。待機していた薬師が悲鳴を上げそうになるが、彼女は人差し指を唇へ当てて制す。
「少し、縫っていただけますか? 声は小さく。皆さんの不安を煽りたくありませんから」
薬師は頷き、手際よく魔力縫合術式を走らせる。そのあいだ、アイリーンは帳の隙間から外を見た。
峠の中央で、公爵が指揮杖を掲げている。負傷兵を運ばせ、防衛線を組み直し、数刻後に来るであろう正式な王命使者を迎える準備を整えている。
――その背中は、もう誰にも押しつぶされていない。
アイリーンは胸の奥にひそむ緊張がほどけるのを感じた。
「終わりました、ご夫人」
「ありがとう。……誰にも私の正体は仰らないでくださいね」
薬師は目を丸くするが、すぐに敬礼を返す。
アイリーンは小さく礼を言い、テントを出た。雪解け水が靴底を濡らす。遠くの山影に、淡い朝日が顔を出し始めていた。
自分の役目は、ここでいったん終わる。
――今度こそ、静かに退場しなければ。
彼女は毛布のように温かな朝の光へ溶け込むように、谷間の細道を下りていく。背を丸め、栗色の髪を適当に束ね、血を拭った頬にわざと薄汚れを残した。
それは“ぼんやり公爵夫人”に戻るための最後の仕上げだった。
◆ ◆ ◆
程なく、レイフォード軍の陣営で軍議が終わり、公爵が侍女長ベアトリスに尋ねた。
「妻はどこだ?」
「負傷者の手伝いに行かれました。ですが今、紅茶と包帯を持って戻る途中かと」
その報告通り、丘の斜面をとぼとぼ上ってくる栗色の髪の影がある。
公爵は微笑み、歩み寄った。彼女は大袈裟に息をつき、壊れかけた茶盆を差し出す。
「お館様、朝食もまだでしょう? 粗末ですが温かい茶を」
「……ありがたい」
紙カップに注がれた茶は、戦場の土埃で色も香りも半端だった。それでも公爵はこの上なく丁寧に受け取り、一口啜った。
「うまい」
「本当ですか?」
「本当だ。これ以上甘い茶はない」
互いに短く笑う。
その笑い声は、雪解けの水音よりも静かに、しかし確かに戦場を清めていった。
兵士が旗を立て直し、竜牙隊が峠から火を遠ざける。鳥が囀り、雲がほどけ、朝が来る。
英雄の名は風に流れ、ただ一つ――夫婦の小さな茶会だけが、ここに残った。
アイリーンは湯気に目を細めた。
「……お館様、帰ったらお庭のカモミールを植え替えませんか? きっと春までに芽吹きます」
「そうしよう。春には鳥も戻る」
「はい。――私たちにも、新しい芽が」
静かな退場は、同時に静かな始まりでもあった。
峠の戦いを語る者は後に数あれど、雪上に生まれたこの小さな約束こそが、王国を真に救う“根”となることを――まだ誰も知らない。
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