貧乳シンデレラは、貧乳を理由に婚約破棄されましたが、元婚約者には未来の可能性が見えていませんでした。

しおしお

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第3話 失われた母の面影

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失われた母の面

 黒いヴェールをまとった女性は、まるで闇から生まれ、光に染まったような存在だった。
 シンディは涙で濡れた頬をそっと拭い、その場に立ち上がることすら忘れて、ただ見つめた。

 女性の瞳は深い紫色。
 星のような光を宿し、こちらの心をすべて見通しているようにも感じる。
 だが怖さはない。
 むしろ不思議な温かさが、胸の奥にじんわりと広がっていった。

「あなたは……誰、ですか?」

 シンディが震える声で問うと、女性は微笑んだ。
 その仕草は、どこか母に似ていた。
 優しく、包み込むようで、泣き止ませるために差し出された手のようだった。

「私はアドラ。魔女よ。
 でも、悪い魔女じゃないわ。少なくとも……泣いている女の子を放っておくほど冷たくはない」

「……魔女……?」

 信じられない。
 この国に魔女の伝承は多いが、実際に出会ったという話は聞いたことがない。

 それでも、目の前の女性が本物だと“心が”理解していた。
 信じるより先に、存在の説得力があった。

「ここは……フラット家の敷地ですよ。外から入ったのですか?」

「いいえ。呼ばれたのよ、シンディ。
 あなたの涙に、あなたの心が助けを求めた声に」

「……わたしの、心……」

 シンディの胸中に何かがふっと温かく灯った。
 自分はずっと一人だと思っていた。
 胸が貧しく、価値がないと蔑まれる日々。
 誰も味方はいない。
 誰にも届かない。

 でも、この魔女は言った。
 ――助けを求める声が、確かに届いたと。

 その言葉が、どれほど救いだっただろう。

「……アドラ様。私は……どうして、こんなに苦しいのでしょう」

 涙がまた溢れそうになる。
 胸を押さえながら、ずっと塞ぎ込んでいた本音が、堰を切ったようにこぼれ出た。

「母様のように……美しく生まれたかった。
 胸が豊かなら、誰も私を笑わなかった。
 舞踏会にだって行けたのに……王子様にだって、胸じゃなくて私を見てもらえるかもしれなかったのに……!」

 シンディの声は震え、途切れ、再び強くなった。

「なのに私は……!
 私は、胸がないだけで……価値がないみたいに扱われて……!
 どうしてこんな身体に生まれたのか……何度も、何度も、責めました……!」

 そこで言葉が止まった。
 嗚咽が喉をごぼごぼと締め付け、涙が大粒になって頬を伝う。

 アドラはそんなシンディに静かに近づき、そっと肩に触れた。
 その手は驚くほど優しく、あたたかかった。

「……胸は、あなたの価値を決めるものじゃないわ、シンディ」

「でも……この国では……!」

「知っているわ。胸こそ女性の象徴だと崇める、愚かしい価値観が根強く残っていることも」

 アドラの紫の瞳が、ふっと揺れた。

「あなたのお母様はね、その価値観を嫌っていたのよ」

「……え……?」

「あなたの母は、胸が豊かだったけれど、そんなものに誇りを感じていたわけじゃない。
 本当は、胸の大小などで女性を評価する文化そのものが大嫌いだった。
 彼女は常に言っていた。
 “胸で判断する人間に、真実の美しさはわからない”とね」

「お母様が……そんなことを……?」

 知らなかった。
 本当に知らなかった。
 継母が支配する屋敷では、母のことを語る者は誰一人いなかった。

 胸の豊かな母だからこそ、多くの人に愛されたのだと思い込んでいた。

「あなたのお母様が最後まで嘆いていたこと……聞きたい?」

 アドラの声は、優しく、でも確かにシンディの心を震わせる響きだった。

「……聞きたいです」

 胸の奥がドクン、と鳴った。

 アドラは静かに頷くと、シンディの瞳を優しく覗き込むように言った。

「“この子が胸のことで苦しむ世界になりませんように”
 それが、お母様の最後の願いだったの」

 その瞬間、シンディの膝がまた軋むように震えた。

「……お母様……そんな……!
 私は……守ってあげられなかった……」

「違うわよ、シンディ。
 あなたはまだ、母の願いを叶えられる途中なの。
 願いは、終わりではなく始まりなのよ」

 アドラはそっとシンディの髪を撫でる。
 母の手に似ていて、胸がきゅっと締め付けられる。

「あなたは胸が小さいから価値がないんじゃない。
 胸が大きくないからこそ、この国に変化を起こせる力があるの」

「わたしに……力が……?」

「ええ。
 だけど、そのために――まずは、あなた自身が“本当の美しさ”を知らなければならない」

 アドラの瞳に、紫の光がゆっくりと浮かび上がる。

「シンディ。
 一晩だけ――あなたに奇跡を授けてあげる」

 その宣言が、廊下の空気を震わせた。
 薄暗い影が波紋のように広がり、シンディの周囲に光が集まり始める。

 シンディは息を呑んだ。

「奇跡……?」

「あなたを美しく飾り立て、胸だってあなたの願う形に整えてあげる。
 ただし――魔法は夜の12時まで。
 それまでに、“心を見てくれる誰か”を見つけること。
 それが、あなたに課す条件よ」

 シンディは震える声で訊ねた。

「私……そんなこと、できるでしょうか……」

 アドラは自信満々に微笑んだ。

「あなたならできるわ。
 胸なんて関係ない――あなたには、誰よりも美しい心がある。
 それを見抜く人間が、きっと舞踏会に現れるはずよ」

 そして、魔女はそっとシンディの手を取った。

「さあ。奇跡の時間を始めましょう――シンディ」
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