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第三十話 配置
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第三十話 配置
編入から二月。
行政の再編が、静かに進んでいた。
役所の看板が掛け替えられ、印章が新調され、書類の書式が少しずつ変わる。
だが市場の匂いは変わらない。
塩の袋は積まれ、白い粉は変わらぬ形で料理に振られる。
その日、旧王城――いまは統合庁舎と呼ばれる建物の大広間に、関係者が集められた。
大仰な式典ではない。
だが重要な発表だった。
「旧王族の処遇について」
文官が読み上げる。
元王は生活保障のもと、顧問として名目上の席を持つ。
政治決定権はない。
だが敬意は払われる。
ざわめきは小さい。
当然の処遇だと、多くは理解している。
そして、最後の項目。
「元王太子の配置について」
視線が集まる。
ヴィエリチカは自ら立ち上がった。
柔らかな微笑みは変わらない。
「元王族を、民間で働かせるわけにはまいりません」
その一言に、広間の空気がわずかに緩む。
処罰ではないのだ、と。
「よって、王宮衛生管理局へ配置いたします」
数人が顔を上げる。
「衛生管理は、王宮の基盤でございます」
彼女は続ける。
「清潔が保たれなければ、何も保てません」
元王太子は、表情を変えない。
「役職は」
文官が確認する。
「王宮衛生維持補助員」
それ以上の説明はない。
広間にざわめきが走る。
誰も嘲らない。
だが意味は理解している。
塩は清めに使われる。
元王太子は一歩前に出た。
「拝命いたします」
声は静かだ。
怒りも、反発もない。
彼は理解している。
これは罰ではない。
帰結だ。
北方、ハライト。
ヴィエリチカは発表後、窓辺に立つ。
「少し厳しすぎましたか」
側近が小声で問う。
彼女は首を傾げる。
「衛生は重要でございますわ」
くすりと笑う。
「塩は、穢れを流すためのものですもの」
広間では、元王太子が静かに退出する。
豪奢な衣ではない。
簡素な制服が手渡される。
廊下を歩く足取りは、乱れない。
王宮の奥。
磨かれた石床。
水桶。
そして、白い塩。
彼はそれを手に取る。
かつて「ただの白い粉」と言ったそれを。
第三十話は、静かに幕を下ろす。
王族は消えた。
だが役目は残る。
塩は今日も白い。
編入から二月。
行政の再編が、静かに進んでいた。
役所の看板が掛け替えられ、印章が新調され、書類の書式が少しずつ変わる。
だが市場の匂いは変わらない。
塩の袋は積まれ、白い粉は変わらぬ形で料理に振られる。
その日、旧王城――いまは統合庁舎と呼ばれる建物の大広間に、関係者が集められた。
大仰な式典ではない。
だが重要な発表だった。
「旧王族の処遇について」
文官が読み上げる。
元王は生活保障のもと、顧問として名目上の席を持つ。
政治決定権はない。
だが敬意は払われる。
ざわめきは小さい。
当然の処遇だと、多くは理解している。
そして、最後の項目。
「元王太子の配置について」
視線が集まる。
ヴィエリチカは自ら立ち上がった。
柔らかな微笑みは変わらない。
「元王族を、民間で働かせるわけにはまいりません」
その一言に、広間の空気がわずかに緩む。
処罰ではないのだ、と。
「よって、王宮衛生管理局へ配置いたします」
数人が顔を上げる。
「衛生管理は、王宮の基盤でございます」
彼女は続ける。
「清潔が保たれなければ、何も保てません」
元王太子は、表情を変えない。
「役職は」
文官が確認する。
「王宮衛生維持補助員」
それ以上の説明はない。
広間にざわめきが走る。
誰も嘲らない。
だが意味は理解している。
塩は清めに使われる。
元王太子は一歩前に出た。
「拝命いたします」
声は静かだ。
怒りも、反発もない。
彼は理解している。
これは罰ではない。
帰結だ。
北方、ハライト。
ヴィエリチカは発表後、窓辺に立つ。
「少し厳しすぎましたか」
側近が小声で問う。
彼女は首を傾げる。
「衛生は重要でございますわ」
くすりと笑う。
「塩は、穢れを流すためのものですもの」
広間では、元王太子が静かに退出する。
豪奢な衣ではない。
簡素な制服が手渡される。
廊下を歩く足取りは、乱れない。
王宮の奥。
磨かれた石床。
水桶。
そして、白い塩。
彼はそれを手に取る。
かつて「ただの白い粉」と言ったそれを。
第三十話は、静かに幕を下ろす。
王族は消えた。
だが役目は残る。
塩は今日も白い。
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