『婚約もしていないのに婚約破棄ですか? 〜岩塩で殴れば目が覚めます?〜』

しおしお

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第二十二話 担保

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第二十二話 担保

 未払いの翌月、利息はきちんと計上された。

 塩は届く。市場は動く。だが、帳簿の数字だけが静かに重くなる。

「……増えております」

 財務官が淡々と告げる。

「未払い分と利息分が重なり、次月の支払いはさらに増額となります」

 元王太子は書類を見つめたまま動かない。

 誇りで支えられる範囲は、とうに越えている。

 

「担保を」

 宰相が低く言った。

「差し出すほか、ございません」

 

 重い沈黙。

 

「何を」

 元王太子が問う。

 

「塩街道の管理権」

 

 室内の空気が止まる。

 塩街道。

 王国とハライトを結ぶ生命線。

 王国側が管理し、通行税を得てきた要所。

 

「管理権を一定期間、譲渡」

「担保として」

 

 元王太子はゆっくりと息を吐く。

 塩は守った。

 だが今度は、道を差し出す。

 

「期限は」

「完済まで」

 

 それは、事実上の従属に近い。

 

「民の通行は」

「妨げられません」

「税は」

「先方の裁量」

 

 元王太子は目を閉じる。

 選択肢はない。

 

「書状を用意せよ」

 

 北方、ハライト公国。

 ヴィエリチカは報告を受ける。

「担保申し出。塩街道管理権」

 

 彼女はわずかに目を細める。

「契約に従った結果でございます」

 

 側近が確認する。

「受諾なさいますか」

 

 ヴィエリチカは紅茶を置く。

「条件は明確に」

 穏やかな声。

「民の流通は妨げません。通行税は我が国の管理下」

 

「期限は」

「完済まで」

 

 彼女は小さく微笑む。

「岩は、急がせませんと申し上げましたでしょう」

 

 王城。

 担保譲渡の文書が読み上げられる。

 貴族たちは沈黙。

 反対の声は上がらない。

 上げられない。

 

 元王太子は署名する。

 位はない。

 だが責任はある。

 

 塩街道は、翌月よりハライトの管理下に置かれた。

 通行税の徴収所には、新たな旗が掲げられる。

 

 民は戸惑う。

 だが塩は安定している。

 

 王国は守られているのか。

 それとも、削られているのか。

 

 白い塩は今日も届く。

 だがその道は、もはや王国の手にはなかった。
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