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第十二話 再開
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第十二話 再開
北門の石畳に、久しぶりに車輪の音が響いた。
重たい木製の荷車が、きしみながら王都へ入ってくる。灰色の塊が、幌の隙間から覗いている。
「来た……!」
市場に集まっていた商人たちが、一斉に動いた。
岩塩だ。
紛れもない、ハライト産の岩塩。
その後ろには、封印された樽が続く。精製塩の納入印。
停止から数日。
だが、王都にとっては数ヶ月のように長く感じられた。
「価格は?」
誰かが問う。
「据え置きだ」
商会の長が答える。
ざわめきが安堵へと変わる。
「上がらないのか」
「民価格は変わらぬ」
噂は瞬く間に広がった。
十倍。
だがそれは市場ではない。
王国向け納入分のみ。
王宮の厨房でも、再び樽が運び込まれる。
料理長は封を確認し、慎重に開ける。
白い結晶が、光を反射する。
「戻りました」
小さな声。
だが、その重みは大きい。
王太子はその報告を聞き、目を閉じた。
「市場は」
「安定しつつあります」
「軍備は」
「製造再開いたしました」
短い報告の中に、国の呼吸が戻っていくのがわかる。
王都の肉屋では、再び塩漬け肉が吊るされる。
魚屋では、干物が並ぶ。
岩塩を削る音が、朝の市場に戻ってきた。
北方、ハライト公国。
ヴィエリチカは報告を受けていた。
「王都は安定の兆しを見せております」
「そう」
彼女は静かに頷く。
「民価格は守られておりますか」
「はい」
「それでよろしい」
にこりと微笑む。
彼女の机の上には、王太子の署名入り契約書がある。
十倍。
紙の上の文字は動かない。
契約は発動した。
停止は解除された。
王城では、財務官が書類を抱えて走り回っている。
「差額分の支払い、第一回分が到達しました」
「殿下の私財より補填」
「不足分は?」
「順次計上」
静かな波紋が広がる。
民は気づかない。
だが城の中では、重みが確実に積み上がっている。
王太子は一人、窓辺に立っていた。
遠くの市場を眺める。
煙が立ち上り、活気が戻りつつある。
塩は戻った。
白は戻った。
だが以前と同じではない。
机の上に置かれた帳簿を、そっと開く。
十倍の文字。
支払い額。
想像以上の数字。
まだ始まったばかりだ。
「民は守れた」
小さく呟く。
誇りではない。
確認だ。
側近が静かに言う。
「殿下、供給は安定する見込みでございます」
「そうか」
短い返答。
再開は成功した。
市場は安堵し、軍は動き出し、王都は呼吸を取り戻した。
だが契約は始まったばかり。
差額は積み上がる。
白い粉が運ばれるたびに、見えない重みが増していく。
北方の灰色の岩は、今日も削られている。
大地の時間は止まらない。
白は、灰から生まれ続ける。
ヴィエリチカは窓の外を見つめる。
「契約は守られました」
静かな声。
「これで秩序は戻ります」
怒りはない。
勝利の笑みもない。
あるのは、ただ整った秩序。
王太子は塩壺を手に取り、そっと蓋を閉じる。
再開。
それは終わりではない。
十倍の物語は、ここから動き始める。
北門の石畳に、久しぶりに車輪の音が響いた。
重たい木製の荷車が、きしみながら王都へ入ってくる。灰色の塊が、幌の隙間から覗いている。
「来た……!」
市場に集まっていた商人たちが、一斉に動いた。
岩塩だ。
紛れもない、ハライト産の岩塩。
その後ろには、封印された樽が続く。精製塩の納入印。
停止から数日。
だが、王都にとっては数ヶ月のように長く感じられた。
「価格は?」
誰かが問う。
「据え置きだ」
商会の長が答える。
ざわめきが安堵へと変わる。
「上がらないのか」
「民価格は変わらぬ」
噂は瞬く間に広がった。
十倍。
だがそれは市場ではない。
王国向け納入分のみ。
王宮の厨房でも、再び樽が運び込まれる。
料理長は封を確認し、慎重に開ける。
白い結晶が、光を反射する。
「戻りました」
小さな声。
だが、その重みは大きい。
王太子はその報告を聞き、目を閉じた。
「市場は」
「安定しつつあります」
「軍備は」
「製造再開いたしました」
短い報告の中に、国の呼吸が戻っていくのがわかる。
王都の肉屋では、再び塩漬け肉が吊るされる。
魚屋では、干物が並ぶ。
岩塩を削る音が、朝の市場に戻ってきた。
北方、ハライト公国。
ヴィエリチカは報告を受けていた。
「王都は安定の兆しを見せております」
「そう」
彼女は静かに頷く。
「民価格は守られておりますか」
「はい」
「それでよろしい」
にこりと微笑む。
彼女の机の上には、王太子の署名入り契約書がある。
十倍。
紙の上の文字は動かない。
契約は発動した。
停止は解除された。
王城では、財務官が書類を抱えて走り回っている。
「差額分の支払い、第一回分が到達しました」
「殿下の私財より補填」
「不足分は?」
「順次計上」
静かな波紋が広がる。
民は気づかない。
だが城の中では、重みが確実に積み上がっている。
王太子は一人、窓辺に立っていた。
遠くの市場を眺める。
煙が立ち上り、活気が戻りつつある。
塩は戻った。
白は戻った。
だが以前と同じではない。
机の上に置かれた帳簿を、そっと開く。
十倍の文字。
支払い額。
想像以上の数字。
まだ始まったばかりだ。
「民は守れた」
小さく呟く。
誇りではない。
確認だ。
側近が静かに言う。
「殿下、供給は安定する見込みでございます」
「そうか」
短い返答。
再開は成功した。
市場は安堵し、軍は動き出し、王都は呼吸を取り戻した。
だが契約は始まったばかり。
差額は積み上がる。
白い粉が運ばれるたびに、見えない重みが増していく。
北方の灰色の岩は、今日も削られている。
大地の時間は止まらない。
白は、灰から生まれ続ける。
ヴィエリチカは窓の外を見つめる。
「契約は守られました」
静かな声。
「これで秩序は戻ります」
怒りはない。
勝利の笑みもない。
あるのは、ただ整った秩序。
王太子は塩壺を手に取り、そっと蓋を閉じる。
再開。
それは終わりではない。
十倍の物語は、ここから動き始める。
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