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第20話 動き出す王宮
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第20話 動き出す王宮
王宮の執務室には、重い沈黙が流れていた。
机の上には数枚の報告書。
王都の商会からの書簡。
北方交易の報告。
そして――アルグレイス領の市場情報。
王太子アドリアン・ルミナスは、その書類を睨みつけていた。
「……また上がったのか」
低い声。
書記官が答える。
「はい、殿下」
「羊毛の価格がさらに上昇しています」
「王都の商会が契約条件を変更するよう動いております」
アドリアンは机を叩いた。
「ふざけている」
苛立ちが隠せない。
「たかが北方の領地だ」
「どうして王都の市場が振り回される」
書記官は答えに困る。
だが部屋の奥に立つ宰相バルトロメイが静かに言った。
「市場は利益に動きます」
アドリアンは振り向く。
「つまり?」
宰相は淡々と続ける。
「アルグレイス領の羊毛は、今、利益が出る商品になっている」
「それだけのことです」
アドリアンは舌打ちする。
「原因は分かっている」
宰相は黙る。
アドリアンは机の書類を指差す。
「アルシェラだ」
その名前が部屋に落ちる。
書記官が少し顔を上げた。
アドリアンは言う。
「あの女は王宮教育を受けている」
「交易、外交、財政」
「すべて学んでいた」
彼は苛立ったように言う。
「つまり今、公爵の商売を助けている」
宰相は静かに答える。
「可能性はあります」
アドリアンは笑った。
だがそれは怒りの笑いだった。
「可能性?」
「間違いない」
彼は言う。
「あの女は昔からそうだ」
「何も言わない」
「だが気付けば結果を出している」
その言葉は、ある意味で正確だった。
宰相は少しだけ目を細める。
アドリアンは続ける。
「問題はそこではない」
「問題は」
彼は言葉を強める。
「アルグレイス公爵がそれを許していることだ」
部屋が静かになる。
それが本質だった。
ヴァレリオン・アルグレイス。
北方最大の領主。
軍事力、経済力、領民の支持。
どれを取っても王国でも特別な存在。
そして――
簡単に従う男ではない。
宰相は言う。
「公爵が誰を客人として迎えるかは、領主の自由です」
アドリアンは睨む。
「法律の話ではない」
「政治の話だ」
彼は椅子から立ち上がる。
「アルシェラは私の元婚約者だ」
「その女が他の公爵の城で働いている」
「それを放置すればどう見える?」
宰相は答えない。
だが答えは分かっている。
王宮が有能な人材を追い出した。
そう見える。
それは王太子にとって、かなり都合が悪い。
その時だった。
扉がノックされる。
「失礼いたします」
入ってきたのは侍女。
そしてその後ろから、ノエリアが姿を見せた。
白いドレス。
優しい笑顔。
「殿下」
「お仕事中でしたか」
アドリアンの表情が少し和らぐ。
「ノエリア」
「どうした」
ノエリアは少し心配そうに言う。
「北方の噂を聞きました」
宰相は静かに彼女を見る。
ノエリアは続ける。
「お姉様が、公爵様のお仕事を手伝っているとか」
アドリアンは不機嫌そうに言う。
「そうらしい」
ノエリアは小さくため息をつく。
「お姉様は昔から優秀でした」
「きっと公爵様も助かっているでしょう」
優しい声。
だが宰相は気付いていた。
彼女の言葉には、わずかな誘導がある。
アドリアンは言う。
「だから問題なのだ」
ノエリアは首を傾げる。
「問題……ですか?」
アドリアンは言う。
「公爵の力が強くなる」
「それは王宮にとって面白くない」
ノエリアは少し考える。
そして静かに言った。
「では」
「お姉様を呼び戻しては?」
部屋が一瞬静かになる。
アドリアンは眉を上げた。
「呼び戻す?」
ノエリアは優しく言う。
「はい」
「王都に戻れば、噂も落ち着きます」
そして続ける。
「お姉様も、きっと王宮のために働きたいと思っているはずです」
その言葉は穏やかだった。
だが宰相は分かっていた。
これは提案ではない。
策略だ。
アルシェラを王都に戻す。
そうすれば――
再び社交界の争いの中に戻せる。
アドリアンは少し考える。
そして言った。
「……なるほど」
その目に、少し興味が浮かぶ。
「呼び戻すか」
宰相は内心で小さく息をついた。
王宮が動き始めた。
それはつまり――
北方の静かな時間が、終わりに近づいているということだった。
王宮の執務室には、重い沈黙が流れていた。
机の上には数枚の報告書。
王都の商会からの書簡。
北方交易の報告。
そして――アルグレイス領の市場情報。
王太子アドリアン・ルミナスは、その書類を睨みつけていた。
「……また上がったのか」
低い声。
書記官が答える。
「はい、殿下」
「羊毛の価格がさらに上昇しています」
「王都の商会が契約条件を変更するよう動いております」
アドリアンは机を叩いた。
「ふざけている」
苛立ちが隠せない。
「たかが北方の領地だ」
「どうして王都の市場が振り回される」
書記官は答えに困る。
だが部屋の奥に立つ宰相バルトロメイが静かに言った。
「市場は利益に動きます」
アドリアンは振り向く。
「つまり?」
宰相は淡々と続ける。
「アルグレイス領の羊毛は、今、利益が出る商品になっている」
「それだけのことです」
アドリアンは舌打ちする。
「原因は分かっている」
宰相は黙る。
アドリアンは机の書類を指差す。
「アルシェラだ」
その名前が部屋に落ちる。
書記官が少し顔を上げた。
アドリアンは言う。
「あの女は王宮教育を受けている」
「交易、外交、財政」
「すべて学んでいた」
彼は苛立ったように言う。
「つまり今、公爵の商売を助けている」
宰相は静かに答える。
「可能性はあります」
アドリアンは笑った。
だがそれは怒りの笑いだった。
「可能性?」
「間違いない」
彼は言う。
「あの女は昔からそうだ」
「何も言わない」
「だが気付けば結果を出している」
その言葉は、ある意味で正確だった。
宰相は少しだけ目を細める。
アドリアンは続ける。
「問題はそこではない」
「問題は」
彼は言葉を強める。
「アルグレイス公爵がそれを許していることだ」
部屋が静かになる。
それが本質だった。
ヴァレリオン・アルグレイス。
北方最大の領主。
軍事力、経済力、領民の支持。
どれを取っても王国でも特別な存在。
そして――
簡単に従う男ではない。
宰相は言う。
「公爵が誰を客人として迎えるかは、領主の自由です」
アドリアンは睨む。
「法律の話ではない」
「政治の話だ」
彼は椅子から立ち上がる。
「アルシェラは私の元婚約者だ」
「その女が他の公爵の城で働いている」
「それを放置すればどう見える?」
宰相は答えない。
だが答えは分かっている。
王宮が有能な人材を追い出した。
そう見える。
それは王太子にとって、かなり都合が悪い。
その時だった。
扉がノックされる。
「失礼いたします」
入ってきたのは侍女。
そしてその後ろから、ノエリアが姿を見せた。
白いドレス。
優しい笑顔。
「殿下」
「お仕事中でしたか」
アドリアンの表情が少し和らぐ。
「ノエリア」
「どうした」
ノエリアは少し心配そうに言う。
「北方の噂を聞きました」
宰相は静かに彼女を見る。
ノエリアは続ける。
「お姉様が、公爵様のお仕事を手伝っているとか」
アドリアンは不機嫌そうに言う。
「そうらしい」
ノエリアは小さくため息をつく。
「お姉様は昔から優秀でした」
「きっと公爵様も助かっているでしょう」
優しい声。
だが宰相は気付いていた。
彼女の言葉には、わずかな誘導がある。
アドリアンは言う。
「だから問題なのだ」
ノエリアは首を傾げる。
「問題……ですか?」
アドリアンは言う。
「公爵の力が強くなる」
「それは王宮にとって面白くない」
ノエリアは少し考える。
そして静かに言った。
「では」
「お姉様を呼び戻しては?」
部屋が一瞬静かになる。
アドリアンは眉を上げた。
「呼び戻す?」
ノエリアは優しく言う。
「はい」
「王都に戻れば、噂も落ち着きます」
そして続ける。
「お姉様も、きっと王宮のために働きたいと思っているはずです」
その言葉は穏やかだった。
だが宰相は分かっていた。
これは提案ではない。
策略だ。
アルシェラを王都に戻す。
そうすれば――
再び社交界の争いの中に戻せる。
アドリアンは少し考える。
そして言った。
「……なるほど」
その目に、少し興味が浮かぶ。
「呼び戻すか」
宰相は内心で小さく息をついた。
王宮が動き始めた。
それはつまり――
北方の静かな時間が、終わりに近づいているということだった。
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