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第13話 王太子の不快
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第13話 王太子の不快
王宮の執務室。
厚い絨毯が敷かれ、壁には豪華な装飾が並ぶ。
その中央で、王太子アドリアン・ルミナスは苛立った様子で書簡を机に叩きつけた。
「ふざけている」
短く吐き捨てる。
机の向こうに立っていた書記官が、びくりと肩を震わせた。
「殿下……」
「何が客人だ」
アドリアンは書簡を指で叩く。
「アルグレイス公爵は私を侮辱しているのか?」
書簡には、簡潔な返答しか書かれていなかった。
『アルシェラ・ヴァルディアは客人として迎えている。問題があるとは思えない。
アルグレイス公爵 ヴァレリオン』
それだけだった。
丁寧な言葉だが、実質は拒絶だ。
王太子の命令を無視している。
アドリアンは椅子に深く座り、腕を組む。
「公爵風情が……」
低い声で言う。
アルグレイス公爵は、王国でも屈指の領主だ。
だがそれでも王族ではない。
普通の貴族なら、王太子の書簡にはもっと慎重に答える。
だがヴァレリオンは違う。
あの男は昔から王宮に従順ではない。
それがアドリアンは気に入らなかった。
「殿下」
静かな声がした。
部屋の隅に立っていた宰相が口を開く。
老練な政治家、バルトロメイ宰相だった。
「何だ」
アドリアンは不機嫌そうに言う。
「アルグレイス公爵は、元々王宮に干渉されるのを嫌う人物です」
「だから何だ」
「今回も同じことでしょう」
宰相は落ち着いて言う。
「客人として迎えた。それだけです」
アドリアンは机を叩く。
「それが問題なのだ!」
声が大きくなる。
「アルシェラは私の元婚約者だ!」
「その女を公爵城に迎えるなど、明らかに私への挑発だ!」
宰相は黙って聞いている。
そしてゆっくり言った。
「殿下」
「公爵城に客人として迎えること自体は、法律上問題ありません」
「それが王太子の元婚約者であっても、です」
アドリアンは苛立つ。
「法律の話ではない!」
「体面の問題だ!」
その言葉に、宰相は小さく息をつく。
確かに体面は重要だ。
だがそれは、王太子自身が壊したものでもある。
婚約破棄を公の場で宣言したのは、他でもないアドリアンだ。
宰相はそれを言わない。
代わりに言葉を選ぶ。
「殿下」
「アルグレイス公爵は強力な領主です」
「不用意に対立するべき相手ではありません」
アドリアンは顔をしかめる。
「脅しているのか」
「いいえ」
宰相は静かに答える。
「ただの事実です」
少しの沈黙。
その時、扉が軽く叩かれた。
「失礼いたします」
入ってきたのは侍女だった。
そしてその後ろから、白いドレスの少女が姿を見せる。
ノエリア・ヴァルディア。
彼女は優しく微笑んでいた。
「殿下」
柔らかな声。
「お仕事中でしたか」
アドリアンの表情が少し緩む。
「ノエリア」
「大したことではない」
彼は椅子から立ち上がる。
「少し面倒な書簡が来ただけだ」
ノエリアは首を傾げる。
「書簡?」
アドリアンは少し迷ったが、すぐに言った。
「アルグレイス公爵だ」
その名前に、ノエリアの瞳が一瞬だけ揺れる。
だがすぐに微笑む。
「まあ」
「北方の公爵様ですね」
アドリアンは頷く。
「アルシェラを城に迎えたらしい」
ノエリアは驚いたような表情を作る。
「お姉様を?」
小さく手を口元に当てる。
「それは……良かったです」
アドリアンは眉をひそめる。
「良かった?」
ノエリアは頷く。
「はい」
「お姉様、一人でいるのは寂しいと思いますから」
優しい声。
完璧な妹の演技。
宰相はその様子を静かに観察していた。
ノエリアは続ける。
「公爵様が助けてくださったなら、安心です」
だがその瞬間。
彼女の指先はわずかに震えていた。
アルグレイス公爵。
その名は社交界でも有名だ。
冷酷。
無慈悲。
そして――
王国でも最も危険な男の一人。
ノエリアは内心で思う。
(なぜ……)
アルシェラはもう終わったはずだった。
社交界から追い出された。
誰も味方はいない。
そう思っていた。
だが違う。
(どうしてあの男が……)
ヴァレリオン・アルグレイス。
彼が動く理由が分からない。
そのことが、ノエリアを少しだけ不安にさせていた。
アドリアンは気付かない。
彼は不機嫌そうに言う。
「いずれ戻ってくるだろう」
「アルグレイス城など長くいられる場所ではない」
ノエリアは微笑む。
「そうですね」
だが心の中では思っていた。
(本当に……?)
