15 / 31
第16話 妹の不安
しおりを挟む
第16話 妹の不安
王都ヴァルドール。
王宮の庭園は今日も美しく整えられていた。
白い石の噴水。
色とりどりの花壇。
整えられた並木道。
その中央を、ノエリア・ヴァルディアはゆっくり歩いていた。
純白のドレス。
王太子の婚約者にふさわしい華やかな姿。
だが彼女の表情は、どこか落ち着かなかった。
「ノエリア様」
後ろから侍女が声をかける。
「本日の茶会のお時間でございます」
ノエリアは小さく微笑む。
「ええ」
「すぐに参ります」
彼女は庭園の奥にある東屋へ向かう。
そこにはすでに数人の貴族令嬢が集まっていた。
王太子の婚約者との茶会。
王都では名誉な席だ。
「ノエリア様!」
「お待ちしておりました」
令嬢たちは一斉に立ち上がる。
ノエリアは優雅に微笑んだ。
「皆様、ごきげんよう」
茶会が始まる。
紅茶が注がれ、菓子が並ぶ。
最初は穏やかな会話だった。
舞踏会の話。
流行のドレス。
王宮の噂。
だがやがて、一人の令嬢が言った。
「そういえば」
「聞きましたわ」
ノエリアの手が、わずかに止まる。
「何を、でしょう?」
令嬢は扇を口元に当てた。
「アルシェラ様のことです」
その名前に、空気が少し変わる。
ノエリアは穏やかな笑顔を保つ。
「お姉様ですか」
「ええ」
別の令嬢が言う。
「北方のアルグレイス公爵城にいるとか」
「本当なのですか?」
ノエリアは一瞬だけ視線を下げた。
そして言う。
「そのようですね」
「お姉様も大変でしょうから……」
少し寂しそうな声。
完璧な妹の演技だった。
令嬢たちは同情する。
「ノエリア様はお優しい」
「普通なら怒ってもいいのに」
「婚約を奪われたと恨まれても仕方ないのに」
ノエリアは慌てたように首を振る。
「そんなことありません」
「お姉様は……」
言葉を選ぶ。
「とても優秀な方です」
令嬢たちは顔を見合わせた。
一人が言う。
「ですが」
「相手はアルグレイス公爵でしょう?」
「噂ではかなり恐ろしい方とか」
別の令嬢が頷く。
「冷酷で有名ですわ」
「戦争でも容赦がないとか」
「そんな方の城にいるなんて……」
ノエリアは紅茶を口に運ぶ。
手が少し震えていた。
アルグレイス公爵。
その名前は、王都でも恐れられている。
貴族ですら近寄らない人物。
そんな男が。
なぜアルシェラを城に迎えたのか。
それが分からない。
令嬢の一人が言う。
「でも不思議ですわね」
「どうして公爵様がアルシェラ様を?」
別の令嬢が笑う。
「美しい方ですもの」
「公爵様も興味を持ったのでは?」
軽い冗談。
だがその言葉に、ノエリアの胸が少しざわつく。
彼女はすぐに微笑む。
「お姉様は魅力的な方ですから」
「きっとそうかもしれません」
だが内心では違う。
(そんなはずない)
アルシェラは社交界から追い出された。
もう終わった存在。
そう思っていた。
だが今は違う。
アルグレイス公爵。
その存在は王国でも特別だ。
もし彼が本気でアルシェラを庇えば――
ノエリアは考えるのをやめた。
(ありえない)
そう思い込む。
その時、侍女が近づいてきた。
「ノエリア様」
「王太子殿下がお呼びでございます」
ノエリアは立ち上がる。
「すぐに参ります」
茶会の令嬢たちに微笑む。
「失礼いたします」
彼女は庭園を後にする。
だが歩きながら、心の中で思う。
(どうして)
アルシェラはいつもそうだった。
何も言わない。
反論もしない。
ただ静かに立っている。
それなのに。
なぜか最後には、すべてが彼女に有利になる。
ノエリアは拳を握る。
(今度は違う)
王太子の婚約者は自分だ。
王都も社交界も、自分の味方。
アルシェラにはもう何もない。
そう思う。
だがその時、風が吹いた。
王宮の旗が揺れる。
ノエリアはふと立ち止まる。
そして小さく呟く。
「……本当に?」
その疑問は、誰にも聞こえなかった。
王都ヴァルドール。
王宮の庭園は今日も美しく整えられていた。
白い石の噴水。
色とりどりの花壇。
整えられた並木道。
その中央を、ノエリア・ヴァルディアはゆっくり歩いていた。
純白のドレス。
王太子の婚約者にふさわしい華やかな姿。
だが彼女の表情は、どこか落ち着かなかった。
「ノエリア様」
後ろから侍女が声をかける。
「本日の茶会のお時間でございます」
ノエリアは小さく微笑む。
「ええ」
「すぐに参ります」
彼女は庭園の奥にある東屋へ向かう。
そこにはすでに数人の貴族令嬢が集まっていた。
王太子の婚約者との茶会。
王都では名誉な席だ。
「ノエリア様!」
「お待ちしておりました」
令嬢たちは一斉に立ち上がる。
ノエリアは優雅に微笑んだ。
「皆様、ごきげんよう」
茶会が始まる。
紅茶が注がれ、菓子が並ぶ。
最初は穏やかな会話だった。
舞踏会の話。
流行のドレス。
王宮の噂。
だがやがて、一人の令嬢が言った。
「そういえば」
「聞きましたわ」
ノエリアの手が、わずかに止まる。
「何を、でしょう?」
令嬢は扇を口元に当てた。
「アルシェラ様のことです」
その名前に、空気が少し変わる。
ノエリアは穏やかな笑顔を保つ。
「お姉様ですか」
「ええ」
別の令嬢が言う。
「北方のアルグレイス公爵城にいるとか」
「本当なのですか?」
ノエリアは一瞬だけ視線を下げた。
そして言う。
「そのようですね」
「お姉様も大変でしょうから……」
少し寂しそうな声。
完璧な妹の演技だった。
令嬢たちは同情する。
「ノエリア様はお優しい」
「普通なら怒ってもいいのに」
「婚約を奪われたと恨まれても仕方ないのに」
ノエリアは慌てたように首を振る。
「そんなことありません」
「お姉様は……」
言葉を選ぶ。
「とても優秀な方です」
令嬢たちは顔を見合わせた。
一人が言う。
「ですが」
「相手はアルグレイス公爵でしょう?」
「噂ではかなり恐ろしい方とか」
別の令嬢が頷く。
「冷酷で有名ですわ」
「戦争でも容赦がないとか」
「そんな方の城にいるなんて……」
ノエリアは紅茶を口に運ぶ。
手が少し震えていた。
アルグレイス公爵。
その名前は、王都でも恐れられている。
貴族ですら近寄らない人物。
そんな男が。
なぜアルシェラを城に迎えたのか。
それが分からない。
令嬢の一人が言う。
「でも不思議ですわね」
「どうして公爵様がアルシェラ様を?」
別の令嬢が笑う。
「美しい方ですもの」
