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第14話 北方の城
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第14話 北方の城
アルグレイス城の朝は、今日も冷たい空気に包まれていた。
北方の空は高く、風は鋭い。
城の石壁は厚く、冬の寒さにも耐える造りになっている。
アルシェラ・ヴァルディアは窓の外を眺めていた。
遠くに広がる草原。
さらにその向こうには、淡い山脈の影。
王都とはまったく違う景色だった。
「慣れましたか」
後ろから声がした。
振り向くと、ヴァレリオン・アルグレイスが立っていた。
アルシェラは微笑む。
「はい」
「思ったより、静かな場所ですね」
ヴァレリオンは窓の外を見る。
「何もない土地だからな」
簡潔な言葉。
だがアルシェラは首を振った。
「いいえ」
「何もないわけではありません」
彼女は草原を見る。
「この土地には、人の生活があります」
「王都より、ずっと分かりやすい」
ヴァレリオンは少しだけ目を細めた。
「王都は嫌いか」
アルシェラは少し考える。
そして言う。
「嫌いではありません」
「ですが、少し疲れる場所でした」
それは本音だった。
王宮の生活は常に緊張の連続だ。
視線。
噂。
政治。
そのすべてが絡み合う。
ヴァレリオンは言う。
「ここでは必要ない」
アルシェラは微笑む。
「そうですね」
少しの沈黙。
その時、執事オルドンが扉を叩いた。
「公爵様」
「何だ」
「領地の代表者が到着しております」
ヴァレリオンは頷く。
「通せ」
アルシェラは少し下がろうとする。
だがヴァレリオンは言った。
「そのままでいい」
「え?」
「見ておくといい」
彼の言葉は短い。
だが意味ははっきりしていた。
アルシェラは客人だ。
そしてこの城では、隠すことはない。
少しして扉が開く。
入ってきたのは三人の男だった。
農村の代表。
毛皮の外套を着ている。
彼らはヴァレリオンを見ると、すぐに頭を下げた。
「公爵様」
「顔を上げろ」
ヴァレリオンは椅子に座る。
「話を聞く」
男の一人が前に出た。
「今年の羊毛ですが」
「南の商人が値を下げてきました」
ヴァレリオンは腕を組む。
「理由は」
「南の領地で新しい牧場が増えたそうです」
アルシェラは静かに聞いていた。
それは先日読んだ本の内容と似ている。
北方の羊毛。
それはこの領地の重要な産物だ。
ヴァレリオンは短く言う。
「どの程度下げた」
「二割ほどです」
部屋が少し静かになる。
二割は小さくない。
代表の男が続ける。
「このままでは村の収入が……」
ヴァレリオンは少し考えた。
その時。
アルシェラが静かに言った。
「失礼ですが」
部屋の視線が一斉に彼女へ向く。
農民たちは少し驚いた。
貴族令嬢がこの話に口を出すとは思わなかったからだ。
ヴァレリオンは言う。
「続けろ」
アルシェラはゆっくり話す。
「南が増産したなら、価格は下がります」
「ですが」
彼女は言った。
「北方の羊毛は質が高い」
農民たちは顔を見合わせる。
アルシェラは続ける。
「同じ市場で売る必要はありません」
「例えば」
「王都の高級織物商」
「あるいは隣国の工房」
「高品質を求める場所なら、価格は維持できます」
代表の男が驚く。
「隣国ですか」
アルシェラは頷く。
「輸送は大変ですが」
「価値はあります」
ヴァレリオンは彼女を見ていた。
そして農民たちに言う。
「聞いた通りだ」
「交易商を調べろ」
「南の市場だけに頼るな」
農民たちは頭を下げる。
「承知しました!」
そして部屋を出ていく。
扉が閉まる。
静かな空気が戻る。
アルシェラは少し困った顔をする。
「出過ぎた真似でしたでしょうか」
ヴァレリオンは首を振る。
「いや」
そして言った。
「役に立つ」
アルシェラは少し驚く。
ヴァレリオンは続けた。
「王太子妃教育は無駄ではなかったな」
その言葉には、わずかな皮肉が含まれていた。
アルシェラは小さく笑う。
「そうですね」
そして窓の外を見る。
北方の空は青く広がっている。
王都では、もう自分の居場所はないと思っていた。
だが今は違う。
ここには仕事がある。
人がいる。
そして――
この城の主は、彼女を追い出そうとはしない。
ヴァレリオンはアルシェラを見る。
