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第17話 新しい役割
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第17話 新しい役割
アルグレイス城の朝は、今日も忙しく始まっていた。
兵士たちの訓練の声が城壁の向こうから聞こえてくる。
城の中では使用人たちが慌ただしく動き、厨房ではパンを焼く香りが漂っていた。
アルシェラ・ヴァルディアは図書室の窓際に座り、数枚の紙を並べていた。
羊毛の交易記録。
先日の農村代表との話から、彼女は資料を集めていたのだ。
「こちらでしたか」
静かな声がした。
振り向くと、執事オルドンが立っていた。
「おはようございます」
アルシェラは微笑む。
「おはようございます」
オルドンは机の上の紙を見た。
「交易の資料ですね」
「ええ」
アルシェラは頷く。
「少し気になりまして」
オルドンは穏やかに言う。
「昨日の商人の件でしょうか」
「はい」
アルシェラは資料をめくる。
「この領地の羊毛は、王都でも高級品です」
「ですが販路が限られている」
オルドンは頷く。
「その通りです」
アルシェラは言う。
「もし販路を二つに分ければ」
「価格を維持できます」
オルドンは少し驚いたようだった。
「かなり詳しく調べられましたね」
アルシェラは少し照れたように笑う。
「図書室に良い資料がありましたので」
その時、扉が開いた。
ヴァレリオン・アルグレイスが入ってくる。
黒い外套を肩にかけたままの姿。
どうやら朝の巡回を終えたばかりらしい。
彼は机の資料を見る。
「仕事中か」
アルシェラは慌てて立ち上がる。
「申し訳ありません」
「勝手に資料を……」
ヴァレリオンは首を振る。
「構わない」
そして椅子を引き、机の向かいに座った。
「何を見ている」
アルシェラは資料を差し出す。
「羊毛の交易です」
「少し考えたことがありまして」
ヴァレリオンは紙を見る。
しばらく沈黙。
そして言う。
「販路を分けるのか」
アルシェラは頷く。
「王都の市場は量を」
「隣国の市場は質を」
「役割を分ければ価格は安定します」
ヴァレリオンは資料を閉じた。
「理屈は通っている」
短い言葉。
だが否定ではない。
アルシェラは少しだけ安心する。
「ただ」
ヴァレリオンは続けた。
「輸送の問題がある」
アルシェラは頷く。
「はい」
「ですが隣国への交易路は、冬でも比較的安全です」
彼女は地図を指差す。
「この峠を使えば」
ヴァレリオンは少し目を細めた。
「よく調べたな」
アルシェラは微笑む。
「図書室のおかげです」
ヴァレリオンは少し考える。
そしてオルドンに言う。
「交易担当を呼べ」
「承知しました」
執事が出ていく。
アルシェラは少し戸惑う。
「公爵様」
「何だ」
「私の話は、ただの思いつきです」
ヴァレリオンは言う。
「それでも価値はある」
その言葉は静かだった。
だがはっきりしている。
アルシェラは少し驚いた。
王宮では違った。
令嬢の意見は、あまり真剣に聞かれない。
だがここでは違う。
ヴァレリオンは言う。
「この城では、役に立つ意見は使う」
それだけだった。
だがアルシェラには十分だった。
少しして、交易担当の男が呼ばれてきた。
ヴァレリオンは簡潔に言う。
「この案を検討しろ」
そして資料を渡す。
男は驚いた顔でアルシェラを見る。
「令嬢の案ですか」
ヴァレリオンは頷く。
「そうだ」
男は真剣な顔で資料を見る。
「……なるほど」
「面白いです」
アルシェラは少し戸惑う。
「本当に?」
男は頷く。
「はい」
「実現できるか調べます」
そして深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
男が去る。
図書室に静けさが戻る。
アルシェラは小さく息をついた。
「なんだか……」
「不思議な気分です」
ヴァレリオンが見る。
「何が」
アルシェラは言う。
「王宮では」
「私はただの婚約者でした」
「ここでは違う」
彼女は少し笑う。
「役割があるようです」
ヴァレリオンは短く答える。
「ある」
そして言った。
「君は役に立つ」
アルシェラは一瞬驚き、そして微笑んだ。
その時、北方の風が窓を揺らす。
城の外では、兵士の訓練の声が響いている。
王宮では終わったはずの人生。
だがここでは違う。
アルシェラは静かに思う。
