『婚約もしていないのに婚約破棄ですか? 〜岩塩で殴れば目が覚めます?〜』

しおしお

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第二十四話 沈黙

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第二十四話 沈黙

 塩街道の旗が変わってから、王城は妙に静かだった。

 声を荒げる者はいない。怒鳴る者もいない。ただ、皆が声を潜めている。

 傾いていると、誰もが知っているからだ。

 

 元王太子は、豪奢な執務室を離れ、質素な一室で書類を整理していた。

 机は簡素。椅子も硬い。

 だが文句はない。

 位を失ったのだから、当然だ。

 

「本日の報告でございます」

 財務官が差し出す。

 未払い分。

 利息。

 街道税の移譲後の収支。

 

 元王太子は何も言わず、目を通す。

 問いも、抗議もない。

 

「……申し上げることはございませんか」

 財務官が恐る恐る尋ねる。

 

「ない」

 

 短い返答。

 

 以前なら、策を練った。

 別の道を探した。

 だが今は違う。

 

 契約は守る。

 差額は負う。

 担保は差し出す。

 

 それだけだ。

 

 王城の中庭では、衛兵が訓練をしている。

 規模は小さくなった。

 掛け声も少ない。

 

 元王太子はそれを遠くから見つめる。

 自分が削ったのだと理解している。

 

 夜。

 机の上には塩壺が一つ。

 白い粒を指でつまむ。

 

「軽率だった」

 

 言葉は小さい。

 

「だが、逃げぬ」

 

 それ以上は語らない。

 

 北方、ハライト公国。

 ヴィエリチカは報告を受ける。

「王都、追加の申し出はなし」

「沈黙でございます」

 

 彼女は頷く。

「誇りがございますのね」

 

 側近が静かに言う。

「崩れかけておりますが」

 

 ヴィエリチカは首を横に振る。

「崩れてはおりませんわ」

 柔らかな声。

「沈んでいるだけです」

 

 岩は声を上げない。

 ただ、重さに従う。

 

 王城では、元王太子が再び書類を閉じる。

 言い訳もしない。

 嘆きもしない。

 

 沈黙。

 

 それが、彼の選んだ姿勢だった。

 

 塩は今日も届く。

 白は変わらぬ。

 

 だが、王国は言葉を失い、静かに沈み続けていた。
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