そして静かに思う。
この令嬢は。
王宮が手放していい人物ではなかった。
アルグレイス城の朝は、今日も冷たい空気に包まれていた。
北方の空は高く、風は鋭い。
城の石壁は厚く、冬の寒さにも耐える造りになっている。
アルシェラ・ヴァルディアは窓の外を眺めていた。
遠くに広がる草原。
さらにその向こうには、淡い山脈の影。
王都とはまったく違う景色だった。
「慣れましたか」
後ろから声がした。
振り向くと、ヴァレリオン・アルグレイスが立っていた。
アルシェラは微笑む。
「はい」
「思ったより、静かな場所ですね」
ヴァレリオンは窓の外を見る。
「何もない土地だからな」
簡潔な言葉。
だがアルシェラは首を振った。
「いいえ」
「何もないわけではありません」
彼女は草原を見る。
「この土地には、人の生活があります」
「王都より、ずっと分かりやすい」
ヴァレリオンは少しだけ目を細めた。
「王都は嫌いか」
アルシェラは少し考える。
そして言う。
「嫌いではありません」
「ですが、少し疲れる場所でした」
それは本音だった。
王宮の生活は常に緊張の連続だ。
視線。
噂。
政治。
そのすべてが絡み合う。
ヴァレリオンは言う。
「ここでは必要ない」
アルシェラは微笑む。
「そうですね」
少しの沈黙。
その時、執事オルドンが扉を叩いた。
「公爵様」
「何だ」
「領地の代表者が到着しております」
ヴァレリオンは頷く。
「通せ」
アルシェラは少し下がろうとする。
だがヴァレリオンは言った。
「そのままでいい」
「え?」
「見ておくといい」
彼の言葉は短い。
だが意味ははっきりしていた。
アルシェラは客人だ。
そしてこの城では、隠すことはない。
少しして扉が開く。
入ってきたのは三人の男だった。
農村の代表。
毛皮の外套を着ている。
彼らはヴァレリオンを見ると、すぐに頭を下げた。
「公爵様」
「顔を上げろ」
ヴァレリオンは椅子に座る。
「話を聞く」
男の一人が前に出た。
「今年の羊毛ですが」
「南の商人が値を下げてきました」
ヴァレリオンは腕を組む。
「理由は」
「南の領地で新しい牧場が増えたそうです」
アルシェラは静かに聞いていた。
それは先日読んだ本の内容と似ている。
北方の羊毛。
それはこの領地の重要な産物だ。
ヴァレリオンは短く言う。
「どの程度下げた」
「二割ほどです」
部屋が少し静かになる。
二割は小さくない。
代表の男が続ける。
「このままでは村の収入が……」
ヴァレリオンは少し考えた。
その時。
アルシェラが静かに言った。
「失礼ですが」
部屋の視線が一斉に彼女へ向く。
農民たちは少し驚いた。
貴族令嬢がこの話に口を出すとは思わなかったからだ。
ヴァレリオンは言う。
「続けろ」
アルシェラはゆっくり話す。
「南が増産したなら、価格は下がります」
「ですが」
彼女は言った。
「北方の羊毛は質が高い」
農民たちは顔を見合わせる。
アルシェラは続ける。
「同じ市場で売る必要はありません」
「例えば」
「王都の高級織物商」
「あるいは隣国の工房」
「高品質を求める場所なら、価格は維持できます」
代表の男が驚く。
「隣国ですか」
アルシェラは頷く。
「輸送は大変ですが」
「価値はあります」
ヴァレリオンは彼女を見ていた。
そして農民たちに言う。
「聞いた通りだ」
「交易商を調べろ」
「南の市場だけに頼るな」
農民たちは頭を下げる。
「承知しました!」
そして部屋を出ていく。
扉が閉まる。
静かな空気が戻る。
アルシェラは少し困った顔をする。
「出過ぎた真似でしたでしょうか」
ヴァレリオンは首を振る。
「いや」
そして言った。
「役に立つ」
アルシェラは少し驚く。
ヴァレリオンは続けた。
「王太子妃教育は無駄ではなかったな」
その言葉には、わずかな皮肉が含まれていた。
アルシェラは小さく笑う。
「そうですね」
そして窓の外を見る。
北方の空は青く広がっている。
王都では、もう自分の居場所はないと思っていた。
だが今は違う。
ここには仕事がある。
人がいる。
そして――
この城の主は、彼女を追い出そうとはしない。
ヴァレリオンはアルシェラを見る。
そして静かに思う。
この令嬢は。
王宮が手放していい人物ではなかった。
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