王宮の窓の外で、風が強く吹く。
王都の空は穏やかだった。
だがその裏で、ゆっくりと何かが動き始めていた。
王宮の執務室。
厚い絨毯が敷かれ、壁には豪華な装飾が並ぶ。
その中央で、王太子アドリアン・ルミナスは苛立った様子で書簡を机に叩きつけた。
「ふざけている」
短く吐き捨てる。
机の向こうに立っていた書記官が、びくりと肩を震わせた。
「殿下……」
「何が客人だ」
アドリアンは書簡を指で叩く。
「アルグレイス公爵は私を侮辱しているのか?」
書簡には、簡潔な返答しか書かれていなかった。
『アルシェラ・ヴァルディアは客人として迎えている。問題があるとは思えない。
アルグレイス公爵 ヴァレリオン』
それだけだった。
丁寧な言葉だが、実質は拒絶だ。
王太子の命令を無視している。
アドリアンは椅子に深く座り、腕を組む。
「公爵風情が……」
低い声で言う。
アルグレイス公爵は、王国でも屈指の領主だ。
だがそれでも王族ではない。
普通の貴族なら、王太子の書簡にはもっと慎重に答える。
だがヴァレリオンは違う。
あの男は昔から王宮に従順ではない。
それがアドリアンは気に入らなかった。
「殿下」
静かな声がした。
部屋の隅に立っていた宰相が口を開く。
老練な政治家、バルトロメイ宰相だった。
「何だ」
アドリアンは不機嫌そうに言う。
「アルグレイス公爵は、元々王宮に干渉されるのを嫌う人物です」
「だから何だ」
「今回も同じことでしょう」
宰相は落ち着いて言う。
「客人として迎えた。それだけです」
アドリアンは机を叩く。
「それが問題なのだ!」
声が大きくなる。
「アルシェラは私の元婚約者だ!」
「その女を公爵城に迎えるなど、明らかに私への挑発だ!」
宰相は黙って聞いている。
そしてゆっくり言った。
「殿下」
「公爵城に客人として迎えること自体は、法律上問題ありません」
「それが王太子の元婚約者であっても、です」
アドリアンは苛立つ。
「法律の話ではない!」
「体面の問題だ!」
その言葉に、宰相は小さく息をつく。
確かに体面は重要だ。
だがそれは、王太子自身が壊したものでもある。
婚約破棄を公の場で宣言したのは、他でもないアドリアンだ。
宰相はそれを言わない。
代わりに言葉を選ぶ。
「殿下」
「アルグレイス公爵は強力な領主です」
「不用意に対立するべき相手ではありません」
アドリアンは顔をしかめる。
「脅しているのか」
「いいえ」
宰相は静かに答える。
「ただの事実です」
少しの沈黙。
その時、扉が軽く叩かれた。
「失礼いたします」
入ってきたのは侍女だった。
そしてその後ろから、白いドレスの少女が姿を見せる。
ノエリア・ヴァルディア。
彼女は優しく微笑んでいた。
「殿下」
柔らかな声。
「お仕事中でしたか」
アドリアンの表情が少し緩む。
「ノエリア」
「大したことではない」
彼は椅子から立ち上がる。
「少し面倒な書簡が来ただけだ」
ノエリアは首を傾げる。
「書簡?」
アドリアンは少し迷ったが、すぐに言った。
「アルグレイス公爵だ」
その名前に、ノエリアの瞳が一瞬だけ揺れる。
だがすぐに微笑む。
「まあ」
「北方の公爵様ですね」
アドリアンは頷く。
「アルシェラを城に迎えたらしい」
ノエリアは驚いたような表情を作る。
「お姉様を?」
小さく手を口元に当てる。
「それは……良かったです」
アドリアンは眉をひそめる。
「良かった?」
ノエリアは頷く。
「はい」
「お姉様、一人でいるのは寂しいと思いますから」
優しい声。
完璧な妹の演技。
宰相はその様子を静かに観察していた。
ノエリアは続ける。
「公爵様が助けてくださったなら、安心です」
だがその瞬間。
彼女の指先はわずかに震えていた。
アルグレイス公爵。
その名は社交界でも有名だ。
冷酷。
無慈悲。
そして――
王国でも最も危険な男の一人。
ノエリアは内心で思う。
(なぜ……)
アルシェラはもう終わったはずだった。
社交界から追い出された。
誰も味方はいない。
そう思っていた。
だが違う。
(どうしてあの男が……)
ヴァレリオン・アルグレイス。
彼が動く理由が分からない。
そのことが、ノエリアを少しだけ不安にさせていた。
アドリアンは気付かない。
彼は不機嫌そうに言う。
「いずれ戻ってくるだろう」
「アルグレイス城など長くいられる場所ではない」
ノエリアは微笑む。
「そうですね」
だが心の中では思っていた。
(本当に……?)
王宮の窓の外で、風が強く吹く。
王都の空は穏やかだった。
だがその裏で、ゆっくりと何かが動き始めていた。
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