『婚約破棄?――では、その責任は王国基準で清算いたしましょう』 ~義妹と継母に追い落とされた令嬢は、王妃となって制度ごと裁きます~

しおしお

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第三十話 王冠の重さ

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第三十話 王冠の重さ

 戴冠式の朝。

 王都は、凍るように澄んだ空気に包まれていた。

 夜明けと共に鐘が鳴り、石畳の道を人々が埋め尽くす。旗がはためき、白い息が立ち上る。

 

 王宮の奥、王妃の間。

 私は静かに立っていた。

 

 侍女たちが、ゆっくりと儀礼衣装を整えていく。

 白銀の刺繍が施された深紅のドレス。
 肩にかかる王家のマント。
 そして、まだ机の上に置かれたままの王妃のティアラ。

 

 

「お重くなります」

 カレンが静かに言う。

 

 

「重くて結構」

 

 

 私は鏡の中の自分を見つめる。

 

 かつて。

 あの舞踏会で立ち尽くしていた令嬢は、いない。

 

 いるのは。

 

 制度を動かした女。

 

 

 やがて、扉が開く。

 

「お時間でございます」

 

 

 王宮大広間。

 

 長い赤絨毯の先に、玉座がある。

 両脇には貴族、使節、聖職者。

 

 ざわめきはない。

 張り詰めた静寂。

 

 

 先に入場するのは、エドワルド。

 

 王冠が掲げられる。

 

 聖職者の誓詞が響く。

 

 

「この王冠は、力ではなく責務である」

 

 

 エドワルドの声が重なる。

 

「王国の基準を守ると誓う」

 

 

 その言葉に、私は小さく息を吸う。

 

 

 次に、私の名が呼ばれる。

 

 大広間の視線が一斉に集まる。

 

 

 私はゆっくりと進む。

 

 

 あの夜と同じ王宮。

 同じ石床。

 

 だが、視線の意味が違う。

 

 

「王妃アウレリア」

 

 

 ティアラが掲げられる。

 

 

 軽くはない。

 

 

 だが、重みは恐れではない。

 

 

「王妃として、王を補佐し、王国の基準を守ると誓います」

 

 

 声は揺れない。

 

 

 ティアラが頭に置かれる。

 

 

 その瞬間。

 

 大広間に拍手が広がる。

 

 

 王妃。

 

 

 言葉が、現実になる。

 

 

 式典後。

 王宮の回廊を歩く。

 

 エドワルドが隣に並ぶ。

 

「どうだ」

 

 

「重いわ」

 

 

「王冠もか」

 

 

「責任が」

 

 

 彼は小さく笑う。

 

「ならば、半分持とう」

 

 

「半分では足りません」

 

 

 私は真顔で言う。

 

「制度を守るのは、二人の責任です」

 

 

 彼は頷く。

 

 

 午後。

 最初の決裁文書が届く。

 

 地方税制改定案。

 

 王妃の閲覧権が正式に発動する。

 

 

 私は椅子に座り、書類を開く。

 

 もう、飾りではない。

 

 

 窓の外では、王都の歓声が続いている。

 

 

 地方。

 

 リリアは戴冠の記事を読み、静かに紙を畳む。

 

 驚きはない。

 

 

「本当に、遠いわね」

 

 

 彼女は暖炉の火を見つめる。

 

 王都とは違う、穏やかな温もり。

 

 

 王都。

 

 私は書類に署名する。

 

 

 強ザマァの最終章。

 

 相手を消すことではない。

 

 自分が頂点に立ち、その基準を動かすこと。

 

 

 窓越しに、王宮の塔が見える。

 

 

 あの夜。

 私は奪われた。

 

 今。

 私は選ぶ。

 

 

 王冠は、ただの装飾ではない。

 

 基準を守るための重さ。

 

 

 私は静かに呟く。

 

「これで終わりではない」

 

 

 王妃としての最初の一日が、静かに始まった。
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