『婚約もしていないのに婚約破棄ですか? 〜岩塩で殴れば目が覚めます?〜』

しおしお

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第二十三話 傾斜

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第二十三話 傾斜

 塩街道の旗が変わってから、王都の空気はわずかに傾いた。

 目に見える混乱はない。荷車は往来し、塩は変わらず積み上がる。通行は妨げられていない。約束は守られている。

 だが、徴収所でのやり取りが変わった。

 帳簿の流れが変わった。

 税の行き先が変わった。

 

「通行税の収入が、今月より減少」

 財務官が静かに報告する。

「当然だ」

 元王太子は頷く。

 担保だ。預けたのだから、戻らない。

 

「利息は」

「増えております」

 

 未払い分に利息。

 その利息にも利息。

 雪玉のように膨らむ。

 

「返済の目途は」

「……現状では」

 

 言葉が途切れる。

 

 王城の廊下では、貴族たちが低く囁く。

「傾いている」

「まだ倒れてはいない」

「だが、傾いている」

 

 崩壊ではない。

 しかし、重心がずれている。

 

 元王太子は城壁に立ち、街道を見下ろす。

 荷車は進む。

 旗は揺れる。

 

「守ったはずだ」

 呟く。

 民は守られた。

 塩もある。

 

 だが、王国は傾いている。

 

 北方、ハライト公国。

 ヴィエリチカは新しい収支報告に目を通す。

「街道税、安定」

「はい」

「流通も円滑」

 

 彼女は頷く。

「約束通り、民の通行は妨げておりません」

 

 側近が言う。

「利息が増えております」

 

 ヴィエリチカは静かに微笑む。

「契約でございます」

 

 感情はない。

 ただ帰結。

 

「傾きは」

「徐々に」

 

 彼女は窓の外を見る。

 灰色の岩山は、風に揺れない。

 

「急がせませんと申し上げましたでしょう」

 

 王城。

 再び会議が開かれる。

「さらなる担保を」

「城下の倉庫管理権を」

「鉱山の採掘権の一部を」

 

 言葉が重なる。

 

 元王太子は静かに言う。

「民に影響は出すな」

 

 それが唯一の条件。

 

 だが傾斜は止まらない。

 塩は守られている。

 民も守られている。

 

 だが国家の柱は、ゆっくりと角度を変えていた。

 

 白い粉は今日も食卓へ。

 だが王国は、静かに傾き続ける。
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