「公爵様も興味を持ったのでは?」
軽い冗談。
だがその言葉に、ノエリアの胸が少しざわつく。
彼女はすぐに微笑む。
「お姉様は魅力的な方ですから」
「きっとそうかもしれません」
だが内心では違う。
(そんなはずない)
アルシェラは社交界から追い出された。
もう終わった存在。
そう思っていた。
だが今は違う。
アルグレイス公爵。
その存在は王国でも特別だ。
もし彼が本気でアルシェラを庇えば――
ノエリアは考えるのをやめた。
(ありえない)
そう思い込む。
その時、侍女が近づいてきた。
「ノエリア様」
「王太子殿下がお呼びでございます」
ノエリアは立ち上がる。
「すぐに参ります」
茶会の令嬢たちに微笑む。
「失礼いたします」
彼女は庭園を後にする。
だが歩きながら、心の中で思う。
(どうして)
アルシェラはいつもそうだった。
何も言わない。
反論もしない。
ただ静かに立っている。
それなのに。
なぜか最後には、すべてが彼女に有利になる。
ノエリアは拳を握る。
(今度は違う)
王太子の婚約者は自分だ。
王都も社交界も、自分の味方。
アルシェラにはもう何もない。
そう思う。
だがその時、風が吹いた。
王宮の旗が揺れる。
ノエリアはふと立ち止まる。
そして小さく呟く。
「……本当に?」
その疑問は、誰にも聞こえなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい
神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。
嘘でしょう。
その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。
そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。
「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」
もう誰かが護ってくれるなんて思わない。
ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。
だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。
「ぜひ辺境へ来て欲しい」
※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m
総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ ありがとうございます<(_ _)>
覚悟はありますか?
翔王(とわ)
恋愛
私は王太子の婚約者として10年以上すぎ、王太子妃教育も終わり、学園卒業後に結婚し王妃教育が始まる間近に1人の令嬢が発した言葉で王族貴族社会が荒れた……。
「あたし、王太子妃になりたいんですぅ。」
ご都合主義な創作作品です。
異世界版ギャル風な感じの話し方も混じりますのでご了承ください。
恋愛カテゴリーにしてますが、恋愛要素は薄めです。
婚約破棄で見限られたもの
志位斗 茂家波
恋愛
‥‥‥ミアス・フォン・レーラ侯爵令嬢は、パスタリアン王国の王子から婚約破棄を言い渡され、ありもしない冤罪を言われ、彼女は国外へ追放されてしまう。
すでにその国を見限っていた彼女は、これ幸いとばかりに別の国でやりたかったことを始めるのだが‥‥‥
よくある婚約破棄ざまぁもの?思い付きと勢いだけでなぜか出来上がってしまった。
【完結】この運命を受け入れましょうか
なか
恋愛
「君のようは妃は必要ない。ここで廃妃を宣言する」
自らの夫であるルーク陛下の言葉。
それに対して、ヴィオラ・カトレアは余裕に満ちた微笑みで答える。
「承知しました。受け入れましょう」
ヴィオラにはもう、ルークへの愛など残ってすらいない。
彼女が王妃として支えてきた献身の中で、平民生まれのリアという女性に入れ込んだルーク。
みっともなく、情けない彼に対して恋情など抱く事すら不快だ。
だが聖女の素養を持つリアを、ルークは寵愛する。
そして貴族達も、莫大な益を生み出す聖女を妃に仕立てるため……ヴィオラへと無実の罪を被せた。
あっけなく信じるルークに呆れつつも、ヴィオラに不安はなかった。
これからの顛末も、打開策も全て知っているからだ。
前世の記憶を持ち、ここが物語の世界だと知るヴィオラは……悲運な運命を受け入れて彼らに意趣返す。
ふりかかる不幸を全て覆して、幸せな人生を歩むため。
◇◇◇◇◇
設定は甘め。
不安のない、さっくり読める物語を目指してます。
良ければ読んでくだされば、嬉しいです。
婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません
黒木 楓
恋愛
子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。
激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。
婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。
婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。
翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」
物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。
★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位
2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位
2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位
2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位
2023/01/08……完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる