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第10話 つぶやきと静かなざわめき
しおりを挟む期末テストの成績発表から数日が経ち、学校は再びいつもの日常へと戻っていた。
しかし、クラスの空気にはどこか微妙な変化があった。
「……最近、都さんってちょっと変わったよね」
「うん、なんかこう……前より目立つようになったというか」
「まさか学年1位取るとは思わんかったな」
廊下の片隅で、誰かがそんな風につぶやいていた。
それは嫉妬や悪意ではなく、戸惑いと、少しの羨望。
以前のあずさは、“控えめで、優雅で、静かな人”だった。
けれど、今は違う。
話す声は変わらず丁寧だが、その芯には自信が宿っている。
隣にいる鸞と、肩を並べることを恐れなくなった。
だが、それは同時に、教室の“均衡”をわずかに揺らす。
昼休み。
教室の後ろで、数人の女子が小さな輪になっていた。
「鸞さんと都さん、最近ほんとに仲いいよね」
「もともと仲良かったけど……あれって、ただの友達?」
「なんかもう、特別って感じ。誰も入り込めない雰囲気っていうか」
そんな声が届く距離で、当のふたりは楽しそうに会話をしていた。
「なー、あずささん、次の休み、一緒に映画でも行かへん?」
「ええなぁ。洋画どすか?」
「もちろん字幕派やで。吹き替えは役者さん次第で違和感あるし」
「鸞さん、ナチュラルに評論家みたいなこと言わはる……」
クスクスと笑うふたりのやりとり。
だが、それを見ていた一部の生徒たちは、なぜか静かに視線をそらす。
(なんでやろ……あのふたり、見てると……なんか置いてかれる気ぃする)
そんな空気の中、静かに立ち上がったのは、クラス委員長の東條深雪だった。
「鸞さん、都さん。少しいいかしら」
「おっ、どしたん? 怒られるようなことしたっけ?」
「そうじゃないけど……ちょっとだけ」
深雪はふたりを教室の隅に呼び、周囲に聞こえない声で言った。
「あなたたちの仲がいいことに文句がある子はいないわ」
「でも、少しだけ“壁”を感じる子も出てきてるの。わかる?」
鸞はきょとんとした顔をした。
あずさは、少しだけ目を伏せた。
「……うちは、ただ、鸞さんと話すのが楽しくて」
「うちも別に他を避けとるつもりはないんやけどなぁ」
深雪は微笑んだ。
「わかってる。でも、ちょっとだけ意識してみて。たとえば、昼休みに他の子とも交えて会話するとか」
「……うん、そやな」
その日の午後。
鸞はふと、席を立ち、後ろの席の子に話しかけた。
「なあ、今度の課題、ちょっと相談してええ?」
「え、あ……う、うん! もちろん!」
そして、あずさもまた、隣のグループにお菓子を差し出して声をかけた。
「これ、家の近くの和菓子屋さんのどす。よければ、いかが?」
「……ありがと! 都さん、やっぱり上品~!」
その日、教室は久しぶりに全体で和やかに、笑い声が満ちた。
だが、鸞とあずさの間に流れる空気は、やはりどこか“特別”だった。
誰にも真似できないリズム、言葉、距離感。
それは、たとえ意識的に輪に入っても、変わらない。
――ふたりは、確かに“並んで”いた。
それぞれの言葉で、それぞれの存在で、
教室という世界の中に、新しい“中心”を築き始めていた。
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