もしかすると――
自分は今、初めて本当に必要とされているのかもしれない。
アルグレイス城の朝は、今日も忙しく始まっていた。
兵士たちの訓練の声が城壁の向こうから聞こえてくる。
城の中では使用人たちが慌ただしく動き、厨房ではパンを焼く香りが漂っていた。
アルシェラ・ヴァルディアは図書室の窓際に座り、数枚の紙を並べていた。
羊毛の交易記録。
先日の農村代表との話から、彼女は資料を集めていたのだ。
「こちらでしたか」
静かな声がした。
振り向くと、執事オルドンが立っていた。
「おはようございます」
アルシェラは微笑む。
「おはようございます」
オルドンは机の上の紙を見た。
「交易の資料ですね」
「ええ」
アルシェラは頷く。
「少し気になりまして」
オルドンは穏やかに言う。
「昨日の商人の件でしょうか」
「はい」
アルシェラは資料をめくる。
「この領地の羊毛は、王都でも高級品です」
「ですが販路が限られている」
オルドンは頷く。
「その通りです」
アルシェラは言う。
「もし販路を二つに分ければ」
「価格を維持できます」
オルドンは少し驚いたようだった。
「かなり詳しく調べられましたね」
アルシェラは少し照れたように笑う。
「図書室に良い資料がありましたので」
その時、扉が開いた。
ヴァレリオン・アルグレイスが入ってくる。
黒い外套を肩にかけたままの姿。
どうやら朝の巡回を終えたばかりらしい。
彼は机の資料を見る。
「仕事中か」
アルシェラは慌てて立ち上がる。
「申し訳ありません」
「勝手に資料を……」
ヴァレリオンは首を振る。
「構わない」
そして椅子を引き、机の向かいに座った。
「何を見ている」
アルシェラは資料を差し出す。
「羊毛の交易です」
「少し考えたことがありまして」
ヴァレリオンは紙を見る。
しばらく沈黙。
そして言う。
「販路を分けるのか」
アルシェラは頷く。
「王都の市場は量を」
「隣国の市場は質を」
「役割を分ければ価格は安定します」
ヴァレリオンは資料を閉じた。
「理屈は通っている」
短い言葉。
だが否定ではない。
アルシェラは少しだけ安心する。
「ただ」
ヴァレリオンは続けた。
「輸送の問題がある」
アルシェラは頷く。
「はい」
「ですが隣国への交易路は、冬でも比較的安全です」
彼女は地図を指差す。
「この峠を使えば」
ヴァレリオンは少し目を細めた。
「よく調べたな」
アルシェラは微笑む。
「図書室のおかげです」
ヴァレリオンは少し考える。
そしてオルドンに言う。
「交易担当を呼べ」
「承知しました」
執事が出ていく。
アルシェラは少し戸惑う。
「公爵様」
「何だ」
「私の話は、ただの思いつきです」
ヴァレリオンは言う。
「それでも価値はある」
その言葉は静かだった。
だがはっきりしている。
アルシェラは少し驚いた。
王宮では違った。
令嬢の意見は、あまり真剣に聞かれない。
だがここでは違う。
ヴァレリオンは言う。
「この城では、役に立つ意見は使う」
それだけだった。
だがアルシェラには十分だった。
少しして、交易担当の男が呼ばれてきた。
ヴァレリオンは簡潔に言う。
「この案を検討しろ」
そして資料を渡す。
男は驚いた顔でアルシェラを見る。
「令嬢の案ですか」
ヴァレリオンは頷く。
「そうだ」
男は真剣な顔で資料を見る。
「……なるほど」
「面白いです」
アルシェラは少し戸惑う。
「本当に?」
男は頷く。
「はい」
「実現できるか調べます」
そして深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
男が去る。
図書室に静けさが戻る。
アルシェラは小さく息をついた。
「なんだか……」
「不思議な気分です」
ヴァレリオンが見る。
「何が」
アルシェラは言う。
「王宮では」
「私はただの婚約者でした」
「ここでは違う」
彼女は少し笑う。
「役割があるようです」
ヴァレリオンは短く答える。
「ある」
そして言った。
「君は役に立つ」
アルシェラは一瞬驚き、そして微笑んだ。
その時、北方の風が窓を揺らす。
城の外では、兵士の訓練の声が響いている。
王宮では終わったはずの人生。
だがここでは違う。
アルシェラは静かに思う。
もしかすると――
自分は今、初めて本当に必要とされているのかもしれない。
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